ピョンヤンから感じる時代の風〈26〉日米経済の統合、その異常なまでの進展 魚本公博

◆株価上昇の中で進む日米経済の統合

今、日本では株価が上昇している。6月8日には33年前のバブル期の最高値を超え、3月下旬から「買い」が「売り」を上回る買い越しになり、買い越し額は6兆円に上り、その後も上昇は続いている。マスコミは、その原因を「外国勢の熱気」とするが、その主役は米国の投資ファンドや機関投資家である。

株価上昇をもってマスコミなどは「日本経済復興のチャンス」と言い、親米アナリストの中には「30年前の黄金時代の到来」などと言う人までいる。しかしバブルは必ず破裂するからバブル(泡)なのであり、30年前のバブルも破裂し、その後の「失われた30年」となったのではないか。

問題は、「失われた30年」に呻吟し、貿易赤字も累積する日本経済の実態を前に、何故、米国勢が「日本買い」を始めたのかである。すなわち、米国が米国ファンドに日本の株を買わせ、株価を上昇させる狙いは何なのかである。

そこで考えられることは、経済の日米統合一体化である。

米国覇権の衰退著しい米国は、追い上げる中国を抑えるために米中新冷戦を仕掛け、ここに「民主主義陣営」を結束させ米国を支えるようにすることで覇権回復を狙っている。

日本は、この最前線に立たされており、EUなどが中国との対決に及び腰な中、日本が決定的になっている。そのために日米経済を統合させる。駐日大使エマニュエルは大使就任の是非を問う米議会上院での公聴会で「世界一位の米国経済と三位の日本経済の統合させる」と明言している。

日米統合は、軍事、経済、教育、地方、社会保障などあらゆる分野で行われている。その中でも社会の基礎である経済の日米統合が異常なまでの速度と深度をもって進んでいる。

最近の際立った動きは、軍需産業と半導体産業での日米統合である。軍需産業は安保政策と関連する重要産業であり、半導体は産業のコメとして経済の基礎を規定する重要産業である。その統合は「指揮と開発」の二つの側面で行われている。それを以下に見て行く。

◆軍需産業の日米統合

軍事での統合、その指揮の統合は、昨年12月に決定された「国家安全保障戦略」で、従来の「統合幕僚監部」が持つ3軍への指揮命令権を新設の自衛隊「統合司令部」に委譲した。そして、この「統合司令部」に米国のインド太平洋軍の将官が常駐配備される。こうして米軍指揮の下での指揮の統合が進んでいる。

その米軍の指揮の下、軍需産業の「共同開発」が進んでいる。

昨年12月には、GNPの2%を目標に27年までに47兆円もの軍事費拡大が決定され、反撃能力(敵基地攻撃能力)装備のための開発なども決定された。

反撃能力とは中距離ミサイルを装備するということであり、米国も持っていない極超音速や変則飛行の最新ミサイルを「共同開発」するということになる。

そのカネは日本が出す。カネばかりではない。米国は日本の固体燃料技術に関心があると言われており、日本の技術も米国との「共同開発」で米国に持って行かれることになる。

先の国会で成立した「防衛財源確保法」は、防衛財源確保を最優先して、他の社会保障などの財源を減らし、後代の負債となる国債を発行するものとなっている。

そして同時に成立した「防衛産業支援法」。ここでは、武器輸出が問題になっている。

米国にとって軍需産業は大きな利潤を生む輸出産業だということだ。共同開発したミサイルや武器も輸出しなければ儲けにならないからだ。

そこで「防衛産業支援法」は、武器輸出を可能にすることに主眼が置かれている。

日本は、これまで「武器輸出三原則」で武器輸出は禁止してきた。これを安倍政権時に「防衛装備移転三原則」に変え、米軍との共同軍事活動で様々な装備品を提供できるようにしたが、今回は共同開発された武器の輸出である。そこで考えだされた口実は、「同志国への輸出は、安保協力になり中国抑止に繋がる」というもの。もう一つの口実は、「共同開発されたものは日本の輸出に当たらない」というもの。

こうして日本は武器輸出国にされようとしている。まさに「死の商人」国家化である。

さらに注意すべきは「防衛産業支援法」で、事業継続が困難な企業を一旦国有化することが検討されていることだ。明治時代の官営工場払い下げを髣髴させるが、今回の払い下げは、米国軍需企業の関連会社になるだろう。国民の税金を使って国有化し、それを米国に安く払い下げるということである。

◆半導体産業での日米統合

半導体は産業のコメと言われ、経済の基礎である。その半導体産業も米国との共同開発になる。米国の半導体生産は、DARPA(米国防高等研究計画局)が指揮しており、日米の共同開発は、その指揮を受けることになる。

今、日米が共同で開発・生産しようとしている半導体は、パワー半導体、ロジック半導体などと言われる新世代半導体であり、EVなどの電力制御用にSIS素材(基礎板素材に炭化ケイソSISを利用)を使った最新の半導体である。

この半導体についてはIBMが一昨年、「開発の目途はついた」として、共同生産を持ちかけていたものだ。即ち、基本設計はIBMなど米国企業が担い、日本は部材、製造装置を使って、新半導体を生産するということである。

広島G7を前に米IT企業トップが来日し、岸田首相が彼らと面談し協力を要請したが、そこでimec副社長マック・ミルゴリは「(日本の)世界最高峰の素材企業は大きな力」「政府の全面的、継続的支援が欠かせない」「人材育成や補助金などが政府の役割だ」と述べている。

すなわち、日本の産業力、技術力、そしてカネも日本に出させ、旨味は米国が持って行くということである。

半導体生産には膨大な資金が必要であり、一つの工場だけでも1兆円になる。それを毎年更新しなければならず、総体的には100兆円が必要だとされている。すでに熊本の(台湾積体電路製造)には6000億円、北海道のラピダス工場建設に3000億円の政府支援が決まっているが、広島のマイクロン・テクノロジー、三重県での米半導体大手のギオクシアなどの工場建設でも同様の支援策が取られるだろう。

こうした中、JSR(東洋ゴムから派生した企業で、フォトレジスト(感光剤)で世界シェア3割)を経済産業省所管の官民ファンド「産業革新投資機構」が1兆円で買収した。CEOのエリック・ジョンソン氏は、「この買収はJSRが持ちかけた」としながら「日本の会社は規模が小さい」「初日から再編に向け始動する」と述べ、買収後、非上場にしてM&Aや事業への大型投資を進めると述べている。

要するに日本にカネや技術を出させ、実利は米国が持って行くということであり、東芝の上場停止などと共に警戒を要する事例である。

◆米国による日本企業支配の動き

株高の中で、見ておかなければならないのは、米国ファンド、機関投資家が「物言う株主」いわゆるアクティビストとして、日本企業の指揮権を握る動きを示していることだ。

それは6月に集中した株主総会での米国勢の動きに見てとれる。これまで株主総会の主役は「総会屋」であった。しかし、今年から主役は米国の投資ファンドや機関投資家になった。彼らの要求の基本は、「企業統治改革」である。そのために「社外取締り役」を増やし、「情報公開」し、現経営陣は退陣しろというものである。しかも、その対象はトヨタやキャノン、セブン&アイ、電力会社など名だたる有名、大企業にまで及ぶ。

こうした米国ファンドは「バリューアクト・キャピタル」など米国の「議決権行使助言会社」の指導に従って動いており、米国が官民一体となって日本企業の指揮権を奪い、直接管理することを狙っていることを示している。

今年の株主総会では、トヨタやセブン&アイ フォールディングス、キャノンなどの経営陣の退陣要求は否決されたが、エレベータ大手の「フジテック」、海上建設大手の「東洋建設」などの現経営陣の退陣は可決された。日産もルノー(大株主はフランス政府)からの外部取締役が解任され、IBM勤務の人物が社外取締り役に選任されている。

今年の総会では沖縄を除く8つの電力会社の経営陣がトラスト価格の問題で矢面に立たされたが、会社の不祥事や個別案件などをもって、株主提案による株主総会開催も増え、米国ファンドによる日本企業の支配は今後一層進むだろう。

米国株主が日本企業の指揮権を握るようになれば、それは最早、日本の会社ではなく米国の会社である。日本の名だたる企業が米国の会社になれば、経済全体が米国のものになる。

経済がそのようになれば、日本社会そのものが米国化し日本人も米国化し、日本という国は米国に溶解された国とは言えない「国」になってしまうだろう。

◆日米統合を支援し促進する「骨太方針」

このような日米経済統合をあろうことか、日本の政権である岸田政権が積極的に支援している。

6月19日に発表された骨太方針は、「時代の転換点といえる課題の克服に向け、大胆な改革を進めることにより新時代にふさわしい経済社会を創造する」と謳う。

その大胆な改革とは「新しい資本主義実行計画改訂版」で示す「労働市場と企業組織の硬直化など日本の構造問題」の改革である。

すなわち、終身雇用、年功序列型賃金に象徴される、日本型の労働や企業統治のあり方を米国式の株主資本主義に「改革」するということである。それは米国ファンドの要求と同じものだ。

その上で見逃せないのは、「経済財政運営と改革の基本方針」で、「2000兆円の家計金融資産を開放し世界の金融センターを目指す」(原案では「資産運用立国」を目指す)としていることである。

