8月9日、大国町「ピースクラブ」で、ドキュメンタリー映画「ふるさと津島」の上映会と浪江町津島から兵庫に移住した菅野みずえさんのお話会を行った。以下、菅野さんのお話を全3回の短期連載で紹介する。(取材・構成=尾崎美代子)

◆浪江町津島の風土

私が住んでいた浪江町津島では、少し前までは13人から18人とかの家族がざらに一緒に暮らしてました。夫の母親は子供を11人産んだと言ってました。いつも腹が膨らんで、乳が張っていたと。津島は非常に寒いところで、私が一番寒いと感じたときはマイナス19度でした。普通は夏至になると「ああ暑い夏がくる」と思うけど、私たちは夏至がくると「ああもうすぐ冬だ」思う。季節感がすごく違っているかもしれません。

そういうところだから、子供が風邪をひくと助からないことがあった。だから沢山子どもを産むしかないと母は言ってました。11人目を産んだ時、これが最後と思い、死んでしまった一番最初の子の名前を付けたといってました。それが私の夫(の昭雄)です。母は、生きられなかった子供と同じ名前つけて生きてもらおうと思ったと言ってました。だから夫は2人分の人生を生きなくてはならないのですが、何故か家に住めなくて避難しているわけです。

お話をする菅野みずえさん。テーブルの花束は、三木の自宅の畑から菅野さんが摘んできた。右側は本稿筆者の尾崎美代子さん

◆映画への違和感

そこが非常に理不尽な思いをもっているところですが、皆さん、今日の映画を見て何か感じませんでしたか? 違和感ありませんでしたか?(会場しーん)

私はこの映画見たとき「なんじゃこりゃ」と思いました。しかもこれを裁判資料にすると聞いて「やめてくれ」と思ったんです。私は津島の家に帰るとき、国の出先機関に連絡し、何人でどの車で入ると言って許可とります。入る前スクリーニングで、防護服と線量計をうけとり、頭に白い不織布のキャップを被り、マスクして二重手袋します。汗をかくので布手袋はめて、その上に薄いゴム手袋はめて、何か触るときにはもう1枚厚手の手袋をはめる。家に上がるとき汚染を持ち込むので、ビニールの足キャップを履いて上がる。

でも映画では誰もそんな格好していなかった。帰還困難区域でものを食べてはいけないと法律で決まっているのに、映画の中では食べてましたよね。周囲で大きな音がしていたのは、除染が始まり、家を壊しているからです。家に降り積もった放射性物質が巻き上がっている。映画では、そんな中、窓を開けてご飯を食べている。「なんじゃこりゃ」と思いました。

またガイガーカウンター持っている人は1人もいませんでした。最初に出てきたはるえちゃんだけが蓄線量計をもっていました。国から貸与され、おおむね2時間いて何マイクロ被爆したと記録して、自分の被ばく記録として持つのです。それは帰還困難区域に線引きされてからです。それまでは線量はもっと高かったのに、そういうことはなかった。その間に映画にでてくる人は「家に帰っていた」「寝泊りしていた」と言ってましたよね。どれくらい被ばくしているかもわからない状態です。当時は余震が続いていたので、屋根がずれたりして、非常にかびて、動物被害が多くなっています。でも避難は被ばくするから。でも映画では誰もそれを言わなかった。不思議でたまりません。

◆映画の中で防護服を着ないのは、100年後の子孫に見られたら嫌だという気持ちがあったかもしれない

また最初、津島に入ってきたのは、(映画でいうような)動物ではなく、泥棒です。泥棒がものを盗んであけっぱなしで出た入口から動物が入ったんです。

映画にでていた佐々木さんは、ここで「20ミリシーベルトになっていいのか」と言ってましたが、そこで一晩寝て20ミリではなく、多分20マイクロシーベルトの被ばくだと思います。赤宇木の仮設住宅の近くのおっちゃんが「運転しにくい」というので、私が皆を乗せて自宅の見回りに行きました。4年もたつのに、おっちゃんの家で1時間当たり40マイクロシーベルトありました。

