元検事長の黒川弘務氏が新聞記者らとの「賭けマージャン」を週刊文春に報じられ、辞職に追い込まれた一件をめぐっては、検察とマスコミのズブズブぶりに対しても批判の声が渦巻いている。「権力監視が使命」などとうたうマスコミが実際には捜査当局とズブズブだというのはもはや常識だが、「それにしても、ここまでとは……」と驚いた人も少なくなかったのだろう。

実を言うと、検察とマスコミがズブズブなのは、検察官が現職の時だけの話ではない。退官後、マスコミに天下る検察幹部も散見されるからだ。今回はその実例を紹介したい。

◆松尾氏はテレビ東京の監査役に7年近くも在任

監査役を務めるテレビ局に自分の活躍を報道させる松尾邦弘氏(テレ東NEWSより)

筆者は当欄で、検察OB14人が検察庁法改正案に反対意見を表明し、ヒーロー扱いされた異常事態の危うさを繰り返し指摘してきた。あの14人の中でも存在感が際立っていた元検事総長の弁護士・松尾邦弘氏については、マスコミに天下った検察官の実例としても真っ先に紹介しなければならない。

というのも、松尾氏は2013年6月にテレビ東京ホールディングスの社外監査役となり、それから7年近くに渡って在任し続けているからだ。このように東京キー局の役員に検察OBが長く名を連ねるケースは珍しく、松尾氏は検察とマスコミがズブズブの関係であることを象徴する人物だと言っていい。

では、松尾氏以外の検察官のマスコミへの天下り状況はどうかと言えば、現在、テレビ局や新聞社、通信社に天下っている例は見当たらない。一方で目立つのは、広告代理店に天下っている検察官たちだ。何しろ、広告代理店の大手各社が揃って検察官の天下り先となっているのだ。

◆高橋まつりさんの過労死をきっかけに電通に天下った検察OB

まず、業界最大手の電通グループ。2015年12月、入社1年目の女性社員・高橋まつりさん(当時24)が過労を苦に自殺し、大バッシングされたのをうけ、同社は2017年2月、有識者3人から成る「労働環境改革に関する独立監督委員会」を設置した。その委員長を務めたのが、元福岡高検検事長の弁護士・松井巖氏だった。そして松井氏は今年3月から同社の社外取締役についている。

高橋さんが自殺に追い込まれた件では、電通は検察に労働基準法違反罪で略式起訴され、罰金50万円の有罪判決を受けているが、このように同社が刑事事件の加害者となったのをきっかけに、検察OBが役員のポストをゲットしたわけだ。

次に、扱い高が業界2位の博報堂DYホールディングス。同社では、2015年6月から最高検刑事部長だった弁護士の松田昇氏が社外取締役を務めている。松田氏は元々、2005年1月から同社の完全子会社である博報堂の社外監査役を務めており、社外役員としては破格の長期在任だ。ズブズブ中のズブズブだと言っていい。

そして最後に、総合広告代理店の中では扱い高3位のADKホールディングス。現在の役員に検察OBはいない同社だが、元々、検察との結びつきは前出の2社よりも強い。前身のアサツーディ・ケイ時代、2012年3月から2014年3月にかけて元検事総長で弁護士の大林宏氏が社外取締役を務め、さらに2014年3月から2015年3月まで大林氏の後任を務めたのも元広島地検検事で作家の弁護士・牛島信氏だったくらいだ。

ちなみに牛島氏が検察官として働いたのは若い頃に2年程度だが、同氏は弁護士としてはやり手のようで、松竹で社外監査役、エイベックス・グループ・ホールディングスで社外取締役を務めたこともある。マスコミとは切っても切り離せないエンターテイメント業界ともつながっているわけだ。

こうした前例をみると、新聞記者らと賭けマージャンをするほど親密な関係だった黒川氏も何事もなければ、退官後はマスコミに天下っていた可能性がありそうだ。「懲戒免職にならないのはおかしい」と批判され、退職手当をもらうことにまで厳しい目を向けられている黒川氏だが、すでに地位以外の様々なものを失っているのかもしれない。

▼片岡健(かたおか けん)
全国各地で新旧様々な事件を取材している。原作を手がけた『マンガ「獄中面会物語」』【分冊版】第9話・西口宗宏編(画・塚原洋一/笠倉出版社)が配信中。

6月7日発売!月刊『紙の爆弾』2020年7月号【特集第3弾】「新型コロナ危機」と安倍失政

6月11日発売!〈原発なき社会〉をもとめて 『NO NUKES voice』Vol.24 総力特集 原発・コロナ禍 日本の転機