「忘却」が許されない事実がここにある──『NO NUKES voice』19号明日発売

 
3月11日発売開始!『NO NUKES voice』19号〈3・11〉から八年 福島・いのちと放射能の未来

「忘却」は人間が生きる上で、必要上生じた脳の機能ではないだろうか。「忘れてしまう」のは、うっかりしていたり、認識や興味が薄い対象ばかりではない。心が引き裂かれんばかりに傷ついた体験ですら、時間の経過は「忘却」しないまでも「緩和」させる効果を持つ。そうでなければ、人生で生じる苦難や悲しみの数々から、いつまでたっても人々は、自由になることができず心が押しつぶされてしまうことだろう。

人間がもつ「忘却」という特性を、熟知し利用するのは権力者たちであり、支配者たちだ。内容が希薄になるのと反比例し、日ごとに速度を上げる情報通信速度と、それに付随するテクノロジーは、ほとんど人生にとって「無意味」な情報を受け手に押し付けることにより、さらに「忘却」の速度を増す。

そんな時代でも情報産業で、長きにわたり重用される人物は、庶民からは「警戒対象者」とみて間違いないだろう。政界を引退したはずの橋下徹や、どんな立場の論陣も張ることができる佐藤優。何でも知っていそうで、その実何事も本質に迫らない池上彰。空疎な言論にしか過ぎないのにどういうわけか「知識人」の範疇に入れられている津田大介。誰とでも仲良く対話をこなし「すごいですね」を連発する『天皇陛下の味方です』の著者にして、新右翼からの似非転向者鈴木邦男。

右から右まで(左までではない)、嘘つきで、場面に応じて適当な発言をする人間ばかりであることが特徴である。これらの人物が極右月刊誌ではなく、商業新聞や週刊誌などに登場しつづけるのは、上記いずれの人間にも「確たる思想」がないからともいえる。上記各氏に「原発の存続をどのように思うか」と聞けば、ほとんどの人物が「原発には基本反対」と回答するだろう。しかしこの人たちが日ごろ繰り広げる言論を、注意深く観察すれば、いずれもが本心で「原発」に反対などしていないことが明白にわかる。

わたしたちは、2011年3月11日以前の彼らの言動を「忘却」してしまっているのだ。あるいは彼らの巧みな変節術に幻惑され続けているともいえよう。そういえば、彼らに似てはいるが、一時の注目だけで頓挫した小池百合子も、知事選挙に出馬の際は「将来的に原発の停止」を主張していた。

そして、もう少し昔にさかのぼれば、小泉純一郎や小沢一郎がこの時代を作るのに果たした、極めて大きな罪をも「脱原発」は免罪してしまっている。小泉の人物評価については本誌執筆者の中でも、大きく分かれるところではあるが、イラク戦争に自衛隊を派遣した人物であることを、郵便局を解体した人物であることを、「人生いろいろ企業もいろいろ」と、雇用の自由化(非正規雇用の拡大)を進めた人物であることを勘案して、総合的な評価は下されるべきだろう。

小沢一郎にいたっては、80年代から彼の行動を「忘却」していない人々にとっては、「リベラル」、「庶民派」などの評価は、悪い冗談にしか聞こえない。小泉が力を持つはるか前に、自衛隊の海外派兵への道筋を作ったのが小沢であり、田中角栄直伝の政治手法で国民を恫喝しまくっていた姿は「忘れ」られない。

さて、愚痴ばかりを並べる老人のように、人物をけなしてきたが、上記の人々がわたしとは異なる価値観により、一定の評価を得ているのは「忘却」に原因があるのではないか、との例を示したかったからである。大阪では知事と市長が入れ替えを目論んだ選挙が行われるという。

一度住民投票で否決された「大阪都構想」を実現するためだそうだが、これほど馬鹿げた選挙があるだろうか。「何を寝ぼけたことを言っとるんじゃ!」と本当であれば、大阪人は怒らねばならないはずだと思うのだが、どうもそのような雰囲気は伝わってこない。「忘却」は進行すると「思考停止」さらには「便乗」へと行動を進行させる悪例かもしれない。しかして、大阪ファシズムは定着してしまった。

わたしたちが「忘却」しようが、しまいが、化学物質の存在に変化はない。放射性核種の毒性をごまかすために、多様な流言飛語が飛び交おうと、東京五輪が行われようと、汚染の実態は変わらない。「忘れる」のは人間の勝手だが、ばらまかれた(ばらまき続けられている)放射性物質は、議論の対象者ではなく「物質」として拡散されたまま、そのほとんどがほおっておかれている。

