台湾の高速鉄道(新幹線)が財政破綻必至だという。(『フォーカス台湾』2014年12月29日付

台北と高雄間345キロを結ぶ高速鉄道は日本の新幹線技術をそのまま採用し2007年に開業した。車両は日本で見る「新幹線」そのもので、正式名称は「台灣高速鐵路」だが台湾現地でも「新幹線」と呼ぶ人がいるほどだ。切符の自動販売機が台湾独自の機械だったが、台湾語(中国語)を読めない人間にも購入が可能なように工夫が凝らされている。

高速鉄道が走るまで、台北と高雄の移動は飛行機がメインだった。列車では最速でも4時間半かかったからだ。松山飛行場は台北市内にあり、中心部からも至近なこともあり、かつては国際空港だったが今では国内線中心の空港になり、国内移動の手段として飛行機は日本より気軽に利用されている。特に台北ー高雄間は便数も多いから忙しい時には切符なしで空港に駆けつけ離陸20分前に切符を買って搭乗する、1本乗り遅れれば次の便は数十分待てば乗ることができるという感覚だ。だがここ数年は幸い起きていないものの、台北ー高雄間航空路線では、定期的と言ってもいいほど墜落事故が起きていた。何度もこの路線には搭乗したが確かに気流のためか、航空機の機体の具合かわからないけども激しい揺れが必ずやってくる。

そんな事情もあってか、高速鉄道は「安全性」や運賃が安価なこともあり、利用者数は毎年順調に増えていた。それでも財政的に破綻が避けられそうにないという。いったいどういう背景があるのだろうか。

◆李登輝の威光で日本の「新幹線」採用が決まるまでの紆余曲折

台湾高速鉄道の導入にあたっては紆余曲折があった。そもそも台湾は自国の技術だけで高速鉄道走らせることができなかったので、運用実績のあるフランス・ドイツ勢と日本を競合させ一時はフランス・ドイツ連合がが落札しかけていたのだけども、台湾総統も務めた親日派の実力者李登輝の威光で日本の「新幹線」採用が決まったと言われている。

国土交通省やJRは大喜びだった。が、実際に工事に入ると思わぬ困難が待ち受けていた。鉄道の線路を敷設するためには線路や枕木の他に多量の銅線を使う。工事を行って次の日現場に行くと銅線が見事に盗まれているという事件が連続して発生した。銅は転売の価値があるので盗人が後を絶たなかったのだ。その陰で当初の工期が大幅に伸び費用もかさんでしまった。総工費は日本円にして2兆近くになったが、高速鉄道はなんとか運行開始にたどり着いた。

乗客者数は毎年増加しているのに破綻の危機に直面している背景には、負債の返済期限問題がありそうだ。前述の通り2兆円の工費とその他の技術料などを含め高速鉄道を運営する「台湾高鉄」は470億台湾元の負債がある。そしてその償還期限は当初より35年とされていた。利用者が支払う運賃と負債をはかりにかけると、1日に30万人が利用しないと計算が成り立たない。これはどだい無理な計算である。1億2千万の人口を抱える日本でも東京ー大阪間の新幹線利用者は、1日に約40万人だ。総人口2300万人の台湾で1日に30万人の利用者を想定するのは、最初から破綻を織り込んでいたのでは、と疑われても仕方がないどんぶり勘定だ。

同様の無茶な試算による実質的破綻は我々の近くでも起きている。関西空港だ。関西空港は官民共同出資による「関西国際空港株式会社」により、設立運営されたが、高すぎる着陸料ややはり高額すぎる空港ビルのテナント料などが災いし乗り入れ航空会社が伸びず赤字が続いた。5万円で売り出した株価は1円になり、実質的に破綻して、伊丹、神戸両空港と合わせて「新関西国際空港会社」として近く売却が予定されている(詳細は『紙の爆弾』2月号の本山美彦京大名誉教授「アベノミクスと株式民主主義の欺瞞」をご参照頂きたい)。

◆関空、神戸空港と同じく最初から破綻が運命づけられていた

安価に建設できる「浮島工法」があったのにそれを採用せず、わざわざ費用の高い「埋め立て工法」を採用した関西空港は今でも毎日数センチずつ地盤沈下している。大阪中心部から不便な和歌山近くの海の上に土を盛り上げ散々環境破壊をして「日本初の24時間空港」、「アジアのハブ空港」と実現する道理のない絵空事を並べた関西空港だったが、肝心の空港へのアクセス=鉄道は最初から24時間運行する気などさらさらなく、「ハブ空港」として機能するためには施設面でも航空会社にとっての利便性からも全く話にならない代物で、案の定後発の韓国「仁川空港」にその役は持っていかれた。

また、神戸空港はこともあろうに「阪神大震災」後、ろくろく復興も進んでいないのに「市営空港」としてこれまた、神戸の海の上に建設された「元より破綻が運命づけられていた」空港だ。

関西空港当初の建設費用は1.8兆円だったというが、それが正しい数字である確証はない。また神戸空港がどうして震災復興を後回しにして関西空港から見えるような至近距離に造られたのか、そして伊丹空港を含めた3空港を運営する「新関西国際空港会社」が売りに出され、おそらくは外国資本が運営権を入手するであろうことは、単なる1企業の運営権にとどまらない。国内外の航空行政を政府がコントロールできなくなり、企業の意向が優先することを意味する。

台湾の高速鉄道が破綻しても、日本に住む私たちが即困ることはないけれども、身近で同様の「破綻」が起きていることは知っておくべきだろう。そしてその破綻の原因には「無策」もあろうが「政治的思惑」がはっきり見て取れることも認識しておくべきだ。たとえば台湾高速鉄道の運営権に中国資本が参入したらどうなるかを想像してみれば様々な想像が湧くだろう。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ

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