キックボクシング創設50年の過去において、数年毎に一人は革命を起こす輩が現れてきました。大きな節目では、キックボクシングを創った者、衰退から脱する為、統合団体を興した者、そして有り触れた新団体ではなく、新展開に打って出たのが元・日本フェザー級チャンピオン、小野寺力氏でした。

記者会見での那須川天心18歳のコメント風景

2005年10月、小野寺氏自身の引退興行から始まったNO KICK NO LIFE興行を今年6月まで継続し、これを基盤として始まったKNOCK OUTですが、新日本プロレスの業績をV字回復させたことでも有名な (株)ブシロードの強力なパートナーを得たことが最大の原動力となりました。

会見で顔を並べる木谷高明氏、花澤勇佑氏、小野寺力氏

9月14日(水)に渋谷のTSUTAYA O-EASTで行なわれた「KNOCK OUT発表記者会見」ではステージ上に(株)ブシロード代表取締役社長・木谷高明氏、ブシロードから新たに立ち上げた興行会社(株)キックスロード代表取締役社長・花澤勇佑氏、RIKIXジム代表・小野寺力氏、スペシャルサポーター・紗綾氏、初回興行出場予定選手・那須川天心、梅野源治、両選手が並びました。

設立経緯については、2年ほど前に、木谷高明氏が友人から紹介されたという小野寺氏との交流から始まり、NO KICK NO LIFE興行のTOKYO MX TVでの放送に至り、その結果、高評価を得たことに繋がります。

梅野源治の公開ミット蹴り

初回興行は12月5日(月)、東京ドームシティ(TDC)ホールに於いて、梅野源治、那須川天心、T-98(今村卓也)、大月晴明が出場予定となっています。来年は年間6回の興行が予定されており、TDCホール、大田区総合体育館を中心に開催。出場選手は各団体、ジム・プロモーションの協力体制を作り上げていくというものです。来年1月より、TOKYO MX TVにて毎週レギュラー放送も決まっています(時間枠は未定ながら、30分枠が妥当の模様)。

記者会見で木谷高明氏が語られた中、インパクトある重要点を簡潔に纏めますと、

3日後の試合を控えての減量中のミット蹴りを終えて、KNOCK OUT出場への抱負を語る梅野源治

「日本は今、国を挙げてスポーツビジネスのGDPを上げようとしており、アメリカのスポーツマーケットは60兆円ある反面、日本は5~6兆円しかなく10対1以下です。KNOCK OUTは最初の2年くらいは赤字だと思いますが、いずれスポーツコンテンツとして世界に売れて、大きなビジネスになると信じています。そうなれば選手のギャラも上げることができます。」

「今、キックボクシングは上位概念が無く、プロレスならWWEがあり、総合格闘技ではUFCがありますが、キックは世界でも団体が乱立していて、可能性の話としてしっかりした上位概念が作れればとんでもないビッグビジネスになるということです。」

「選手のチケット手売りをやめさせ、誰が出るか発表しなくてもチケットが売れるようにしたい。手売りをやってる限り先は無く、手売りは供給側の事情で、お客さんの需要側に立ってないことです。」など。

この発表記者会見後、1試合のみの公式試合、実質KNOCK OUTの最初の試合となります。森井洋介はタイトル歴も豊富なベテラン選手。高橋一眞は4月にNKBフェザー級王座決定戦で村田裕俊(八王子FSG)に敗れているところ、村田でなく高橋一眞が選ばれたところに、このイベントに相応しいと判断された期待感があります。

2度目のダウンを奪うラッシュを掛ける森井洋介

◆59.5kg契約 5回戦

全日本スーパーフェザー級チャンピオン.森井洋介(ゴールデングローブ/59.4kg)
.VS
NKBフェザー級1位.高橋一眞(真門/59.5kg)

