私の皮膚は日光に弱く、すぐ赤くなってヒリヒリ痛くなります。母も同じような肌でした。また、電話に出ると母の友達に母と間違えられることがよくありました。このように外見、性格、小さな癖など、親に似ているけれども、同じではないというのが私たち生き物です。今回はこれらをつかさどる「遺伝子」について、整理してみようと思います。

生物が持つ形や性質などを形質といい、形質が親から子へと受け継がれることを遺伝といいます。そして遺伝が起こるためには親から子へ何らかの要素が受け渡されているはずだと昔の人が考え、「遺伝子(gene)」と呼ばれるようになりました。その後、その遺伝子は染色体という細胞の核の中のヒモ状に見える構造物に、数珠つなぎになっていることがわかりました。染色体はタンパク質とDNAで構成されていますが、遺伝子の本体がDNAであることがわかったのは、20世紀中頃のことです。そしてDNAが自己複製するのに都合のよい二重らせんで構造であることが解明されたのです。

遺伝子とDNAは同じようなものであると見なされることが多いのですが、遺伝子はある特定の働きをする機能がともないます。一方DNAは「デオキシリボ核酸」という物質であり、遺伝子の本体といえます。つまり、遺伝子を数珠つなぎしているのがDNAです。すべての細胞(人間なら約60兆個)がこのDNAを持っていることが判明しています。しかもそれぞれの細胞(直径0.001~0.003㎜程度)に入っている遺伝子には、体全体のすべてにわたる形質の特徴が刻み込まれています。小さな小さな世界に、たくさんの重要な情報が秘められているのです。

DNAの情報をもとに形質の基となるタンパク質を合成する際、直接的にDNAがタンパク質を作っているわけではなく、DNA→RNA→タンパク質という一方向の順に進みます。この間に行われるのが「転写」と「翻訳」というプロセスです。

「転写」 DNAを鋳型にしてRNAを作ることを「転写」といいます。2本鎖DNAがほどけ、一本のヌクレオチド鎖をもとにして相補的なRNA(メッセンジャーRNA・mRNA)を合成します。

「翻訳」 mRNAの塩基配列をもとにしてアミノ酸の配列が決まりポリペプチド(タンパク質)ができることを「翻訳」といいます。

遺伝子は次の2つの能力を持っています。

(1) 自己複製能力
遺伝子は、幹細胞から生殖細胞へ、幹細胞から体細胞へ、細胞から体細胞へ、複製されながら伝わっていきます。結果、すべての細胞が完全な遺伝子を持っていることになります。この複製の制御が失われると、がん細胞になってしまいます。

(2)遺伝情報発現の能力
形質は遺伝子に刻まれた特徴が現れたものです。遺伝子の中に、手の形、目の色、消化液のつくり、皮膚の構成、などすべてが刻まれています。そういった特徴が、適切な条件で適切な場所に現れることを遺伝子の発現といいます。遺伝子の発現は遺伝子のスイッチがONになることです。そして、スイッチがONになれば、それに沿って、生物の形質が現れます。

さて、細胞がガン化するとか、細胞が脂肪を生産して肥満になるとかは、先に説明した複雑な過程において、何らかの異常が出現し、タンパク質が作用して細胞が変化することに由来します。

一方、薬とは、体の中で起きたこれらの遺伝情報の発現に作用して、症状を抑えようというものです。高血圧を下げたり、前立腺癌の増殖を抑えたり、病気の状態に合わせて様々な働きをします。私のような素人にはとても理解できない深くて複雑な世界ですが、ほんのわずかな違いで、薬の効果は変わってくるのでなないかということが想像できます。同じ名前の薬であっても、先発薬と後発薬では、どこか作用が違うのではということをよく耳にするのもそのためです。

 

◎連載過去記事(カテゴリー・リンク)
赤木夏 遺伝子から万能細胞の世界へ ── 誰にでもわかる「ゲノム」の世界 

▼赤木 夏(あかぎ・なつ)[文とイラスト]
89歳の母を持つ地方在住の50代主婦。数年前から母親の異変に気付き、本通信で「老いの風景」を連載中。

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