日米経済の統合のためには、軍需産業や半導体生産で見たように膨大な資金が必要になる。

岸田政権は、そのために社会保障費を削減し増税や後代に負債を強いる国債発行を準備しているが、それでも不足する。そこで目を付けたのが2000兆円の国民資産である。

そのための「資産所得倍増プラン」では「金融経済教育推進機構」を作りアドバイスすることや「資産運用会社の体制強化」「新規参入の支援、競争促進」が盛り込まれている。これまで日本の資産運用は、日本の銀行や証券会社などが行っていたが、これからは米国系の運用会社にも、それを「開放」するということだ。これも米国ファンドの動きを後押しする。

株式投資は投機でありトバクである。その害毒性は30年前のバブル崩壊、その後の「失われた30年」で骨身に染みたことではないのか。それなのに、なけなしの国民の資産まで投機・トバクに回せなどとは、「売国・棄民」行為以外の何ものでもない。

◆日本の企業を守り、日本を守ることが問われている

 
魚本公博さん

トヨタの豊田章男会長は涙ながら留任を支持した株主への感謝を述べたが、その涙には、米国による日本企業の指揮権掌握策動への忸怩たる思いが込められているように思う。

トヨタは、今年の株主総会で米国の投資ファンドがアクティビストとして、現経営陣の退陣を要求してくるだろうと予想し、その対策を立てていた。

トヨタは、中国との関係が深い。対中新冷戦を提起する米国がこれを快く思っていないことも分かっていた。また、トヨタイズムなどトヨタの企業風土、経営方式が米国の求める株主資本主義と合わないことも分かっていたからだ。

そうした米国の意図に対しトヨタを守れと、退陣要求を否決した日本人株主への感謝。さらには日本の企業を支えるべき日本政府の米国ファンドに加勢するような姿勢への無念さなどが込められた涙ではなかったか。

米国が日本経済を統合し、そのために日本企業の指揮権を奪い、それによって日本という国をなくそうとしており、それに抗すべき日本の政府までもが、その策動を後押ししている中で、日本の企業を守り、日本を守ることが切実になってきている。

すなわち愛国。日本と似た境遇の欧州でも世界的な米国離れの中で、自国第一主義が台頭している。これをポピュリズム、極右と決めつけることはできない。そこに「愛国」の心を見なければならないのではないか。グローバルサウスも自国第一主義であり、愛国ではないのか。

私たち国民にとって国とは何か。その重要さに思いを致し、自国第一や愛国を捉え直す、そうしたことが今切実に問われているように思う。

◎ピョンヤンから感じる時代の風 http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=105

▼魚本公博(うおもと・きみひろ)さん
1948年、大分県別府市生まれ。1966年、関西大学入学。1968年にブントに属し学生運動に参加。ブント分裂後、赤軍派に属し、1970年よど号ハイジャック闘争で朝鮮に渡る。現在「アジアの内の日本の会」会員。HP「ようこそ、よど号日本人村」で情報発信中。

『一九七〇年 端境期の時代』
『抵抗と絶望の狭間~一九七一年から連合赤軍へ』

ブラジルにはあって日本にはない「労働者党」── 「労働者虐待」が過ぎる日本にこそ「労働者党」が必要だ! さとうしゅういち

ブラジルのルーラ大統領が、先般のG7広島サミット(5月19日~21日)にいわゆるグローバルサウスの代表として出席しました。

同大統領は「核兵器の非人道的な結果はあまりにも深刻で、 核抑止 に伴うリスクは大きすぎる」と核兵器禁止条約を批准する意向も示しました。世界でも11位とも言われる経済大国でかつて核開発をしたこともある国のトップが核兵器禁止条約を批准すると言ったことは、G7広島サミットにおける唯一といっていいほどの政治的な目に見える成果ではないでしょうか?

ルーラ大統領の出身政党は「労働者党」です。ルーラ大統領は2022年に行われた大統領選挙でボルソナロ大統領から政権を奪還しました。現在、実質最低賃金の引き上げ、児童手当の給付などに尽力しています。

いま、日本において、一番必要とされるのは、名実ともに「労働者党」のような政治勢力ではないでしょうか?

◆非正規労働者4割、奨学金地獄 ──「労働者虐待」政治

日本のこの20~30年はまさに「労働者虐待」政治でした。ご承知の通り、この20~30年、日本の労働者の給料は全くと言って良いほど上がっていませんでした。ここ1、2年、名目での給料はアップされたが、物価上昇に追いついていません。非正規労働者も全体の4割を占めています。民間だけでなく、公務員でも同様の割合で非正規労働者が多くおられます。地方自治体でいえば62万人に達します。

そして、若手労働者の多くが奨学金という名の借金を抱えて苦しんでおられます。こういう状況では、結婚どころではないという人も多い。低賃金や悪い労働条件を放置する、すなわち労働者虐待を続けたことで、労働者の生活困難が生じるのは憲法25条にも反することです。そして、それ以外の弊害も出ています。

◆広島、日本から人口流出

一つは、広島、日本からの人口流出です。例えば、筆者が勤務する介護現場でも、外国人労働者が広島から東京へ流出する現象があります。さらに、最近では日本からカナダやオーストラリアへ日本人が流出する流れも起きています。

人々の暮らしを支える分野から労働者がいなくなるという恐ろしい状況です。下手をすれば、この広島だってゴーストタウンになってしまうのではないか?そういう恐怖心さえ覚えます。

◆介護・保育 ── 「やりがい搾取」でついに「土俵を割って」しまった労働者たち

もう一つはサービスの質の低下です。少し前までは介護や保育など、悪い労働条件でも仕事の「やりがい」から我慢してきた労働者が多かったのです。ところが、最近では、あまりの悪すぎる労働条件にバカバカしくなって手を抜くような現象も、筆者自身が見聞きすることもあります。

筆者自身も前日の夜勤者が利用者様の便失禁を放置しているのに遭遇することがありました。背中まで広がりまるで化石のようにガチガチに固まった便を風呂場でいわば「削り落とす」のに苦労することも一回や二回ではありませんでした。

また、寝返りを打てない利用者様については、きちんと体位交換(スタッフが介助しての寝返り)を2時間くらい置きにしないといけません。それもしていないために、尻や大腿部に褥瘡、すなわち、皮膚に黒い大穴が空き、そのことを背景に入院に至ったケースもあります。これらは不適切介護です。

ただ、傍から拝見していると、最低賃金ギリギリと言うあまりに安い給料で、しかもそれに見合わないきつさのために、これまで我慢していた労働者が「土俵を割ってしまった」感じを受けました。

保育現場では「これまで評判が悪くなかった」保育士が虐待や不適切保育をしてしまうケースも良く報道されています。介護現場からの類推にはなりますが、「ああ、土俵を割ってしまったのだろうなあ」と思いました。

労働者にきちんと対価を払い、適切な人員を確保しないと、「土俵を割る」労働者が続出し、お年寄りや子どもが大変な目にあいます。一方で、労働者もきちんと仕事をするという構図をつくっていく必要があります。  

◆公務 ── 非正規に高度な業務も限界に

自治体は、いまや、会計年度任用職員など、非正規公務員に高度な仕事をさせています。いや、専門性の高い仕事ほど、逆に非正規が多いとさえ感じます。

国家公務員でも、厚生労働省関係は、ハローワークを先頭に特に人々の深刻な悩みに応えないといけない部署がおおくあります。しかし、厚生労働省こそ一番のブラック企業ではないか?と思えるほど、非正規職員が多くおられます。

しかし、それでは、応募する人がだんだん少なくなります。そして、住民・国民サービスの低下につながります。

国も自治体も「これからは少子化で人口が減るから」という理由で公務員を減らしてきました。だが、実際には子育て支援や、格差拡大も背景にした人々の悩みの増大で行政需要は増えています。そこで、非正規公務員を増やしてしのいできました。それも限界に来ています。

◆現役労働者の賃金低迷が年金受給者や地域の飲食店も直撃

さらに、現役労働者の賃金低迷は、年金受給者もマクロスライドによる年金引き下げという形で直撃しています。

また、労働者の懐が厳しいことを背景に、飲食店も厳しくなっています。そこへコロナが直撃したというのが2020年~22年の状況でした。

あるいは、ちょっとした余裕が地域の労働者からなくなっているために、いわゆるニッチ(隙間)産業への需要が低下しています。

◆労働者に余裕ないため子育て支援も焼け石に水

例えば、いわゆる子育て支援施策が、人間関係の悪い職場では、子どもがいる人と子どもがいない、あるいは、子育てが終わった人の間での対立につながっています。しかし、人間関係の悪いことも、賃金・労働条件が悪いことに起因しています。

そもそも、若手労働者の多くが奨学金という名の借金に苦しんでいるのだから、多少の子育て支援など焼け石に水です。

◆「労働者に打撃」与える政策ばかりの総理

こんな中、岸田総理は、「異次元の少子化対策」の財源として社会保険料アップを打ち出しています。しかし、この保険料アップは給料アップを阻害します。若手労働者にとり、打撃でしかありません。

さらに児童手当の為に扶養控除を廃止する方向です。これによって所得税が大幅増税になる労働者が出ます。正直、総理はどこを見ているのか?