私が止めたのに、おっちゃんが外を見回ったら、積算線量が2時間で140マイクロ超えました。私が100ちょっと。スクリーニングの職員 彼らは仕事がなくなった東電の職員で、給料は復興予算から出ます。東電が黒字になるのは当然と思います。「140なんてたいしたことないですよ。原発構内はね……」と言いだしたら、おっちゃんが「なにおー」と殴りかかろうとした。私が必死でとめて車に乗せて、今度は私が「ここ(津島)は原発構内と同じか!元はゼロだったんだ」と怒り出してしまい、おっちゃんに止められた(笑)。そんなことがありました。

映画のなかで彼らが防護服を着ないのは、100年後の子孫に見られたら嫌だという気持ちがあったかもしれない。だけど現実に起こっていることを正確に伝えるなら、私は防護服を着て、自分の身を自分で守って欲しかったと思います。この記録は住民がいかに被ばくについて、国から何も知らされてないかの証だと思います。レントゲン室でまんま(ご飯)食う人はいないです。それを見て「なにをやってるの?」と私は思いました。それくらい被ばくについて、私たちは教えられてない。「年だから、ちょっとくらい大丈夫」ということでしょうか。

前に東大の先生が飯館村の松川第二仮設住宅にきて「皆さん、松茸食べれないのはストレスでしょう。ストレスはないほうがいいから、ちょっとくらい食べてストレス解消したほうがいい」といったそうです。そこで管理人をやっていた私の友達が「私たちにストレス溜まるのは、こんな生活させられているからだ。そんな汚れた松茸食って、何年もここに留め置かれるストレスが解消できると思っているのか?頭いい人が何故そんなこというのか?」と怒ったそうです。菅野村長に辞めさせられそうになりましたが、頑張って最後まで管理人をつとめました。

そんなものなんです、私たちに施された教育というのは。ちょっとくらい食っても構わない、ちょっとくらい家に泊まっても構わない……と。それは被ばくのことを全く無視しているのです。

津島地区、菅野さんの自宅近くの放射線モニタリングポスト(写真提供=Eiji.Etouさん)

◆近所で5人が白血病になり、今年までに全員が亡くなりました

名前はいいませんが、福島の小さな町で、私が知っているだけで、近所で5人が白血病になり、そのうちの私の友人が一番最初に亡くなり、今年までに全員が亡くなりました。5人という数は私が知っている人だけです。それまで白血病なんてきいたこともなかった。

映画で出ていたTOKIOの「DASH村」で世話していた三瓶明雄さんも白血病で亡くなりました。彼はしょっちゅうDASH村に通ってました。我が家から2キロくらいの線量が高い所。この前も城島君が笑って福島の桃を食べ「旨い!」と宣伝していました。それは美味しいと思う。でも「あなたは大丈夫?」と私はテレビに向かって言ってました。彼らは本当に素朴で、今でも町の人たちと交流してくれる。明雄さんに何度も見舞いに通ってました。でも、彼らは守られているのかなあと、若いだけに心配です。そういう状態があの映像です。

国や東電の代理人が、こんな事実を見逃すわけはないんです。これを証拠資料としてだしたときに「帰還困難区域はあんなに普通に家に出入りしてる、だったら自主避難なんて笑止千万だということだ」と言い出しかねない。そうして裁判資料は他へ流用されます。そんなふうに使われては堪らない。

映画に出てきた石井ひろみさんはうちの隣の家の人です。彼女が公民館に勤めていた時にチェルノブイリの事故があり、いわきの教会の依頼で子供たちを公民館活動のなかで受け入れました。だから被ばくがどういうものかわかっている。彼女は防護服を着るべきだとか、映像を裁判資料にしていいのかと訴えてくれてますが、全体のものにはなっていません。彼女は「私はいやだった。みずえちゃん怒ると思ったから、みずえちゃんに知らせたくないと思ってたら、みずえちゃんの名前がエンドロールがあってさ」と言ってました。私は彼女に「映画見たとき愕然とした」と言いました。だから私はこの映画の上映会があるとしたら、もれなく付いて回ろうと思っていると言いました。

