東京大学総長の濱田純一(当時)が「デュアル・ユース(軍民両用技術)」の研究解禁の声明を発表したのは今年の1月16日だった。

濱田純一はその声明の中で「軍事研究の意味合いは曖昧」だが「東京大学での研究成果について、デュアル・ユースの可能性は高まっている」と表明した。

その上で、「このような状況を考慮すれば、東京大学における軍事研究の禁止の原則について一般的に論じるだけでなく、世界の知との自由闊達な交流こそがもっとも国民の安心と安全に寄与しうるという基本認識を前提とし、そのために研究成果の公開性が大学の学術の根幹をなすことを踏まえつつ、具体的な個々の場面での適切なデュアル・ユースのあり方を丁寧に議論し対応していくことが必要であると考える」と結び、「軍民両用技術」研究解禁を容認する声明を東京大学の総長として発したわけだ。

2015年1月16日付け濱田純一東京大学総長(当時)の声明

◆迂遠な表現で「軍事研究」全面解禁を表明した東大総長声明は歴史的な事件である

迂遠でありながら意図するところが「軍事研究」の全面解禁に他ならないこの「宣言」は2015年が、まつりごと(政治)の世界だけではなく学問、教育機関も「戦争」へ向かうことを明言した「事件」として記憶されなければならない。

さらに最近になり、この「軍事研究解禁宣言」以前から、こともあろうに米軍の資金提供を受けた研究が全国の大学で多数行われていたことが判明した。
「研究機関に米軍資金 名城大など計2億円超」(2015年12月7日付中日新聞)

教育・研究の現場では「戦争準備」体制が誰はばかることなく猛烈な勢いで立ち上がっている。

◆「戦争推進法案」賛成の意見を国会で述べたピエロ村田晃嗣=同志社大学長

「良心」も「節操」も入り込む隙間すらない「高等教育機関」の際限なき国家への追従、堕落の惨憺極まりない無聊な絵画の仕上げを担ったのは同志社大学長村田晃嗣(当時)だった。

ピエロを演じる自覚があったのかどうか知らないけれども、私の感覚からすれば「道化者」のような衣装をまとい国会特別委員会中央公聴会に公明党推薦の参考人として「戦争推進法案」賛成の意見を述べた村田は「道化」が過ぎて同志社大学長選挙で落選の憂き目を見た。だが、それをもって「同志社」の良心復活などと喜んでいる方々がいるとすれば目出度たさが過ぎるというものだ。

最後の堤防はつとに決壊し、濁流が日常を飲み込んでいるこの人為災害を感じることができなければ、高等教育機関で教鞭を取っている方々は職を辞したほうが良い。


◎[参考動画]戦争法案【賛成】公述人=公明党推薦・村田晃嗣=同志社大学学長(2015年7月13日)

◆「卑怯な非政治性」をまとった鵺(ぬえ)たちの学府

「戦争」加担に自然科学も社会科学も人文科学もありはしない。2015年12月、大学で教職にあり、戦争に「反対しない」ことは(戦争に)「加担する」ことと同義である。もう、中間領域などない。「YES」か「NO」。どちらにつくか、自身の立場を明確にしない研究者、教育者はすべて戦争に加担する「卑怯な非政治性」をまとった鵺(ぬえ)だ。

否、さらに悪質なのは「戦争推進法案」反対運動が全国で沸き上がり、その中心として国会前で行われた抗議行動に登場した現職・引退した大学教員達だ。政治の「イロハ」も知らぬ学生たちが(おそらく)本能的に「戦争は嫌だ」と起こした行動を自身の「良識派」振り発揮の好機だと姑息にも抜け目のなかった連中は、本質的な「戦争への反対・国家への抵抗」を極力「排除」すべく「坊や」や「お嬢ちゃん」たちに賛辞を投げかけ、「ようやく若者が目覚めた」、「この日を待っていた」などと聞いて居る者が恥を感じるような甘っちょろくも薄っぺらな軽口を叩き続けた。

◆「若者に共感した」と言いつつ、ストも打たず職も辞さない大学の教職員たち

自民党の勉強会で何度も講師を勤めたあの改憲論者さえもがそこにはいた。あんた達は国会の前で学生を持ち上げているけども日頃は大学で何をしているんだ。教授会で「戦争推進法案反対」の決議を提案したのか。まさか学内に公安警察を常駐させていて黙ってはいまいな。学内外でビラを配布しようとしている学生を監視し、弾圧をしてなどいまいな。絶対に。

60年安保や70年安保よりあたかも「優秀」な抗議行動のようにあちこちで吹聴していた東大名誉教授、あんたはいつの時代でも結局時代と寄り添っているだけじゃないのか。そもそもコンサートか何かと見違えるような、あの光景を見てあれが「反政府抗議行動」だと本気で感じていたのか。だとすればあんたの得意な打算は完全に的外れだ。あんたは完全に勘違いしている。救いがたく。だから本音をちょっと発語しただけで総叩きにあったじゃないか。

「戦争推進法案」に反対して教職員組合がストライキを打った大学があるか。職を辞した教員がいるか。自分の仕事や体の一部でも「賭けて」闘った教員がいたら教えてくれ。

年末の流行語大賞の候補に戦争推進法案反対に関係する「○○○○」や「××××」が選ばれたといって喜んでいる愚民たち。そこにニコニコしながら加わる澤地久恵。広告代理店と資本によって回収されていく情報商品に選定された「戦争反対」は滑稽ではなく恐ろしさを強いてくる。怖いのは権力や資本じゃない。誰にも指示されずに、アルバイト代ももらわずに権力代行業に余念のない(しかも本人には悪意が全くない)スタイリッシュでカッコよく「普通」な人。「普通の人」が織りなす「パレード」や「フライヤー」だ(「デモ」や「ビラ」はダサいから排除される)。

東大総長の「軍事研究解禁」と同志社大学長の村田の国会における希代の「戦争賛成」発言。そして戦争に「反対」しているはずで9条改憲は賛成で、リベラルで「自民党感じ悪いよね」なのに安倍政権打倒と言ったら「過激」だと怒る人達。
ビルの横でニンマリウインクしているジョージ・オーウェルと目が合った。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

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