このように、今の政治は、現役労働者を全くと言って良いほど政治で顧みていません。政治の力でなんとかできるはずの公務分野でも政府与党と親しい一部大手企業による中抜きばかりで、実際に仕事をしている労働者や中小企業にお金が回っていません。

介護や保育労働者の給料についても、総理は2022年度こそアップしてくれましたが、雀の涙です。そして、2023年度は激しい物価高騰にも関わらず、何もしていません。それどころか、軍事費増加の為に社会保障費のカットをしようとしています。

◆マスコミにも変化

しかし、マスコミにも変化が表れています。5月24日には、NHK総合テレビの朝番組「あさイチ」が会計年度任用職員含む非正規労働者の問題を取り上げました

筆者がかつて所属した「自治労」や現在幹部を拝命しております「自治労連」なども「相談先」として紹介されました。労働組合の意義についても紹介されるようになったことは歓迎すべき変化です。これまでは、「維新」を筆頭に公務員、労働者をぶっ叩くような人たちがマスコミ、特に在版マスコミで持ち上げられてきたことを考えれば雲泥の差です。

今後は、例えば日本の公務員労働者が労働基本権を制限されていること。そのことは、いわゆる先進国を含めて多くの諸外国と比べても異例であること。こうしたことも取り上げていただきたいものです。

 
5月14日、原爆ドーム前で行われたG7サミットに反対する市民集会に参加した筆者

◆あとは「政治」だ!

マスコミが変わりつつある今、課題はやはりなんといっても、政治が変わるかどうかです。公務員の非正規化を進めてきた与党の自民、公明はもちろん、公務員バッシングで票を稼いできた維新は大問題です。しかし、いわゆる既存野党のみなさんも、サービス増強には熱心でもそれを提供する労働者の労働条件についてはあまり関心を払っていなかったように思えます。また、いわゆる野党共闘を背景に日本共産党さんあたりでも、以前のような鋭さがなく寂しいものがあります。

さらに、連合の芳野会長が権力者に阿るばかりの姿勢を見せているため、労働組合全体の印象も悪くなってしまった面もあります。そのことが、また、野党もそれを避けて、労働条件よりもそれ以外のいわゆるポリコレ案件に注力してしまう面もあるのだろうと推測されます。

また、広島の場合は、平和運動は得意でも、労働運動が弱め、という傾向はありました。しかし、戦前に人々の暮らしが厳しくなる中で、満州事変や日中戦争、第二次世界大戦を歓迎してしまった流れがあったことを想起しようではありませんか。

まず、これまでの「労働者虐待」政治をストップし、現役労働者の労働条件を改善し、人々の暮らしを守っていくことが大事です。そしてそういう方向の政治家・政治勢力を伸ばしていく必要がある。特に若者労働者の流出を中心に人口流出が止まらぬ広島において、それは大事ではないでしょうか?

筆者は、その先頭に立ち続ける覚悟です。

もちろん、これまでも、筆者も微力ながら、非正規労働者の皆様の裁判闘争の支援や労働相談にも取り組んで参りました。それと並行して、政治活動も車の両輪で進めていきます。

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
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◎広島瀬戸内新聞ニュース(社主:さとうしゅういち)https://hiroseto.exblog.jp/

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「冤罪被害者」袴田巌さんの無実の訴えを退けた存命の裁判官たちに公開質問〈08〉第一次再審請求を「棄却」で確定させた最高裁第二小法廷の裁判長・今井功氏(現在は弁護士) 片岡 健

国民の大多数から「無実なのに死刑囚にされた冤罪被害者」と認識されている袴田巌さんの再審がついに行われることになった。袴田さんは1966年の逮捕から現在まで57年にわたり、殺人犯の汚名を着せられてきたが、無事に再審が行われれば、無罪判決を受けることは確実だとみられている。

このような状況の中、過去に袴田さんに対し、無実の訴えを退ける判決や決定を下した裁判官たちはどのような思いで、どのように過ごしているのだろうか。当連載では、該当する裁判官たちの中から存命であることが確認できた人たちに対し、公開質問を行っていく。

 
今井功氏。現在は弁護士をしている

8人目は今井功氏。2008年3月24日、袴田さんに対して特別抗告を棄却する決定を出し、袴田さんの第一次再審請求を「棄却」で確定させた最高裁第二小法廷の裁判長だ。

◆「今井氏の略歴」と「今井氏への質問」

今井氏は1939年12月26日生まれ、兵庫県出身。袴田さんの第一次再審請求を「棄却」で確定させたのち、2009年12月26日に定年退官。退官後は弁護士になり、現在は東京都千代田区神田錦町にある『今井法律事務所』に顧問として所属している。この間、みずほフィナンシャルグループの監査役や、みずほ銀行の監査役を務め、2011年6月には、旭日大綬章を受章している。

なお、今井氏が旭日大綬章を受章した際、内閣府のホームページでは、今井氏の「功労概要」が以下のように公表されている。

多年にわたり最高裁判所判事等としてその重責を果たすとともに、我が国司法制度の発展に貢献した

そんな今井氏に対しては、以下のような質問を書面にまとめ、郵便切手84円分を貼付した返信用の封筒を同封のうえ、『今井法律事務所』に特定記録郵便で郵送し、取材を申し込んだ。回答が届けば、紹介したい。

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【質問1】

袴田巌さんは再審が決まり、無罪判決を受けることが確実な状況となりました。今井様はこの状況をどのように受け止めておられますか?

【質問2】

今井様が旭日大綬章を受章された際、内閣府のホームページでは、今井様の「功労概要」が以下のように公表されています。

〈多年にわたり最高裁判所判事等としてその重責を果たすとともに、我が国司法制度の発展に貢献した〉

今井様は、これがご自身に相応しい評価だと思われますか?

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※今井氏の生年月日と出身地、異動履歴は『司法大観 平成十九年版』と『新日本法規WEBサイト』の情報を参考にした。

▼片岡健(かたおか けん)
ノンフィクションライター。編著に『もう一つの重罪 桶川ストーカー殺人事件「実行犯」告白手記』(リミアンドテッド)、『絶望の牢獄から無実を叫ぶ―冤罪死刑囚八人の書画集―』(電子書籍版 鹿砦社)。stand.fmの音声番組『私が会った死刑囚』に出演中。

「絶望の牢獄から無実を叫ぶ―冤罪死刑囚八人の書画集―」[電子書籍版](片岡健編/鹿砦社)

三原本郷産廃取り消し判決、控訴で暴走する広島県・湯崎知事! 緩すぎる産廃規制を放置してきた知事を住民・地元市議会が包囲する! さとうしゅういち

既報の通り、2023年7月4日、広島地裁の吉岡茂之裁判長は、広島県の湯崎英彦知事に対して、三原市本郷町にJAB協同組合が設置した「安定型」産廃処分場の許可を取り消すよう命じました。吉岡裁判長は、産廃処分場の事前審査のプロセスで法律に基づいて調査すべき井戸や川の農業用水取水口を調査しないなど、知事が許可を判断するプロセスに「看過しがたい過誤・欠落」があると断罪。湯崎知事に産廃処分場の許可を取り消すよう命令しました。

◆コンプライアンス意識麻痺「重症」の湯崎知事

しかし、湯崎知事は14日、控訴しました。「法令に則り適正に審査したものと考えており、容認しがたい」という紋切り型の理由です。他方で湯崎知事は「地域住民の皆様の生活環境への影響に対する懸念は重く受け止めており、引き続き、廃棄物処理法に基づき最終処分場への監視指導を徹底してまいります」とコメントしました。

だが、そもそも、事業者が出してきたいい加減な井戸や農業用水の調査をうのみにするという違法行為があったわけです。そのことの認識が知事にも担当課の幹部職員にもないのであればコンプライアンス意識麻痺の「重症」です。そうでなければ県民をなめ切っています。ひょっとすると、その両方なのかもしれません。

◆いい加減な業者、「是正」に手間取るうちに汚染は広がる!

既報の通り、この産廃処分場は、2018年に計画が持ち上がりました。予定地が三原市民の8割の水源地のど真ん中であることから、住民や地元の三原・竹原の市議会も反対。しかし、広島県は2020年4月に処分場の設置を許可してしまいました。

そこで7月に住民が県を相手取って産廃処分場許可取り消しを求める行政裁判を起こしました。また同時にJAB協同組合に対しては産廃搬入停止の仮処分申請を行いました。しかし、いったん認められた仮処分申請が、2022年6月にひっくり返されてしまい、9月に処分場の操業がスタート。2023年6月、ついに処分場から汚染水が流出してしまいました。

6月29日には汚染水が県の調査でも国の基準値を超えていることが確定。県東部厚生環境事務所から操業を止めるよう指導を受けましたが、7月8日にも産廃を運び込んでいます。

JAB協同組合が安佐南区上安で既に運営している処分場(2016年、2020年に広島市が拡張許可、2021年に外資系企業に所有権は売却)では、「熱海」(熱海市伊豆山土石流災害。2021年7月3日発生。死者28人、建物被害136棟、避難者約580人)の3倍の不適切な盛り土が真下にあることが発覚。広島市が安全対策のために公費支出を強いられています。

 
知事の控訴後、新たな個所からも汚染水が検出された(原告共同代表、岡田和樹様のSNSより)

上記のようないい加減な業者にそもそも「是正」が通じるのでしょうか?「是正」できないでいる間にも、待ったなしで汚染は広がります。現に原告住民の調べでも、知事の控訴後にも新たな個所から汚染水が検出されています。

