アインシュタインを研究し続けた死刑囚による「人生の集大成」のような手記

「東京五輪が終わるまでは無いだろう」と言われてきた死刑執行。それは裏返せば、東京五輪が終わるか、正式に中止が決まれば、死刑執行が再び行われる公算が大きいということだ。昨年秋に発足した菅内閣で、16人の死刑を執行した実績を持つ上川陽子氏が法務大臣に再任されていることもその見方を裏づけている。

そんな中、ある死刑囚が人生の集大成のつもりで書いたように思える計6枚の手記が筆者のもとに届いた。今回ここで特別に紹介したい。

◆手記の執筆者は「愛犬の仇討ち」で世間を驚かせた小泉毅死刑囚

手記を綴ったのは、東京拘置所に収容中の小泉毅死刑囚(58)。2008年11月、埼玉と東京で元厚生事務次官の男性宅を相次いで襲撃し、2人を殺害、1人に重傷を負わせ、裁判では2014年に死刑が確定した。警察に自首した際、「子供の頃、保健所で殺処分にされた愛犬の仇討ちをした」と特異な犯行動機を語り、世間を驚かせたことをご記憶の方も多いだろう。

そんな小泉死刑囚が裁判中、筆者は面会や手紙のやりとりを重ねていたのだが、小泉死刑囚は特異な犯行動機と裏腹に国立の佐賀大学理工学部に現役合格した秀才で、獄中では「超ひも理論」など物理学の難しそうな勉強に勤しんでいた。このほど紹介する手記も物理学に関するもので、タイトルは『〈絶対性理論〉完成形はミンコフスキー時空ではない!(絶対性理論が完成するまでの話)』という。

実を言うと、小泉死刑囚は裁判中から「アインシュタインの相対性理論に修正すべき点を見つけた」と語り、その考えをまとめた論文の執筆に没頭していた。筆者は何本か論文を見せてもらったが、なかなか本格的な内容に思え、感心させられたものだった。

裁判が終わり、死刑が確定して以降は小泉死刑囚と面会や手紙のやりとりができなくなっていたのだが、小泉死刑囚は獄中で研究を続けていたらしい。そしてこのほど「絶対性理論」という独自の理論を完成させ、そこに至るまでの過程を手記にまとめたのだ。

小泉死刑囚が綴った手記(P1-P2)
小泉死刑囚が綴った手記(P3-P4)
小泉死刑囚が綴った手記(P5-P6)

◆メディアで「頭がおかしい」ように書かれた小泉死刑囚の知られざる一面

この手記が筆者のもとに届いたのは、小泉死刑囚の死刑が確定して以降も東京拘置所から特別に面会や手紙のやりとりを許可されていた人が転送してくれたからだ。その人によると、小泉死刑囚から届いた手紙にこの手記が同封されており、小泉死刑囚が「何らかの形で世の中の人に見てもらいたい」という希望を有していることを察し、筆者に届けてくれたとのことだ。

小泉死刑囚は、冤罪の疑いはまったく無く、事件のことを何ら反省していない人物だから、「上川法務大臣による次の死刑執行」の対象に選ばれても何の不思議もない。そんな状況を踏まえると、メディアで頭がおかしい殺人犯のように書き立てられた小泉死刑囚にこういう一面があったことを伝えることに意義があるように思えたので、この手記をここで紹介させてもらった次第だ。

なお、筆者は小泉死刑囚と面会や手紙のやりとりをした結果について、拙著『平成監獄面会記』(笠倉出版社)で報告している。関心のある方はご参照頂きたい。

▼片岡 健(かたおか けん)
ノンフィクションライター。拙著『平成監獄面会記』がコミカライズされた『マンガ「獄中面会物語」』(画・塚原洋一、笠倉出版社)がネット書店で配信中。

月刊『紙の爆弾』2021年2月号 日本のための7つの「正論」他
「絶望の牢獄から無実を叫ぶ ―冤罪死刑囚八人の書画集―」(片岡健編/鹿砦社)