いわんや炉心から溶け落ちた燃料(デブリ)は泰然自若として、福島第一原発の地下に居座り続けている。東電や政府は無謀にも、デブリを「取り出す」予定だそうだが、人類史上例がない毒物の塊を、「取り出して」どこに持ってゆくつもりなのだ。どう保管するつもりなのだ。

「忘却」したくとも「忘却」が許されない事実がある。動かぬ事実を確認するために『NO NUKES voice』19号が明日発売される。特集は【福島・いのちと放射能の未来】だ。「忘れかけている」方、「忘れてはいない」方にも是非お読みいただきたい。小沢一郎との今後の関係が注目される山本太郎議員の発言は必読だ。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

〈原発なき社会〉を目指す雑誌
『NO NUKES voice』Vol.19

3月11日発売!
A5判 総132ページ(本文128ページ+巻頭カラーグラビア4ページ) 
定価680円(本体630円+税)
 
総力特集 〈3・11〉から八年 福島・いのちと放射能の未来
[グラビア]
双葉町・100回目の一時帰宅(大沼勇治さん
あれからもう八年にもなるのに(佐藤幸子さん

[講演]山本太郎さん(参議院議員)
原発は経済・生活の問題です──たんぽぽ舎での一問一答講演から

[報告]大沼勇治さん(双葉町原発PR看板標語考案者)
脱原発・明るい未来のエネルギー

[報告]布施幸彦さん(ふくしま共同診療所院長)
被ばくした人々の健康を守る

[報告]佐藤幸子さん(「子どもたちのいのちを守る会・ふくしま」代表)
あの日のことは鮮明に覚えている

[報告]伊達信夫さん(原発事故広域避難者団体役員)
《徹底検証》「東電原発事故避難」これまでと現在〈3〉
「避難指示区域」「屋内避難地域」報道のあり方

[報告]横山茂彦さん(ツーリング洞爺湖元代表、著述業・編集者)
われわれは三年前に3・11原発事故を「警告」していた!
環境保護をうったえる自転車ツーリング
【東京―札幌間1500キロ】波瀾万丈の顛末【後編】

[報告]森山拓也さん(同志社大学大学院グローバル・スタディーズ研究科)
日本の原発輸出とトルコの『沈黙しない人々』

[インタビュー]足立正生さん(映画監督)
地獄の釜のフタのうえで踊る人々に会った

[インタビュー]淵上太郎さん(「経産省前テントひろば」共同代表)
民主主義的観念を現実のものにする

[報告]三上 治さん(「経産省前テントひろば」スタッフ)
今年は原発が問われる年になる 持久戦だって動くのだ

[報告]山崎久隆さん(たんぽぽ舎副代表)
20年運転延長が許可された東海第二
老朽原発の危険性とはどういうものか

[報告]尾崎美代子さん(「西成青い空カンパ」主宰、「集い処はな」店主)
美浜、大飯、高浜から溢れ出す使用済み核燃料を関西電力はどうするか?

[報告]山田悦子さん(甲山事件冤罪被害者)
山田悦子の語る世界〈3〉死刑と原発(その2)

[インタビュー]志の人・納谷正基さんの生きざま〈2〉

[報告]板坂剛さん(作家・舞踊家)
悪書追放キャンペーン 第二弾!
ケント・ギルバートの『日本が世界一の国になるために変えなければならない6つの悪癖』

[報告]佐藤雅彦さん(翻訳家)
原発と防災は両立しない! 生き続けたいなら、原発を葬り去ろう!

[報告]再稼働阻止全国ネットワーク
原発は危険、老朽原発はもっと危険(事故を起こす)
西(関西電力)も東(東海第二)も老朽原発を止めよ!
安倍内閣の弱点は原発だ!(原発輸出は総崩れ)
《関西電力》木原壯林さん/《若狭》中嶌哲演さん/《東海第二》柳田 真さん
《日本原電》久保清隆さん/《東京電力》渡辺秀之さん/《福島》山内尚子さん
《四国電力》秦 左子さん/《規制委》木村雅英さん/《読書案内》天野惠一さん

https://www.amazon.co.jp/dp/B07NRLKDLG/ 

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