こういう問題は解決着手に遅れれば遅れるほど、問題は深刻化します。香川県の豊島事件が一番の教訓です。1978年に産業廃棄物処分場の事業許可が出てから無茶苦茶な産廃の持ち込みが続きました。1990年にようやく警察が動きますが、産廃そのものは放置。その後2000年に公害調停という形で一応の決着をみましたが、それから23年たった今も汚染は残っているそうです。ぬるいことを行政が言っている間に、処理コストは膨らむのです。

本郷産廃処分場問題はまだ稼働がはじまったばかりです。豊島のようになる前に、許可を取り消すべきでしょう。

◆三原市議会が許可取り消しを求める意見書を全会一致で可決

こうした中、知事への「包囲網」も着々とせばまっています。湯崎知事が本郷産廃処分場の許可取り消しを命令した広島地裁判決を控訴した同じ7月14日(金)、産廃処分場の地元の三原市議会は全会一致(23対0)で県に対して、産廃処分場の許可取り消しを求める「水源の保全に関する意見書」を可決しました。

三原市議会は、県が許可を出す前に、全会一致で産廃処分場反対決議を出しています。三原市民の8割の水源のど真ん中の処分場ですから、当然です。しかし、一般的に日本人は「お上」が決めた既成事実に弱いとされています。そうした常識を三原市議会は打破しました。

この画期的な決議の背景には原告・住民が7月4日(火)の判決後に間髪入れずに三原市議会や市長を含め、関係各方面に働きかけたことがあります。

市議会が市民に寄りそう中で、県民をなめ切って、相変わらず産廃業者に阿る湯崎知事。しかし、知事に対する包囲網は着々と狭まっています。

また、原告団は、控訴から週が明けた18日(火)、早速、広島県廃棄物対策課に抗議しています。改めて、産廃処分場の許可を取り消すとともに、「産廃処分場の土地を県が買い上げ」、県が水源の保全に責任を持つことを求めました。

◆「鞆の浦埋め立て架橋」撤回の湯崎知事に戻れぬなら退場あるのみ

湯崎知事は、2009年の就任直後に、長年懸案となっていた福山市の名勝・鞆の浦の埋め立て架橋問題で賛成派と反対派の間に入って対話を開始。結局、埋め立てではなく、山側トンネルで通過交通を捌くというところを落としどころに、鞆の浦の景観を守りました。あのときの湯崎さんに戻ってほしい。筆者もそういうふうにしてくれると湯崎さんに期待したから最初の選挙では湯崎英彦の名前を投票用紙に書いたのです。

むろん、あのときは、前任者のエラーの是正だったからやりやすいのでしょう。今回の産廃処分場問題は、湯崎知事自身のエラーです。表面的には産廃担当職員のエラーであるにしても、根本的には他の都道府県が産廃規制を強化し、諸外国も輸入規制を強化する中で、緩い規制を放置してきた知事のエラーです。そのことを認めたくないのかもしれません。これが多選の弊害というものなのでしょう。他のことでも「一方的に決めて一方的に後から説明」という木で鼻を括る対応が目立つ湯崎知事。このままでは、ご退場いただくしかないでしょう。

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
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タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2023年8月号
〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌『季節』2023年夏号(NO NUKES voice改題 通巻36号)

クレムリンで何が起きているのか? 飛び交うプリゴジン死亡説とプーチン逮捕の可能性 横山茂彦

反乱を起こしてから3週間以上、ワグネル創始者プリゴジンの行方がわかっていない。そしていま、死亡説が飛び交っているのだ。

「プリゴジンを目にすることは二度とない」

海外のメディアに、アメリカ軍陸軍のエイブラムス元大将はこう話したという。

「公の場でプリゴジンの姿を目にすることは、もう二度とないだろう。彼はすでに死んでいると思う」

これ自体は推測にすぎないが、プリゴジンの死亡説を裏付けるように、ここに来てワグネルの新たなトップが就任するとの噂がある。その人物の異名は「白髪」を意味する“セドイ”、ワグネル創設メンバーのひとり、アンドレイ・トロシェフだ。

反乱の5日後、プーチン大統領がプリゴジンたちワグネル幹部と会った際、プーチンは“セドイ”こと、トロシェフのトップ就任を提案したという。プリゴジンはこれに同意しなかったという。それ以来、ブリゴジンの変装写真などは表に出てきたが、詳しい消息はわからないままだ。

いっぽう、ブリゴジン氏に一味した将官グループへの捜査も、風雲急を告げている。

◆数千人・数万人が取り調べを受けている?

プリゴジンと近いことから、共謀した疑いが持たれているのがスロビキン将軍(ウクライナ侵攻の元副司令官)である。そのスロビキン将軍に二重スパイの疑いが出てきている。ロシアメディアでは、国防省からの仕事として、ワグネルとのパイプ役を命じられていたというのだ。スロビキン将軍は特別軍事作戦だけでなく、シリアでも戦闘経験を持つ経験豊富な指導者で、ワグネルとの交流経験もあるため適任だったからだ。

いっぽう、アメリカCNNは、スロビキン将軍が、ワグネルの秘密のVIPメンバーだったと報じた。英シンクタンク「ドシエセンター」が入手した文書では、スロビキン将軍を含む30人以上の軍や情報当局の高官が、VIPとして登録されていたことが判明したという。スロビギンには、ワグネルとの関係を巡って拘束情報が出ているのは間違いない。訴因はワグネルの反乱の動きを、事前に知っていたという理由にほかならない。

いまクレムリンでは、とてつもない規模の捜査が行われているようだ。

親クレムリンの政治コンサルタントのセルゲイ・マルコフは、テレグラムで「スロビキン将軍が尋問されている。彼だけではない。大規模な捜査が始まった。ロシア連邦保安庁(FSB)の数百人の捜査官が、数千人を取り調べることになる。あるいは数万人になるかもかもしれない。プリゴジンと接触した将軍や将校は全員尋問されるだろう」と指摘している。

ウクライナのメディア「キーウ・ポスト」は「モスクワ治安筋の話として、スロビキン氏は現在逮捕されていないが、捜査には協力している(6月30日)としているが、大規模な捜査が行われているのは間違いない。

プリゴジンのクーデターは、ショイグ国防相とゲラシモフ参謀総長の解任をプーチン大統領に訴えるのが名分だった。プリゴジン氏はロシア軍の支持を得られると見込んでクーデターを起こしたが、スロビキン将軍はプリゴジン氏のはしごを外し、投降を呼びかけたのだった。現在、プーチン氏の命を受けたFSBが、裏切り者をあぶり出している。クーデターをきっかけに、プーチン氏は「中枢にメスを入れることができるし、疑心暗鬼が解消されることになる」と語ったという。

◆独裁者は裏切り者をけっして許さない

かつて、ヒトラー暗殺計画(1944年7月20日事件=ヴォルフスシャンツェ総統大本営爆破)では、事後に数千人が逮捕・処刑されたと言われている。ブリゴジンの反乱も、プーチンと会談するなど平和裏に収められた形だが、そのことがブリゴジンの命運を決めた。いくらおもねってみても、独裁者は反乱者をけっして許さないのだ。

もっとも、ヒトラー暗殺計画はイギリスによるものもふくめると、じつに42回あったとされている。これらの大半は戦後に判明したものである。

すでにウクライナのゼレンスキー大統領に対する十数回の暗殺計画が阻止された(英国情報部)ことを考えると、現在のプーチン大統領も暗殺未遂に遭遇していても不思議ではない。5月30日に起きたモスクワ郊外ノボオガリョボへの8機の自爆ドローンは、明らかに大統領公邸を狙ったものだった。

ここから先はロシア国内、わけてもクレムリン内部の反乱に注目である。

すでにオルガリヒのうち、戦争に疑問を持つ者たちは秘密裡に殺され、ブリゴジンに一味した将官たちは連座する運命にある。だが、ロシア国内においても、反乱の芽はつぎつぎに起きるはずだ。反乱が軍部とクレムリンに波及したときこそ、確実にウクライナ戦争は終局する。

◆プーチン逮捕はあるか?

もうひとつ、プーチン大統領をめぐって政治焦点化しているのが、新興5か国(BRICS)首脳会議への出席だ。

プーチンには、ウクライナへ侵攻(子供の連れ去りなど)で、国際刑事裁判所(ICC)から逮捕状が出ている。(BRICS)首脳会議の会場となる南アフリカは、ICC加盟国である。理論上、南アフリカ裁判所はプーチンが来訪したら逮捕しなければならないのだ(条約履行義務)。

南アフリカのラマポーザ大統領は「プーチン氏を逮捕すればロシアと戦争になる恐れがある」との見解を示した。ラマポーザ大統領が地元裁判所に提出した文書をロイターなどが7月18日に報じたものだ。

BRICSは中国・インド・ロシア・ブラジル・南アフリカで構成され、南アフリカが今年の議長国を務めている。ラマポーザ大統領は、プーチン氏が訪問した場合でも逮捕を回避できるようICCと協議していることを明らかにした。 

南アフリカでは与党のアフリカ民族会議(かつてのネルソン・マンデラ大統領も所属した政党)がロシアと友好関係にあり、ウクライナ侵攻でもロシアへの表立った批判を避けていた。そのいっぽうで、野党は政権の親ロ姿勢を批判しており、プーチンが入国した場合に逮捕するよう政府に求め、地元裁判所に訴えを起こしている。プーチンが逮捕を怖れて会議に出席しないようなら、国際的な求心力も喪失することになる。

