国民的批判を浴びた検察庁法改正案が今国会での成立が見送られるまでの一連の騒動では、法案に反対の声をあげた元検事総長の松尾邦弘氏ら検察OB14人がヒーロー扱いされる「異常事態」が起きた。筆者はこの件について、当欄で繰り返し問題性を指摘してきたが、今回は大企業2社の不祥事の実例に基づき、くだんの検察OBたちがヒーロー扱いされる危うさを改めて指摘しておきたい。

◆なぜ、東芝、関電に捜査のメスが入らないのか

くだんの検察OBたちは法務省に提出した意見書(※朝日新聞デジタルに全文が掲載されている)において、検察が「政財界の不正事犯」を捜査対象にしていることを根拠に、検察への内閣の介入を許す恐れがある法案への反対意見を述べた。次の一文には、そんな彼らの熱い思いがほとばしっている。

〈時の政権の圧力によって起訴に値する事件が不起訴とされたり、起訴に値しないような事件が起訴されるような事態が発生するようなことがあれば日本の刑事司法は適正公平という基本理念を失って崩壊することになりかねない〉

これは正論と言えば、正論だ。だが、この正論に基づいて批判されるべきは、安倍政権だけではない。他ならぬ検察もこの正論によって批判されるべき存在だ。なぜなら、検察は時の政権の圧力を受けるまでもなく、起訴に値する事件を不起訴としたり、起訴に値しないような事件を起訴するような事態を頻発させているからだ。

近年では、東芝と関西電力の事件で実際にそういうことが起きている。

まず、東芝の事件。2015年に証券取引等監視委員会の立入調査により発覚した同社の粉飾決算は、総額が実に2000億円超に及んだ。不正発覚時の経営陣は揃って引責辞任に追い込まれ、粉飾決算が行なわれた間の社長3人、最高財務責任者2人は東芝や株主たちから損害賠償請求訴訟を起こされている。しかし、これほどの大事件を起こした東芝に対し、なぜか検察は捜査のメスを入れていない。

続いて、関西電力の事件。原発が立地する福井県高浜町の助役だった森山栄治氏(昨年3月に死去。享年90)から同社の役員ら75人が総額約3億6000万円相当の金品を受領していたとされる事件は、昨年9月、共同通信のスクープで表面化した。同社が森山氏の要求に応じ、工事を発注した事例があり、金品を受領した役員らは特別背任や総収賄などの罪で捜査されて当然の事件だ。しかし現時点で、検察はこの事件も本格的に捜査しようとする気配がない。

一体、検察はなぜ、この2社の事件に捜査のメスを入れないのか。事実関係を調べると、背景に「邪な事情」があることを疑わざるをえない。この2社は事件の発覚前から現在に至るまで大物検察OBの天下りを受け入れ続けているからだ。

◆東芝、関西電力に続々と天下る検察OBたち

まず、東芝。粉飾決算が発覚する14年前の2001年から2004年まで同社で社外監査役、社外取締役を歴任した筧栄一氏は、元検事総長だ。さらにこの筧氏の後任で、2004年から2009年まで社外取締役を務めた清水湛氏は、元最高検検事である。

そして東芝は2015年に粉飾決算が発覚すると、「特別調査委員会」を設置したのだが、元大阪高検検事長の北田幹直氏が同会の委員として名を連ねている。さらに同会の調査では真相解明が進まず、東芝は次に「第三者委員会」を設置したのだが、その委員長を務めたのは元東京高検検事長の上田廣一氏だ。大物検察OBが役員に名を連ねた大企業で粉飾決算が発覚したのをうけ、その調査を任せられたのも別の大物検察OBたちだというわけだ。

さらに東芝は粉飾決算発覚後、新たに社外取締役として、元最高検次長検事の古田佑紀氏を迎え入れている。大物検察OBが役員に名を連ねながら重大な不正が行われたにも関わらず、それ以後も東芝では検察OBたちが利権を拡大させていたわけだ。こうした事実が揃う中、東芝の粉飾決算が事件化されないのでは、検察の公正さが疑われても仕方ない。

東芝の粉飾決算発覚後、社外取締役についた古田氏(東芝ホームページより)

一方、関西電力はどうか。

昨年6月に退任するまで同社で長く社外監査役を務めた土肥孝治氏は、「関西検察のドン」との異名を持つ元検事総長だ。そしてその後任として同社の社外監査役についたのは、元大阪高検検事長の佐々木茂夫氏だ。この2人の社外監査役の交代があった時点で、社内ではすでに役員らの金品受領事件が発覚していたので、この人事はそれと無関係ではないだろう。

しかも、この事件は社内の調査委員会の調べにより発覚しているのだが、その委員長を務めた小林敬氏は、大阪地検の特捜部がフロッピーディスク改ざん事件を起こした時の検事正だ。小林氏は役員らの不正を知りながら、公表するなどの措置を講じていなかったわけだ。

関西電力の役員らの不正発覚後、社外監査役についた佐々木氏(2019関西電力グループレポート)

さらに共同通信のスクープでこの不正が表面化すると、関西電力は「第三者委員会」を設置して真相解明にあたったが、その委員長を務めた但木敬一氏も元検事総長だ。そして事件発覚後、土肥氏から社外監査役の地位を引き継いだ佐々木氏は、この6月の株主総会で社外取締役に選任される見通しだ。大物検察OBが監査役を務めながら役員らが重大な不正に手を染めたのに、また新たに別の大物検察OBたちの天下りを受け入れ、刑事責任を追及されずじまい……、関電も東芝とまったく同じ道をたどっているわけだ。

こうした事実関係からすると、検察は「大企業を食い物にする組織」だとみなされても仕方ないだろう。そんな検察のOBたちをヒーロー扱いしていたら、彼らは調子にのり、東芝や関西電力の事件で起こしたのと同じようなおかしなことを今後も続発させることだろう。

▼片岡健(かたおか けん)
全国各地で新旧様々な事件を取材している。原作を手がけた『マンガ「獄中面会物語」』【分冊版】第9話・西口宗宏編(画・塚原洋一/笠倉出版社)が配信中。

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