トレーナーとしてセコンドとして後輩を育てる鴇稔之氏(2017.4.16)

先日、元・日本バンタム級チャンピオンの鴇稔之(とき・としゆき)さんがフェイスブックに於いて、キックボクシングの免許制度案について想いを述べられていました。その文面を引用させて頂く形で、過去記事と重複する箇所はありますが、改めてこの事案を取り上げてみたいと思います。キックボクシングが誕生して50年あまり、もっと早く、みんなが真剣に考え実現に動かなければならなかった課題です。

日本ではキックボクシング業界がまとまって共通のライセンス制度を取り入れたい意見は古くからある中、現在はどの団体もプロ選手に関してプロ・テストはやっていますが、内容に関してばらつきがあり、一定のプロ・レベルに達していないプロ・テストもあるのかもしれません。

日本バンタム級チャンピオンとして4度防衛した鴇稔之氏(1992.11.13)

◆命を守る国家的ライセンスの威力!

一般社会では、各種免許には国家試験が実施されますが、そこには人の命に係わる事由があり、知識と技術が要求される為、自動車免許にしても医師免許にしてもフグの調理師免許にしても、素人がそれらをやる事によって、人が死に至ることも有り得る事柄に関しては、国の免許制度が導入されている訳です。

スポーツに於いては、プロボクシングはJBCによるプロテストの下、各種ライセンスが能力に応じて与えられている基盤がしっかりした競技であり、キックボクシングに於いては、どこも任意団体で、制度が整備されなければならない危険度高い運営環境にあります。

キックボクシングはボクシングに比べれば死に至るケースは少ないものの、怪我をする確率はボクシングより遥かに上回ります。試合においての骨折はよく起こることで、それは競技性の内容にもよりますが、キック各団体やレフェリー団体、指導のされ方によっては適切な処置が出来ないレフェリーが居ることにも原因のひとつがあり、ジャッジにも不適切なジャッジメントのせいで選手が引退してしまったり、会場で見受けられる客同士のトラブルや、関係者の士気をさげるような言動など、興行的にも選手や関係者の意識の低さで、あってはならない事態も度々起こり、なかなかメジャースポーツの仲間入りが出来ません。

また、「ジムの会長は業界育ちではなくても資金があればジムを開設出来る」というのが現状で、キックボクシングが好きでお金があるというだけでジムをやっている会長も居るのも事実です。そこは経営者たるもの、格闘技の知識や一般常識を持ち合わせなくてはいけません。例えば他のスポーツで、野球やサッカーで選手経験の無い人が監督を務めることはありません。

選手の命を守ること第一に、興行のトラブルを未然に防ぐ為にもキックボクシング業界は選手、オーナー、セコンド(トレーナー)、役員に、団体ごとではない業界統一レベルでライセンス制度を取り入れたい現状で、こういうところにも国家的ライセンスの威力がないと整備できない現状があります。

キックボクシングは決してつまらないスポーツではなく、かつてのテレビ放映が長く続いた昭和の時代や、後の「K-1」、現在の「KNOCK OUT」もテレビ番組の反響を見ればその素晴らしさは誰もが理解出来るでしょう。人気だけが先行して組織の基盤は軟弱なのが、キックボクシングと新興格闘技の現状です。

◆タイ国ボクシング法

タイ国では、政府に観光・スポーツ省があり、傘下にあるボクシング・スポーツ委員会は、公務としてコミッションに相当する役割を果たしています。この管轄下にあるのがタイ国ムエスポーツ協会で、プロボクシングを含みます。

1999年に制定されたタイ国ボクシング法では、規定のムエタイレフェリー公式講習に合格すると国家資格として、タイ国観光・スポーツ省が認定する正式なムエタイレフェリーとしてライセンスを交付されます。こういう構築した国家的ライセンスはは魅力的存在でしょう。

願わくば、日本もタイ国のようにスポーツ庁が定めてくれるのが望ましいところですが、それはまた利害が絡む別次元の複雑な問題があり、プロ競技に係わってくることは、おそらく10年以内では難しいところ、全ての団体が集まって統一ルールの下、将来的に国から認可されやすい環境を作っていくことを最優先に整備することが望ましいところです。

ムエタイレフェリー講習で指導するブンソン・クッドマニー陸軍大佐、タイの国家的業務です(2017.9)

終了証を得た新人レフェリー達、タイの国家的ライセンスです(2017.9)

◆理想のスタジアム建設

数年前、ライセンス制度の話をキックボクシング生みの親、野口修会長と語り合った鴇稔之氏は、「キックボクシング専用のスタジアムがあれば、タイのラジャダムナンスタジアムやルンピニースタジアムのように各団体をプロモーターに見立ててランキングを統一出来るようになります。」という前例を語り、それでスタジアム建設の話が盛り上がって来たところで、野口修会長が2016年3月に亡くなってしまったので、立消えてしまったということでした。

ラジャダムナンスタジアム館内、世界に知れ渡った殿堂です(2017.5.25)

数々の代表の立場で語った野口修氏、もうひとつ大きな仕事を残していましたが(2014.3.9)

鴇氏は「今後、何とか話を再燃したいです。それは私でなくても、やれる人がやればいいのです。」と語り、団体乱立が長く続いたキックボクシング界では、「今後も誰かが強力な団体を立ち上げてもあまり意味が無く、設立者が亡くなられたり、資金が尽きれば消滅や弱体化し、また分裂に至ります。」とも語られています(私の過去記事と同意見)。

スタジアム制の場合、支配人の交代があっても立退かない限りはスタジアム自体が無くなることはなく、タイの二大殿堂のように、ここに集まる観衆が群集の力となって支持が働けば自然と最高峰と成る可能性を持っています。

都心に極力近い地域にキックボクシング・スタジアムが建設されれば、国内統一と世界から注目される格闘技殿堂は実現できるかもしれない、そんな莫大な資金が掛かる建設計画も一度は可能性ある話が進んでいたことに関心が持たれる今、ぜひ実現に向かって欲しいと願う昭和のキック同志達であります。

▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

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