勝者:森井洋介 / TKO 1R 2:50 / カウント中のレフェリーストップ

開始早々からパンチとローキックの激しい攻防でした。高橋のパンチが森井の顔面を捕え、蹴り負けない展開。「なかなかやるなあ」と思わせたところ、森井も高橋の出方を読めた頃、高橋のヒザ蹴りに左フックを合わせ、スリップダウン裁定ながら高橋にダメージ与えました。更にパンチ連打で2度のダウンを奪い、高橋は立ち上がろうとするも、足に来てフラつき崩れ落ちたところをレフェリーストップ。勝負に急ぎ過ぎの感がありました。昔の5回戦慣れした選手ならKO率高い選手でも初回からラッシュしなかったと思いますが、KNOCK OUTを意識せず、初回は様子見に進めてもよかったと思います。

森井洋介が高橋一眞をKNOCK OUTした瞬間

森井自身もKNOCK OUT出場をアピール

12月5日(月)東京ドームシティホールにて開催の「KNOCK OUT 」での決定カードは、
スーパーウェルター級超 5回戦
T-98(=今村卓也/クロスポイント吉祥寺)vs長島自演乙雄一郎(魁塾)
&
5回戦(ライト級超を想定)
大月晴明vsスターボーイ・クワイトーンジム(タイ)

他、那須川天心、梅野源治が出場予定で、今村卓也は現・タイ国ラジャダムナンスタジアム・スーパーウェルター級チャンピオンであり、10月9日(日)に現地・ラジャダムナンスタジアムで初防衛戦が予定されています。また梅野源治は10月23日(日)にディファ有明でのREBELS興行で、タイ国ラジャダムナンスタジアム・ライト級王座挑戦試合が控えており、こちらも王座奪取して、KNOCK OUT主催者としては二人の日本人ラジャダムナン現役チャンピオンを揃えたいところでしょう。

スターボーイは元・WPMF世界スーパーフェザー級チャンピオンで、今年3月12日のNO KICK NO LIFEで梅野源治にヒジ打ちでダウンを奪って引分けた選手。

森井洋介も高橋一眞をKOし、12月5日出場を希望、「打倒ムエタイで強い選手とやらせて貰えれば激しい良い試合ができます」とアピールしました。

KNOCK OUTテーマソング制作したBRAHMAN(の一人)、ハリー杉山氏、石井宏樹氏が紹介される

公式リングアナウンサーに選ばれたのはNO KICK NO LIFEでも登場したハリー杉山氏、テレビ解説者に元・ラジャダムナン・スーパーライト級チャンピオンの石井宏樹氏が務めます。

木谷高明氏の会見で、興味深かったのは競技時間の長さや放送時間帯についてでした。

「人が集中して試合を観ていられるのは6~7試合が限界です。通常はこの試合数でいく予定です。」

また放送時間帯についても「MX TVでの放送も深夜に至らない、サラリーマンが帰宅して何か面白いものやっていないかチャンネルを選択している時、偶然キックを見つけてチャンネルを合わせる可能性ある時間帯を目指したいところです。」と語られたところなど、帰宅後、テレビ欄も見ていない一般人がリモコン持ってチャンネルを選ぶ中での偶然性を狙うところは、さすがの感性でしょう。

ラストはいつものリング上での御挨拶の小野寺力代表

“6~7試合”も、前座からメインまで5回戦を組み合わせた全32ラウンド以内が妥当なところと感じます。

前途洋洋と船出したKNOCK OUTですが、既存の団体等がどういう反応を示すか、今は若いジム会長が増えた時代で団体の垣根もあまり感じず協力的なジムが多いので、マッチメイクもあまり難しくないでしょう。イベントとしての“大成功”率は高いと思いますが、競技として、「プロボクシングを越えられるか」という視点で見ていくのも重要なことかと思います。KNOCK OUT興行だけで克服できる問題ではありませんが、その先陣を走るKNOCK OUTがキック業界を率いることになれば新たな面白い時代に入るでしょう。

恒例の集合写真撮影で締め括り

[撮影・文]堀田春樹

▼堀田春樹(ほった・はるき)
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」