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2023年8月号 岸田政権の対米隷属と“疑惑の銃弾”の真相/神宮外苑再開発「伐採女帝」小池百合子と維新の敗北/LGBT理解増進法の内実/ジャニーズ「再発防止チーム」が期待できない理由他

「冤罪被害者」袴田巌さんの無実の訴えを退けた存命の裁判官たちに公開質問〈07〉2004年に袴田さんの即時抗告を棄却した東京高裁の裁判官・小西秀宣氏(現在は弁護士) 片岡 健

国民の大多数から「無実なのに死刑囚にされた冤罪被害者」と認識されている袴田巌さんの再審がついに行われることになった。袴田さんは1966年の逮捕から現在ま
で57年にわたり、殺人犯の汚名を着せられてきたが、無事に再審が行われれば、無罪判決を受けることは確実だとみられている。

 
小西秀宣氏。現在は弁護士をしている

このような状況の中、過去に袴田さんに対し、無実の訴えを退ける判決や決定を下した裁判官たちはどのような思いで、どのように過ごしているのだろうか。当連載では、該当する裁判官たちの中から存命であることが確認できた人たちに対し、公開質問を行っていく。

7人目は小西秀宣氏。東京高裁の裁判官だった2004年8月26日、安廣文夫裁判長、竹花俊徳裁判官と共に袴田さんの第一次再審請求の即時抗告審を担当し、袴田さんの即時抗告を棄却する決定を出した人だ。

◆「小西氏の略歴」と「小西氏への質問」

小西氏は1949年3月27日生まれ、広島県出身。安廣裁判長らと共に袴田さんの即時抗告を棄却する決定を出した後、法務省人権擁護局長、広島地裁所長、東京高裁部総括判事などを歴任し、2014年3月27日付けで定年退官。現在は弁護士となり、広島市中区東白島町で『小西法律事務所』という事務所を営んでいる。

広島県公安委員会で委員を務めているのをはじめ(現在は3期日で、任期は今年7月8日まで)、公益財団法人交通事故紛争処理センターの理事や中国電力の企業倫理委員会の副委員長にも就いており、公共的な仕事に積極的に取り組んでいる様子が窺える。

なお、広島県公安委員会のホームページでは、「公安委員会の役割」について、以下のように説明されている。

公安委員会は、警察の民主的管理と政治的中立性を確保するために設けられており、警察を管理する機能とともに、県民の良識を代表して警察の業務に県民の考えを反映させるという役割も持っています。

そんな小西氏に対しては、以下のような質問を書面にまとめ、郵便切手84円分を貼付した返信用の封筒を同封のうえ、『小西法律事務所』に特定記録郵便で郵送し、取材を申し込んだ。回答が届けば、紹介したい。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

【質問1】

袴田巌さんは再審が決まり、無罪判決を受けることが確実な状況となりました。小西様はこの状況をどのように受け止めておられますか?

【質問2】

小西様が委員を務めておられる広島県公安委員会のホームページでは、「公安委員会の役割」について、以下のように説明されています。

〈公安委員会は、警察の民主的管理と政治的中立性を確保するために設けられており、警察を管理する機能とともに、県民の良識を代表して警察の業務に県民の考えを反映させるという役割も持っています。〉

小西様が裁判官だった頃に出された、袴田巌さんの無実の訴えを退ける内容の決定については、広島県民の良識に沿うものだと思われますか?

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

※小西氏の生年月日と出身地、異動履歴は『司法大観 平成十九年版』と『新日本法規WEBサイト』の情報を参考にした。

▼片岡健(かたおか けん)
ノンフィクションライター。編著に『もう一つの重罪 桶川ストーカー殺人事件「実行犯」告白手記』(リミアンドテッド)、『絶望の牢獄から無実を叫ぶ―冤罪死刑囚八人の書画集―』(電子書籍版 鹿砦社)。stand.fmの音声番組『私が会った死刑囚』に出演中。

「絶望の牢獄から無実を叫ぶ―冤罪死刑囚八人の書画集―」[電子書籍版](片岡健編/鹿砦社)

産廃業者は知事を舐め、知事は県民を舐める広島県の構図 打破へ三原本郷産廃訴訟原告動く さとうしゅういち

地元住民や地元市議会の反対も押し切って三原市の水源地のど真ん中に広島県(湯崎英彦知事)が許可してしまったJAB協同組合が経営する本郷産廃処分場。2022年9月から一部操業してしまいました。そして6月には住民側調査で基準越えの汚染水も確認されました。

◆断罪された広島県の「穴だけ」産廃行政

その産廃処分場の設置許可取り消しを住民らが湯崎知事に求めていた裁判で7月4日(火)広島地裁の吉岡茂之裁判長は知事に対して許可取り消しを命じる判決を言い渡しました。おさらいしますと、法によれば調査しないといけない処分場近くの井戸を調査せず、また農業用水に使われている川への影響調査も不十分なことが「県知事の判断の過程に看過しがたい過誤・欠落がある」と指摘しました。「ザル」というよりも「穴だけ」の行政が断罪されました。

◆原告の要請受け、県も重い腰

原告住民側は4日の判決後、県庁を訪問。広島県(湯崎英彦知事)に対して判決を受け入れて産廃処分場設置許可を取り消すとともに、操業を今すぐ止めさせること、排水の水質検査をすることなどを要求しました。

その際、廃棄物対策課長にも汚染水の匂いをかいでいただくとともに、産廃処分場の様子を撮影したビデオを視聴していただきました。そして、7日(金)には、廃棄物対策課長が住民側に回答。それによると、国の基準を上回る排水が県の検査でも出たため、6月29日に県の東部厚生環境事務所が産廃搬入停止を行政指導していたとのことです。県の内部ですでに29日にやっていたことを、4日の時点で本庁の課長が把握していなかったというのもちょっと呆れた話ではあります。情けないことではありますが、一応、県としてやっと重い腰をあげたということです。

 
産廃搬入の様子(原告団共同代表の岡田和樹さんのフェースブックより)

◆行政指導無視し、産廃の搬入

しかしながら、原告団共同代表の岡田和樹さんによると、7月8日(土)も、産廃の搬入は続きました。(右写真)。この日の午前中に県が電話で午後に立ち入り検査をする旨伝えたところ、県職員が行ったときにはゴミはすべて土で覆われていたそうです。まさに、業者は完全に県をなめています。

◆安佐南区上安でも広島市民に大迷惑をかけた事業者

産廃処分場を運営するJAB協同組合は東京に本社があります。広島の政治を仕切っている宏池会系の議員がこの組合のトップを務めたこともあります。このJAB協同組合は1993年に広島市安佐南区上安に産廃処分場を設置。やはり国の基準を上回る汚染水を流出させるなどの問題を起こし、指導を受けました。さらに、その近隣に熱海土石流(2021年)の三倍もの不適切な盛り土が1998年ころまでに行われていました。

その「犯人」は不明とされています。しかし、そんなことをする動機や能力がある主体は周辺ではJAB協同組合しかない、と地元住民はいいます。

そして、同組合は2016年、2020年にその不適切な盛り土の上に産廃処分場を拡張。所有権を外資系企業に売却しています。

外資系企業は盛り土のことはしらなかったと主張。また、盛り土の大部分が所有者不明のため、広島市は、とりあえず3000万円を負担し、緊急に安全対策工事を行うことを7月7日(金)、発表しています。

もちろん、盛り土を不問にしたうえ、市に情報共有しなかった県、十分に確認しなかった市にも問題はありますが、JAB協同組合が金儲けの為なら何でもあり、のような開発を続けていた企業体質も問われます。

◆産廃業者に舐められる湯崎県知事、しゃんとせい!

広島県の湯崎知事は、11日の記者会見で「排水についてはきちんと是正して、基準内に収まるようにしないといけないし、住民にも説明していきたい」と述べています。しかし、上記にみられるように、当該の産廃業者は、県の指導を無視していますし、安佐南区・上安の処分場でも見られるように反省が見られません。是正とか説明とか、そんな生ぬるい言葉が通用するような相手ではありません。 

◆間髪入れず、住民ら「処分場の土地買い上げ」など知事に要請

こうした状況の中、原告住民も迅速に行動しておられます。原告団は11日、湯崎知事に対して判決に従って改めて処分場許可の取り消しをするよう求めました。

 

さらに、処分場の土地を県が買い上げることで水源の保全をするよう求めています。そして、水質汚染の原因究明と水質の改善、さらには環境手続条例の制定を求めています。

土地の買い上げについては、判決後最初の週末で、原告側内部で話し合い、要望事項として決めたものです。

岐阜県御嵩町の産廃問題では、最終的に処分場の土地を業者が県に無償寄附するという決着となりました。ただ、今回の広島・本郷産廃処分場の場合、県が違法とは言え、許可を出してしまい、それにより、業者も操業してしまったという既成事実があります。なかなか、無償寄附しろと言われても業者は同意しないでしょう。残念ながら買い上げと言うのが一定の落としどころではないか。筆者そう考えます。その際、県知事や知事をチェックできなかった県議らの給料を連帯責任でカットして一部を充てる、引退した元議員には自主的なカンパ(引退していれば公選法上の問題はない)を求めるというのも一案ではあると考えます。

◆県知事に舐められる議会、そして県民

県民を代表して知事をチェックすべき議会もほとんど機能していません。そもそも、議会が機能していれば、議員提案でも、産廃処分場を厳しく規制する条例を出して可決していたでしょう。4期目に入った湯崎英彦知事も議会を完全に舐めています。だから、JAB協同組合のような問題のある事業者の処分場を水源地ど真ん中に許可するという愚行が起きる。もちろん、知事は、県民も舐めていると言わざるを得ない。地元住民が猛反対して三原市議会、竹原市議会が全会一致で反対決議を出したものを平気で許可したことにそれは現れています。

最近の知事は、農業ジーンバンク廃止も一方的に決めて一方的に説明、病院統廃合問題も一方的に案を決めて、一方的に説明など、木で鼻を括る対応が目立ちます。
こうした構造を打破しなければならない。産廃問題はとくに、待ったなしです。原告住民の行動に敬意を表します。

 

◆知事に控訴断念求める署名を!