「おらっちの故郷はこんな風に人の入れるとこでねえ」と話しながら。ドアノブ開けて入るシーンでは「イヤ、そこ触ってはだめ」と思わず思ってしまう。コロナウイルスと一緒ですよ。(つづく)


◎[参考動画]ふるさと津島を映像で残す会予告編(Media Laboノダグラ 2020/01/19)

菅野みずえさんが語る映画「ふるさと津島」〈1〉津島の風土と映画への違和感
菅野みずえさんが語る映画「ふるさと津島」〈2〉私は原発を許した世代です
菅野みずえさんが語る映画「ふるさと津島」〈3〉避難と被曝は生活の傍にある

▼尾崎美代子(おざき みよこ)

新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

『NO NUKES voice』Vol.25

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[報告]小出裕章さん(元京都大学原子炉実験所助教)
 二つの緊急事態宣言とこの国の政治権力組織

[インタビュー]水戸喜世子さん(「子ども脱被ばく裁判」共同代表)
    コロナ収束まで原発を動かすな!

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[講演]井戸謙一さん(弁護士/「関電の原発マネー不正還流を告発する会」代理人)
    原発を巡るせめぎ合いの現段階

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    危険すぎる老朽原発

[報告]尾崎美代子さん(西成「集い処はな」店主)
    反原発自治体議員・市民連盟関西ブロック第四回総会報告

[報告]片岡 健さん(ジャーナリスト)
    金品受領問題が浮き彫りにした関西電力と検察のただならぬ関係

[報告]おしどりマコさん(漫才師/記者)
「当たり前」が手に入らない福島県農民連

[報告]島 明美さん(個人被ばく線量計データ利用の検証と市民環境を考える協議会代表)
    当事者から見る「宮崎・早野論文」撤回の実相

[報告]鈴木博喜さん(ジャーナリスト/『民の声新聞』発行人)
   消える校舎と消せない記憶 浪江町立五校、解体前最後の見学会

[報告]伊達信夫さん(原発事故広域避難者団体役員)
    《徹底検証》「原発事故避難」これまでと現在〈9〉
    「原発事故被害者」とは誰のことか

[報告]山崎久隆さん(たんぽぽ舎共同代表)
    多量の放射性物質を拡散する再処理工場の許可
    それより核のゴミをどうするかの議論を開始せよ

[報告]三上 治さん(「経産省前テントひろば」スタッフ)
    具体的なことと全体的なことの二つを

[報告]板坂 剛さん(作家/舞踊家)
    恐怖と不安は蜜の味

[報告]山田悦子さん(甲山事件冤罪被害者)
    山田悦子の語る世界〈9〉普遍性の刹那──原発問題とコロナ禍の関わり

[読者投稿]大今 歩さん(農業/高校講師) 
    マンハッタン計画と人為的二酸化炭素地球温暖化説

[報告]再稼働阻止全国ネットワーク
    コロナ下でも萎縮しない、コロナ対策もして活動する
《北海道》瀬尾英幸さん(脱原発グループ行動隊)
《石川・北陸電力》多名賀哲也さん(命のネットワーク代表)
《福島・東電》郷田みほさん(市民立法「チェルノブイリ法日本版」をつくる郡山の会=しゃがの会)
《規制委・経産省》木村雅英さん(再稼働阻止全国ネットワーク)
《東京》柳田 真さん(たんぽぽ舎、とめよう!東海第二原発首都圏連絡会)
《浜岡・中部電力》沖 基幸さん(浜岡原発を考える静岡ネットワーク)
《読書案内》天野恵一さん(再稼働阻止全国ネットワーク)

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