倒産による失業者は特別に早く相談席をまわしてくれる。中畑清に似た失業給付担当者に呼ばれ、手馴れた対応を受ける。
「今ねえ、倒産するところ多いんですよ。中小企業は特に。それでも夜逃げってのはそんなに無いですけど。大変でしょうがお察しします」
社交的な口調で同情してくれる。私は現実逃避気味に考え事をしていた。社長夜逃げ話を漫才のように知人に披露する。暗い顔して話せば暗い話になる。それよりは明るく努めて、聴く相手を楽しませた方がいい。そのためついニヤニヤしてしまった。中畑さんは怪訝な顔をしている。

どうやら離職票が無ければ失業者としても認められない。つまり失業保険も受け取れない。会社は倒産したも同然だが、手続きをしていないから法律上は存続している。社員は実質失業しているが法的には失業者じゃない。「働く会社は無いけれど無職じゃない人、なーんだ?」なんて、なぞなぞに使える。一休さんのトンチじゃないっての。とにかく困る。ニヤニヤしている場合じゃない。といってもどうすればいいんだ。社長は居場所もわからなければ、連絡も無い。

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