現在、インターネット上でも知事に法令順守の産廃行政にするとともに、控訴断念を求める署名運動が起きています。知事が業者に行政指導を無視された状態で、控訴して許可を取り消さない、という判断を知事がすればますます、知事は産廃業者に舐められる。それを県民が許せば、ますます知事は県民をなめてしまう。そんな悪循環を止めましょう。右のQRコードからもご賛同いただけます。

【賛同いただきたい要望事項】

1.広島県行政として、法令遵守に立ち返り、県民の信頼回復に努めること。
2.控訴せず、直ちに許可取り消し処分を行うこと。

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
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タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2023年8月号
〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌『季節』2023年夏号(NO NUKES voice改題 通巻36号)

「週刊金曜日」植村隆代表への質問状 ── 安易な謝罪に疑問を感じて 森 奈津子

私が編者をつとめた『人権と利権』(鹿砦社、税込990円)は、おかげさまで5月23日の発売直後より話題の書となり、ネット書店では幾度も品切れと入荷を繰り返し、6月末に配信開始のKindle版をはじめとする電子書籍も、売れ行き好調と聞く。

寄稿や対談でご協力くださった方々と共に力を合わせ、俎上にあげたのは、弱者の人権保護を叫ぶ次の三つの勢力だ。

① 若年被害女性支援団体である一般社団法人Colabo。そして、若草プロジェクト(一社)、BONDプロジェクト(NPO)、ぱっぷす(NPO)。

② LGBTの人権のために闘うLGBT活動家とLGBT団体。

③ 在日外国人差別に対抗するために生まれた、旧レイシストをしばき隊(現C.R.A.C)。別名カウンター、ANTIFA。

出版妨害を警戒しての緊急出版だったが、抗議らしい抗議は、鹿砦社に届いた一通のFAXのみだったと聞く。
 
ところが、発売から一ヶ月近くが経過した6月19日、突然、Colabo代表の仁藤夢乃氏が、ツイッターで『人権と利権』の表紙を批判(ウェブ魚拓https://archive.md/jVcWu)。しかも、私をブロックした状態で、だ。

ちなみに、ツイッターで著名人がこのような名指しの批判をした場合は、それが「犬笛」の役割を果たし、手下のような有象無象が対象の人物を叩こうと群がり、ネットリンチ状態になるのが常ではあるが、どうしたことか、私のところには一人も批判者は来なかった。

[左]謎のタイミングでの『人権と利権』表紙批判ツイート。6月15日には参議院で四党(自・公・維新・国民)合意案でのLGBT理解増進法を通すべく、LGBT当事者である森が日本維新の会の参考人として答弁したことで、どこからか「叩き指令」でも出たのだろうか? [右]ブロックの壁の向こうであれこれ言われましても……(困惑)

それに続き、今度は、「週刊金曜日」が『人権と利権』の広告を掲載したことを仁藤氏に抗議されたとかで、植村隆代表が謝罪。その様子は、仁藤氏が6月27日に写真つきで誇らしげにツイート。

[左]全員がいい笑顔すぎて、正直、ジワりました[右]「週刊金曜日」誌面だけでなく、公式サイトでも謝罪

そして、植村氏は「週刊金曜日」におわび広告を出したうえで、コラム「ヒラ社長が行く」でもColaboに謝罪し、『人権と利権』を重ねて批判。

7月7日にはわざわざ兵庫県西宮市の鹿砦社を訪ね、旧知の間柄であった松岡利康代表に絶縁宣言。つまり「今後は広告掲載はお断り」ということだ。なんだそりゃ?(苦笑)

植村隆氏のコラム「ヒラ社長が行く」vol.223。仁藤氏に叱られてからはジャンピング土下座並みの素早い対応

植村氏の弱腰かつ非礼な対応に関しては、鹿砦社松岡代表が、次の記事で批判を展開している。

【緊急報告!】『週刊金曜日』6月16日号掲載の鹿砦社広告について──『金曜日』への筋違いの抗議に抗議し、一方的に「おわび」文を掲載した『金曜日』のメディアとしての自律性と主体性の喪失を批判します!

【緊急報告!】さらば、『金曜日』! 「私はあなたの意見には反対だ。 だがあなたがそれを主張する権利は命をかけて守る」(ヴォルテール)『週刊金曜日』6月16日号掲載広告問題続報

また、ルポライターの黒薮哲哉氏も、「MEDIA KOKUSYO 」にて「週刊金曜日」とColaboを批判、植村氏と仁藤氏に質問状をメールしている。

『人権と利権』の書籍広告をめぐる『週刊金曜日』植村社長の謝罪、市民運動に忖度してジャーナリズムを放棄

『人権と利権』の「差別本」認定事件、Colabo代表・仁藤夢乃氏と週刊金曜日・植村隆社長に質問状を送付、具体的にどの箇所を問題視したのか?

『人権と利権』の「差別本」認定事件、週刊金曜日・植村隆社長から回答、Colabo代表・仁藤夢乃氏は回答せず

そして、こちらは、『人権と利権』で私と対談してくださったジャーナリスト・須田慎一郎氏の動画。人気You Tube番組「別冊!ニューソク通信」の一本だ。


◎[参考動画]【左派VS左派】仁藤夢乃・Colabo問題が原因で左派分裂!?リベラル本「週刊金曜日」が窮地に追い込まれた“お詫び騒動”とは?

『人権と利権』にご寄稿くださった三浦俊彦東大教授も、須田氏の動画をブログ「三浦俊彦@goo@anthropicworld」でご紹介したうえで、皮肉たっぷりにコメント。

広告:サラシ・ノゾキ・ヤラセ・オワビ・トリケシ
https://blog.goo.ne.jp/3qaiujrrwc87ph/e/1fb94a7b1a7d22037918360842a83629

黒薮氏に遅れて私も、コラム「ヒラ社長が行く」の中で特に理解に苦しむ点をピックアップし、植村氏に質問状をメールしたので、皆様にもご覧いただきたく思う。以下がその文面である。

*     *     *     *     *

植村 隆 様

 はじめまして。
 『人権と利権』(鹿砦社)の編者を務めました、作家の森奈津子と申します。
 突然のメール、失礼いたします。

 貴誌「週刊金曜日」が『人権と利権』の広告を掲載したことで、多くの抗議があり、また、Colabo代表の仁藤夢乃氏からの抗議に対しては植村様直々に謝罪されたとのことですが、残念ながら、私はツイッターでは仁藤氏にブロックされているため、他の方々からその「事件」をお知らせいただきました。
 仁藤氏にブロックされていることからもおわかりいただけるかと思いますが、私は仁藤氏から直接の抗議は受けておりません。
 そんな状況の中、私は「週刊金曜日」7月7日号掲載の植村様のコラム「ヒラ社長が行く」vol.223を拝読し、首を傾げざるをえませんでした。
 大変失礼ながら、理解不能な点だらけでしたが、お忙しいことと存じますので、以下5点に関し、質問をさせてください。

質問1
 コラム「ヒラ社長が行く」の中で植村様は、『人権と利権』を「一般社団法人『Colabo』の仁藤夢乃代表やLGBT関係者を誹謗中傷する書籍」と評されていますが、Colaboの会計に不明な点があることを指摘・批判するのは、決して誹謗中傷ではないと、私は考えます。確かにColaboが掲げる若年被害女性支援の理念は素晴らしいものです。しかし、だからといって、全面的に礼賛しなくてはいけないとなると、それは単なるカルトではないのでしょうか?
 一体『人権と利権』内のどの部分が仁藤夢乃氏への誹謗中傷であると、植村様はお考えになりますか?
 また、「この部分は誹謗中傷ではなく、正当な批判や論評」とご判断する部分がありましたら、ご教示いただければと思います。

 
『人権と利権』の表紙デザインに関してはこのような解釈も……

質問2
 植村様がコラム内でおっしゃっている「LGBT関係者の皆様」とは、どなたのことですか?
 「異性愛者関係者の皆様」「シスヘテロ関係者の皆様」という表現同様、「LGBT関係者の皆様」などという言葉は、私は見たことも聞いたこともございません。植村様は、同じ表現を、「週刊金曜日」のおわび広告でもされていますので、ケアレスミスのたぐいではなく、本気でそのような表現をされているのだと、私は判断しました。
 なお、私は90年代なかばにバイセクシュアルとしてカミングアウトした作家です。デビューは1991年ですが、それ以前には、会社員をしながら、ゲイ&レズビアン解放運動の末端で活動をしてきました(当時はLGBTなどという言葉はありませんでした)。その後も、東京都青年の家事件の抗議集会に参加したり、性的マイノリティ団体の会合に出席したり、団体が発行するミニコミ誌を購読したりしてきました。
 およそ35年前から性的マイノリティの運動に関わってきた私ですら、「LGBT関係者の皆様」などという表現は見たことも聞いたこともありません。『人権と利権』で誹謗中傷された「LGBT関係者の皆様」とは一体何者なのでしょうか?
 どうか、私が納得できる形でのご返答をお願いいたします。もし、可能であれば、その方々のお名前もご教示いただければ、幸いです。

