前回の記事で、スウェーデンで伝統的に愛用されてきた嗅ぎタバコ「スヌース」を紹介しました。唇と歯茎の間に挟んで口の粘膜でタバコを楽しむものですが、「煙を吸わないので健康的だ」とでもいうような能書きが多いので非常に胡散臭いのもまた事実です。

◆EUではスヌース販売禁止

スウェーデン以外のEU欧州連合加盟国ではスヌースは販売禁止されています。理由は「公衆の健康に脅威である」ということです。ASHスコットランドが2007年に発表した『欧州連合はスヌース禁止を取りやめるべきか?』という調査報告からいくつか紹介していきましょう。

スヌースは口に入れて使用する無煙タバコ製品であり、現在ヨーロッパ連合全域で販売が禁止されている。しかしスウェーデンはこの禁止措置を免除されている。スヌースが harm reduction の方策として役立つかどうか、およびヨーロッパ連合が現在行っているスヌースの販売禁止を解除すべきかどうかについて世界中のタバコ規制運動陣営の中で論争が巻き起こっている。

※harm reduction=ダメージを軽減するという意味のドラッグ用語。肺ガンなどのリスクが指摘されている紙巻きタバコの代替品として有効かどうかを議論しているということ。

ASH(Action on Smoking and Health)=禁煙健康増進協会。喫煙の危険を訴える広告キャンペーンなどを展開している団体。1967年設立。本部はワシントン。

◆スヌースの有害成分

スヌースには、発ガン性タバコ特異的ニトロソアミン類(TSNAs)をはじめ多くの有害な物質が含まれており、(中略)スウェーデンのスヌースは北アメリカ、スーダン、インドで売られているさまざまな無煙タバコ製品よりもTSNAs含有量が少なくなっていることがわかっている。

スウェーデン・マッチタバコ会社は、自社のスヌース製品に関して、硝酸塩やTSNAs、鉛、ヒ素、ニッケル、クロムなどの「望ましくない」成分の許容上限値をはじめとした GothiaTek standard 35という品質基準を作り公表している。

スウェーデンのスヌースはニトロソアミンという発ガン性物質が生成されないように製造方法に工夫がなされているということのようです。

嗅ぎタバコに含まれる有害物質のポスターを紹介したサイトがあったのですが、なんだかもう笑っちゃいます。無煙タバコが危険だというよりも、工業化による環境汚染と農業の危険を喧伝しているように思いましたが一応紹介しておきます。

無煙たばこは口腔ガン発生の最大の引き金

ポロニューム210(放射性物質)
ウラニューム235(核兵器の原料)
ニトロサミン(発がん物質)
アセタルデハイド(刺激物質、炎症起爆物質)
カドミウム(自動車のバッテリー剤)
ヒドラジン(毒薬)
ニコチン(中毒性麻薬)
ホルムアルデヒド(防腐薬、シックハウス原因薬)
ベンゾフィレン(発がん物質)

◆肺ガン以外はどうよ?

ASHの報告によると、

・スヌースは紙巻きタバコに比べて、ガンを発生させるリスクは極めて低い。肺ガンリスクを増やすという報告は見られない。

・スヌースと口腔癌に関する研究には明確さが欠けているが、先に述べたように、紙巻きタバコをやめてスヌースに切り替えた喫煙者が喫煙を続けた者より口腔癌リスクが低くなることを証明した研究はない。

・スヌースと膵臓ガン、心臓血管疾患、糖尿病との関連については今までのところ明確な結論が出ていない。

・現在までに発表された研究結果に一貫した結論が出ていないため、スヌース使用者において膵臓ガン、糖尿病、心臓血管疾患が増える恐れを否定することはできない。

大雑把にまとめると、「スヌースによる健康被害を証明できるような証拠はまだない」ということのようです。

リック・ベンダーという口腔ガンの手術で下顎を切除した男性の写真を紹介しておきます。「スヌース 害」で検索したサイトでは必ずこの人の写真が登場します。

口腔ガンの手術で下顎を切除したリック・ベンダーさん

◆結論=ASHの論文は面白い

健康リスクを評価するにあたって、「科学的な証拠」よりも「政治的な運用」が優先されているということを理解するのが重要だなと納得するような文があったので紹介しておきます。

研究者が無煙タバコ会社あるいはそれより大きなタバコ産業とのつながりを申告しているため、それによって生じうるバイアスにより、スヌース使用に伴う健康リスクについての調査結果の透明度と明確さが損なわれている。タバコ産業の資金援助を受けたあるいはタバコ産業と明確なつながりを持つ研究者が行った研究を真の意味で独立の研究とみなすことはできない。それゆえ、研究結果を慎重に解釈する必要がある。起こりうるすべての健康影響についての理解を今後手に入れるには、スヌース使用がもたらす健康影響を検討するために完全に独立の立場で行われた研究を実施する必要がある。

政府も規制官庁も医療業界も、国民の健康よりも企業との利害関係を優先するものであるということですね。世に溢れる「科学的」とされているもののほとんどは、あくまで「意図的で政治的」な何かだと断言します。

それでは次回お楽しみに!

▼原田卓馬(はらだ たくま)
1986年生まれ。幼少期は母の方針で玄米食で育つ。5歳で農村コミューンのヤマギシ会に単身放り込まれ自給自足の村で土に触れて過ごした体験と、実家に戻ってからの公立小学校での情報過密な生活のギャップに悩む思春期を過ごす。14歳で作曲という遊びの面白さに魅了されて、以来シンガーソングライター。路上で自作のフンドシを売ったり、張り込み突撃取材をしたり、たまに印刷物のデザインをしたり、楽器を製造したり、CDを作ったりしながらなんとか生活している男。早く音楽で生活したい。
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