政府は穏やかな発言をしている一方、イスラム過激派「イスラム国」に人質2名を殺害されたことで警視庁にはっぱをかけ、千葉県警に合同捜査本部を立ち上げ、海外の情報機関と連携したテロ対策に乗り出している。

◆警視庁が追う「仲介人のニセガイド」

「殺された後藤健二さんは仲介人のニセガイドによってイスラム国に売り渡されたと見られます。それでまずはこの人物の行方を追う作業が始まっています」と警視庁を取材した大手新聞記者。

後藤氏は去年10月25日に「イスラム国」の支配地域にシリア人のガイドと2人で現れたことが確認されている。検問所で一度は制止されたが後藤氏はバスに乗り1人で「イスラム国」の中枢に入った。しかし、これがニセガイドだったとみられる。

「仲介人は自分たちに敵対する国の人間を渡せば、ひとりあたり50万円ほどの金になるといわれてます。ただ、ライバル業者が多いことから一度、仲介すればその名前が知れ渡ることも多く、その情報をまた売り渡す人間もいます。今回の仲介人は一説にはアメリカやイギリスにすでに目をつけられていた人物ともいわれ、エジプトに逃亡したという話も聞かれます」(同記者)

本来、後藤さんが手配したかった現地ガイドは「コーディネーター」とも呼ばれ、運転や通訳、宿泊などの手配を時間計算のギャラで請け負うものだが、トラブルになったときに活躍するのは現地事情に詳しい地元有力者。テロ組織とも交渉できる立場にあるため、こちらは「ネゴシエイター」(交渉人)と呼ばれることもある。今回はこうしたコーディネーターやネゴシエイターらに人脈があるとして、複数の自称記者らが政府に交渉の窓口にと名乗りを上げていた。

◆人質奪還交渉をした事実だけを作りたがる政府の弱みに付け込む

元海外駐在員のジャーナリスト、藤堂香貴氏によると「中東で人質事件があると、政府が奪還交渉した事実だけは作りたがる。それで政府から莫大な手数料を狙った中東ブローカー(交渉人)が出没する」という。

「現地では事件に乗じて金儲けしようと口利きを申し出る者がいるので、ブローカーはその仲介役として暗躍。手付金として数千万円を支払う交渉をして、政府が支払うことになれば、その2~3割をブローカーが手にする仕組み。シリア人のガイドは周囲に“ビジネスになると思って検問所まで同行したが違った”というようなことを話していたという話も囁かれていて、もしかするとガイドは後藤さんをブローカーだと思って接触したところ、ただのジャーナリストだと知って人質に売ることにしたのかもしれません」と藤堂氏。

実際、後藤氏は消息を絶つ直前、知人に「ガイドに裏切られた」と電話をしている。いずれにせよ危険地域では金目当ての自称ガイドが横行しており、これに騙されるジャーナリストが続出している。

さらに危ないのは仲介人とネゴシエイターがグルになっている場合だ。

「人質を取る側と交渉を請け負う側が出来レースをしていると、人質が返ってくる見込みがないのに手付金をもっていく」(藤堂氏)

ほかにもトラブルを装ってガイドの身元バレを防ぐ巧妙なケースもある。ガイドが運転中にわざと事故を起こして、通りがかったテロリストが助けるふりをして人質をさらっていくものだ。この場合、人質は生きて戻れてもガイドの裏切りに気付かないままだというから恐ろしい。

◆外務省に群がる報酬目当てのブローカーたち

テロリストが問題なのは当然ながら、国の混乱に乗じて儲ける連中が後を絶たないことも事態を悪化させている。最新の情報によると日本政府は今回、アドバイザーとして「中東在住の元FBI有力者」を臨時で頼ったという話もあるが、こういう人物もここぞとばかりに報酬目当てで群がってくるともっぱら。藤堂氏によると「実際に役立つのは10人に1人もいないと外務省の人間が漏らしていた」という。

「本来はブローカーに頼らず日本人の工作員がいるといいんです。こういう事態に備えて世界各国に動ける人間を置いておけば、いざという時に頼りになるし、そうしている国は後進国でさえたくさんあるんです。ただ、島国の日本はスパイなど潜入活動に遅れをとっていて、人材育成の段階にすらない」(藤堂氏)

◆世界中に露呈された「海外の危機に弱い日本政府」

結局、動いたのは国内の防犯組織である警視庁。今回はかなりの予算と人員を割いて大がかりなテロ対策に動くようだが、海外事情に精通したスペシャリストは不足していると聞く。

アメリカ政府からは今回、極秘裏に「ヨルダン政府に頼りすぎるな」というアドバイスが日本政府にあったというが、そもそも海外での犯罪捜査に弱い日本は打つ手が限られていた。

かくして、「民間」の自称交渉人が入り込む隙間があったわけだが、まったく役にたたなかったのはごらんの通り。日本政府が海外での危機に弱いことが世界中に露呈したことは、それこそ今後のテロ被害につながりそうだ。北朝鮮の拉致問題が呑気に長い歳月を費やしてしまっているのも頷ける。[ハイセーヤスダ]

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