質問3
 『人権と利権』の表紙デザインに関し、植村様のコラムには「同書の表紙には、Colaboのバスの写真。それが傷つけられているように見える」とありますが、実際には、バスの写真の前に置かれたガラス板が割れたデザインであると私は判断しますが、いかがでしょうか?
 また、ある方は次のようにツイートしています。

 「人権と利権」。Colaboバスが破壊されていると見間違えて糾弾しているアホが多い。実際は手前に配置されたガラスだけが割れてる。近年「不可侵と信じられてきたものをガードしているバリアが崩壊しつつあり、不可能だった議論もできるようになった」現状をよく表現できている優秀な作品だろう。
https://twitter.com/nekohachi1/status/1671080920219279365
(ウェブ魚拓)https://megalodon.jp/2023-0710-1752-13/https://twitter.com:443/nekohachi1/status/1671080920219279365

 他にも、バスの背後に巨大なレインボーフラッグが配置されていることから、「LGBTの人権を叫ぶ者たちが、女性の人権を叫ぶ者を抑圧している状況(=女性スペース問題)を示している」と解釈した方もいました。割れたガラスから「利を求める者たちがColaboに群がり、ピザを切り分けるようにColaboを切り分けようとしている状況」と解釈している方も、ネットで目にしました。
 デザインはひとつでも、解釈は様々です。植村様は、これを「傷つけられたバス」と解釈し、さらには、「ナイフでバスが傷つけられた事件は実際に起きており、それを想起させる」とまでおっしゃっていますが、それはいささかうがちすぎであり、印象操作であるとのそしりもまぬがれないのではないかと、私は愚考いたしますが……。
 なお、Colaboのバスが傷つけられた卑劣ないやがらせは私も存じあげていますが、それがナイフによる犯行であると、なぜ、植村様はご存知なのでしょう?……という些末な点は、置いておくといたしまして。
 植村様は、『人権と利権』表紙デザインに関してご自身とは違う解釈をされる方々に対しては、どうお考えですか? 愚かであると思われますか?
 あるいは、解釈は様々であるとご判断されますか? だとしたら、『人権と利権』の表紙デザインを悪意があるものと決めつけるのも、早計ではございませんか?
 その点をどうお考えであるのか、植村様の解釈をお聞かせいただければ、幸甚です。

質問4
 植村様は『人権と利権』に関し、「同書は、LGBTは『生産性がない』という趣旨の発言で批判された杉田水脈氏を繰り返し擁護する」と記されていますが、それのどこがいけないのでしょうか?
 拙稿「LGBT活動家としばき隊の蜜月はどこまで続くぬかるみぞ」では、杉田水脈議員批判が、立憲民主党の尾辻かな子議員(当時)の印象操作ツイートによる大衆扇動であることを、きちんと証拠を並べて論じました。まさに、植村様による批判「同書は、LGBTは『生産性がない』という趣旨の発言で批判された杉田水脈氏を繰り返し擁護する」というような、特定の人物を悪魔化して一切の擁護を受けつけない姿勢をこそ、私は批判しております。
 また、LGBT当事者である私が、LGBTの運動にしばき隊/C.R.A.C./カウンター/ANTIFAと呼ばれる過激な活動家が入り込み、LGBT当事者をおびやかしている現実を憂い、LGBTの運動に自浄作用を求めて、なにがいけないのでしょうか?
 LGBT当事者すらLGBTの運動を批判してはならないというのであれば、それこそカルトではないのでしょうか?
 その点について、ぜひとも、植村様のご見解をお聞かせください。

 
Colabo弁護団の太田啓子弁護士も森をブロック

質問5
 「ヒラ社長が行く」vol.223では触れられてはいないことですが、植村様のご見解をうかがいたい「事件」がございます。
 『人権と利権』で私と対談してくださった加賀奈々恵(ななえ)富士見市議に対し、Colabo支持者(しばき隊系活動家含む)から激しい集団ネットリンチがなされ、それは加賀市議が新型コロナで療養されている間にも続きましたが、これを植村様はいかがお考えですか?
 この集団ネットリンチには、Colabo弁護団の太田啓子弁護士も加わっていたと、私は聞き及んでおります。「聞き及んでおります」というのは、私はツイッター上では太田弁護士にブロックされているからです。つまり、太田弁護士からは私へは、一切の抗議はありませんでした。
 なお、植村様は把握されていることと存じますが、『人権と利権』では加賀市議は主に埼玉県のLGBT条例と女性スペースについて問題提起されており、Colaboや仁藤夢乃代表に関しては一切触れてはおられません。真っ向からColabo問題をとりあげ、批判したのは、ジャーナリストの須田慎一郎氏です。

 以上、お忙しいことと思いますが、ご返答をお待ちしております。
 まことに勝手ながら、お返事は一週間後の7月18日までにお願いいたします。

 2023年7月11日
 森奈津子

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▼森 奈津子(もり・なつこ)
作家。1966年東京生。立教大学法学部卒。1990年代よりバイセクシュアルであることを公言し、同性愛をテーマにSFや官能小説、ファンタジー、ホラー等を執筆。ツイッターアカウント:@MORI_Natsuko
https://twitter.com/MORI_Natsuko

自公蜜月の終焉を決める国土交通相ポスト ── 自民と維新と小池党・それぞれの思惑 横山茂彦

G7サミットで得られた内閣支持率を元手に、総選挙に打って出ようとした岸田政権は、マイナンバーカードの不備で失速。解散は先送りになった。解散自体が自民党総裁選挙を足固めであって、いわば党利以前の私欲にすぎなかったところに、現在の政権のもろさがある。

ここで付言しておけば、日本社会のデジタル化はほぼ不可能だと、われわれは以前から提言してきた。ネットおよびIT経験で、それなりに標準的な水準に居ると「自賛」している筆者ですら、マイナンバーの取得に大変苦労した。筆者の周辺にいる高齢者たちで、ITやSNSを満足に使えている人は極めて少ない。

国民総背番号制の試みは1970年に始まり、90年台の住民基本台帳の失敗を経て、今回が三度目の挑戦である。

なるほど理論的にはカードを一元化し、免許証や健康保険証を統合するのは一見簡単にみえる。しかしこの間の「他人のデータが出てきた」「医療現場では使えない」現象は、デジタル技術とセーフティシステムの難しさを物語っている。写真認証は本当にできるのか? 筆者の手元にあるマイナンバーカードの写真は、駅前の身分証写真用のポラロイドで撮った、じつに解像度の悪い代物である。こんな写真で登録していいのかと思うほどだ。

さりとて、スマホで撮った画素の低い写真を、これまた簡易プリンターにすぎないPC印刷で仕上げるくらいしか、いまや方法がない(かつて愛用した一眼レフを使うのに、2000円以上するバッテリー電池を買い、高額となったカラーフイルムを現像するのは、いかにも不経済だ)。デジタル技術は政治家が思っているほど利便性がなく、使う側の国民も途方に暮れる現実がある。

◆公明党と自民党の蜜月の終わりは、国土交通相ポストの帰趨だ

マイナンバーカードの愚痴に話は逸れたが、岸田政権が解散に踏み切れなかった理由はもうひとつある。東京都議会レベルでの公明党との与党提携の崩壊のきざしである。

国政選挙並みの試金石と言われた都議補選(大田区・改選数2)の結果については、『紙の爆弾』(8月号)の「小池百合子と維新の敗北」(横田一)に詳細が解説されているが、そこで指摘されているとおり「公明党支援なしの影響」が政治的な注目点だった。

都レベルでの自公提携の崩壊は、東京28区(練馬区東部)で自民党が公明党候補を認めない方針に始まった。この東京28区は10増10減によって新設された選挙区だが、足立区議選(自民大敗・公明躍進)など統一地方選の総括から、都レベルでは公明党が立候補を取り下げるかたちでの自公提携は、これ以上看過できないところまできているのだ。これが公明党側の理由だ。

いっぽう、自民党が公明党との提携をスポイルしたい背景にあるのは、もっぱら公明党が独占してきた国土交通相ポストだと言われている。公明党は第三次小泉内閣の北側一雄、第一次安倍政権の北芝鐵三いらい、国交相を自公政権の定番ポストにしてきた。とくに第二次安倍政権以降は、太田昭宏、石井啓一、赤羽一嘉、斎藤鉄夫と、4期連続で独占してきた。この権益が、自民党政治家たちの不満を買っているのだ。

国の基本インフラをささえる公共事業の要が国交省であり、その決定権をにぎるのが国交大臣だからだ。国家予算の大半でもある公共事業はしかし、同じく大きな比重をしめる社会保障費(全国一律の医療費・保険費・福祉費など)とは異なり、個別の事業者が参入するいわば利権が発生する事業である。参入企業はそれぞれに後援会組織を社内につくり、政治的代理人(多くは自民党議員)を支援している。つまり国交省をめぐる基本構造が自民党政治なのである。

いっぽうの公明党も、地域政治を実現するには道路や下水道といった、住民生活に結びついた基本インフラをみずから采配することが不可欠なのだ。ここに自公政権のアキレス腱がある。秋の解散も内閣改造も、この国交相ポストがキーワードになると指摘しておこう。

◆互いに心中したくない維新と小池

もうひとつ、注目しておきたい政局がある。

「小池百合子と維新の敗北」は大田区都議補選の政治的焦点が、神宮外苑再開発問題であったことを指摘する。再開発の背後に、いまや国民的な嫌悪感をもって語られる森喜朗の暗躍があったことに、有権者は敏感に反応したと言っていいだろう。トップ当選の無所属候補は、都民ファーストを脱党した森喜朗の利権告発者だった。

さて、小池党と維新の会の蜜月が噂されて久しいが、今回の選挙で都民(大田区民)は維新に拒否反応をしめした。この結果を見て、政治判断に長けている小池百合子は維新との距離をとりはじめるであろう。小池百合子の狙いは、維新や国民との野合ではなく、自民党政治への軟着陸だと言われてきた(各社政治部記者)。このラインは間違いのないところだが、政変に近い局面が顕われたときに、その判断力がふたたび問われると予告しておこう。

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2023年8月号 岸田政権の対米隷属と“疑惑の銃弾”の真相/神宮外苑再開発「伐採女帝」小池百合子と維新の敗北/LGBT理解増進法の内実/ジャニーズ「再発防止チーム」が期待できない理由他

少子化の真実は貧困問題にあり ── 未来を本気で考えて逆算するなら、わたしたちに何ができるだろうか 小林蓮実

「少子化の真実」。これをテーマにした投稿がネット上で話題にのぼっていたので、今回は書評を休み、この問題について語りたい。

◆金と希望とがそろわなければ出産への挑戦など不可能!

該当の投稿では、政策となっていることもSNSのリベラル系アカウントで言及される内容でも「子育て支援」一本槍だが、実際には少子化の原因は未婚化であり、その要因は若者の貧困であると社会学者は説明していることに触れられていた。

この投稿に対し、さまざまなコメントがつけられる。たとえば、少子化対策を学者でなく自民党の政治家がおこなっていることで、夫婦別姓ですら実現しない現状を嘆く声があった。予算内で解決できる問題しか拾い上げず、反対意見の出ない対策しか打たないのではないかという意見も出ている。これは、少子化対策に限ったことではないだろう。また、出生率について触れる人もいた。

「人口動態統計」をまとめた厚生労働省のデータ(https://www.mhlw.go.jp/stf/wp/hakusyo/kousei/19/backdata/01-01-01-07.html)によれば、出生数は1950年の約234万人、73年の約209万人などと比較すると激減ともいえるように、2019年には約87万人にまで落ち込んでいる。

出生率、合計特殊出生率の推移:1950-2019(厚生労働省)

いっぽう、1人の女性が生涯に産む子どもの推計人数を示す「合計特殊出生率」に目をうつすと、1950年こそ3.65とかなり高くなっているが、73年でも2.14、75年には2.00を下回り、1999年にはすでに1.34にまで下がっている。2019年では1.36だ。

そして、国立社会保障・人口問題研究所の「日本の将来推計人口(平成29年推計)」をもとに、2040年には出生数74万人、出生率1.43になると推計されている。つまり、未来も現在同様、出生率は下げ止まるなか、出生数は減少の一途をたどると予測されているのだ。

より貧困だった戦後に触れ、未来に対する希望がなければ出産しないという問題を取り上げるコメントもあった。

◆相対的貧困率を参考にみる貧困のリアル

相対的貧困率については、たとえば首都大学東京(現・東京都立大学)子ども・若者貧困研究センター長の阿部彩氏が詳細を研究している(https://www.gender.go.jp/kaigi/senmon/5th/sidai/pdf/anzen/01/04.pdf)。

相対的貧困率の推移:1985-2015(厚生労働省)

相対的貧困率とは、収入から税金や社会保険料を引いた手取り収入である「可処分所得」を世帯人員の平方根で割って調整した、「等価可処分所得」に満たない世帯員の割合のこと。これが1985年には12.0%だったのに対し、2000年の15.3%まで上がり続け、03年には14.9%へと下がるものの再び2012年の16.1%にいたるまで上がり続けた。

いっぽう、「年齢層別の貧困率の推移」を見ると、男性では「1985年から2012年にかけて、20-24歳をピークとする『山』が出現。逆に、55歳後半から上昇していた貧困率の『山』が徐々に減少」と説明されている。これでは、貧困化を若年層が訴えても、政治・会社・社会を中心となって動かすような世代や立場の人に理解されることは難しいだろう。意図的に無視されているのかもしれないが。

女性も同様に「1985年から2012年にかけて、20-24歳をピークとする『山』が出現」と説明されており、「高齢期の貧困率は、2015年にも存在するが、1985年よりも高い年齢層で上昇する」と加えられている。

世帯構造別の1985年と2010年代の比較では、男性の場合、勤労世代の貧困率は、ひとり親と未婚子のみ世帯などで大きく上昇。単独世帯、夫婦と未婚子のみなどの割合が増えている世帯でも上昇傾向にあるとのこと。女性では、単独世帯の貧困率は下降しているもののいまだに3割。子どものいる世帯は上昇傾向。ひとり親と未婚子のみ世帯の貧困率は、貧困率がさらに高くなっている。

つまり、夫婦のみか3世代世帯で、誰かが高収入を維持するか共働き、なおかつ食べさせなければならない子どもがいない世帯でなければ貧困に陥りやすいということになるだろう。やはり、結婚したくてもできない、子どもをもちたくてももてないという人が少なからず存在することがわかる。

◆現在と未来の選択肢とは

冒頭の投稿に対するコメントでも、最低賃金の引き上げ、非正規雇用の規制、ブラック企業の撲滅、富裕層への課税を提案するものもあった。これらを求め続けることは重要だが、なかなか実現されることはない。むしろ逆行するような政策が目立つ。

背景としては、まず、労働法制の改悪・規制緩和の歴史があった。特に80年代後半以降、バブル崩壊とともに、賃上げ率は下がり、失業率が上昇。その後、派遣やアルバイト、パートといった非正規雇用の労働者が急増していった。企業はリストラを断行し、非正規雇用で労働者を使い捨てにする。非正規雇用の労働者の割合は、厚労省のデータ(https://www.mhlw.go.jp/content/001078285.pdf)によれば、1984年に15.3%だったのが、2019年の38.3%をピークに22年も36.9%と高い状態となっている。

正規雇用労働者と非正規雇用労働者の推移:1984-2022

その前の時代から、労働運動というものは展開されてはきた。派遣も「派遣村」を機に、問題視する声はあがった。ただし、近年ではパートやアルバイトが増加しており、筆者も過去にフリーランスの労働組合を設立して活動していたが偽装請負も蔓延した。

政治は企業や富裕層の声にばかり耳を傾け、労働運動ですら御用組合が跋扈。そしてこんにちにいたる。

地方に暮らしていると、小中学校の統廃合が進み、子どもどころか人間自体の減少を実感する。未来予測の数値をながめれば、限界集落化直前というわけだ。

たしかフランスで以前、4人産めば働かなくても暮らしていけるような社会保障的な制度があったと耳にしたことがあったが、調べてもなかなか情報を得られない。ただし、ハンガリーで類似のものがあったので、紹介する(https://comemo.nikkei.com/n/nb01fe91dec15)。

40歳未満で初婚であれば約360万円を借りることができ、第一子を出産すると返済が3年間猶予される。その3年以内に第二子を産めば、さらに3年猶予されるうえ、120万円程度の返済が免除される。第三子も産めば、全額免除。日本価値で約1000万円となるそうだ。4人産めば、約2000万円となることもあるらしい。

もし、この社会に上記の制度があったら、個人的には「やけくそ」と面白がる気分とで、今からですら4人以上産むことに挑戦してみようという気にもなるかもしれない。父親がすべて異なってもよさそうだし(笑)。

そもそも地球は人口過多で、発展する国々の増加にともなう食糧危機すら叫ばれる。世界中のそこかしこで人口減少が起こっていることは驚くに値しないことかもしれない。

それでも、社会を現実的に保持するため、国家が存続するなら政治に訴えながら、個人的には食べ物を少しずつでも自力で入手しながらコミュニティの助け合いシステム強化を試みるしかないと考えている。実際には、自らの死後に家やモノがどうなるかという問題をつきつけられはするわけだけれど。

この国の1人当たり実質GDPは2022年、35位となっている。もはや、おりていく社会の見本を目指すという選択をするときがきているのではないか。その前にできることをまたそのままにするなら、「失われた40年」も目前だ。中間層をあつくすることが最適な対策であるという声も無視し、大企業や富裕層、そして政治は外ばかり向いている。権力者が問題だらけであることは、各国をみても同様。ならば、もう私たちは、やっているふりを受け入れ続けることはやめ、「勝手にやって」いい段階ではないか。

▼小林 蓮実(こばやし・はすみ)
1972年生まれ。フリーライター。労働・女性運動を経て現在、農的暮らしを実現すべく、田畑の作業、森林の再生・保全活動なども手がける。地域活性に結びつくような活動や起業も準備中。この国の婚姻制度・家制度に違和感を抱き続ける。未婚、「子なし」。
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