◆太った?!

久々に出会った知り合いの元・キックボクサーを一瞬で、「あっ、太った!」と声に出さぬも本能が意識してしまう。ふっくらと丸みを帯びる体型。

現役時代は過酷な練習と減量に耐え、引退後はそこから解放され、しっかり脂肪が付いてしまう、かつてのボクサー、キックボクサーを時折見かけます。

しかし、ボクサーたちが“引退すると太る”という固定観念を持つと誤解を招くことにも繋がるようである。太る比率は決して高くはなく、現役時代とさほど変わらない体型を保つ元・選手も多い。

丸みを帯びた高谷秀幸氏(格闘群雄伝No.14)だが、今もトレーニングは欠かさない(2008.2.10)

◆現役時代からの流れ

現在、ナインパックジムを経営する北沢勝会長(格闘群雄伝No.12)は、「私の現役時代はだらしなかったので、試合が終わったら暴飲暴食。10キロくらい減量して試合してたので良い結果が残せなかったと思います!」と謙遜するが、暴飲暴食も試合毎の10キロ減量もざらに存在する。

北沢勝氏は続けて「今は走ってミットを蹴って、何とか体型を保っています。『痩せるよ!筋肉質になるよ!』と謳っている店主がデブではマズいですから!」と自覚を持った経営者の几帳面な努力。

その北沢勝氏が現役時代、鴇稔之先輩(格闘群雄伝No.1)から、「減量出来ない奴はハートが弱い!」と教えられたと言う。食べたい気持ちを抑えられないと、あらゆる事態で我慢ができない、試合でも諦めが早いようである。

私(堀田)の知り合いで昭和のあるキックボクサーの現役中、減量の無い時期に一緒に食事をさせて頂いた時、かなりの量のビールと食べ放題の焼き肉を、元取らなきゃ損といった狙いでガツガツ食べていました。

そのフェザー級(-57.15kg)の選手が飲んで食って70キロもあっても、傍から見て心配しても仕方無く、試合が決まって減量の時期に入ればそこはプロ。しっかりリミットまで落としましたが、この選手がこのまま引退したら体型はどうなるのだろうと思ったことはありました。

フライ級(-50.8kg)だった選手でも引退後、70キロ超えはよく聞く話で、現在50歳超えのこの選手は、「現役の20歳当時、通常時60キロ平均で、ジムワーク後57~58キロ、試合までにはフライ級リミットまで落とし、引退後、仕事はガテン系で重い物を持って運ぶことが多いので筋肉も落ちず体型は維持していたものの、歳と共に徐々に体重は増えていきました。その後、結婚してジムにもほとんど行かなくなり、飲酒の量も増え、中年オヤジに向かって真っしぐらという感じで今は72~73キロくらいです!」

またこちらも50歳超えの元・ウェルター級選手の話では、「私は引退後も太るタイプではないと勝手に思っていましたが、日常生活と事務的仕事上の移動以外は全く動いていないので、現役時代の通常体重より20kgほど太って現在90キロです。腹も出てきましたし、たまにキックのトレーニングしようと動いても、あまりの動きの悪さにショックが大きいのでやらなくなりました。頭では現役の頃の動きを覚えていても身体はついてきません。」といった生活習慣の乱れは多くの例があることでしょう。

会長として、トレーナーでもある伊原信一氏、筋肉質体型は変わらない(2019.12.8)

元木浩二さん(格闘群雄伝No.4)はあまり変わらない。佐藤正男さん(格闘群雄伝No.6)はドラえもん体型へ(2017.11.18)

◆改善に向けて

引退して過酷なトレーニングと減量から解放されても、食べる量を減らしていない場合は、消費カロリー低下で体重や体脂肪が増加し太り易くなります。

またそれまで過酷に使っていた心肺機能から、一般人並みに運動しない状態が続くと、心臓がリズムを乱す為、適度な運動は続けた方がいいという説もありますが、ジョギングなどの有酸素運動より、ウェイトトレーニングで筋肉を鍛えるような運動を中心に行なうと、食事による糖質量オーバーを予防することもでき、痩せ易く太り難い身体に近づくようです。

プロボクサーとして“浪速のロッキー”として名を馳せた赤井英和さんが5年ほど前、現役時代の身体が嘘のように腹が出てしまっていた姿から、トレーニングジムRIZAPのCMで、2ヶ月で7キロの減量に成功し、現役時代に返った筋肉美を披露し話題となりました。

体重は77キロから、高校時代と同じという70キロまで減少。ウェストは100センチから84.5センチ、体脂肪率は20.8%から13.2%となる変化を遂げ、現役時代の肉体を取り戻したと言われます。後々には謳い文句に反し、少々リバウンドはしているようですが、CMの為だけでない自身の魅力を保つ意志があれば体型は維持できるでしょう。

現役としても階級上げることなく体型を維持した立嶋篤史(2018.11.25)

勝手な理想論ながら、ふっくらした元・ボクサー、キックボクサーには挑戦して貰いたいところで、“夢よ、もう一度”ではないが、現役復帰は難しくても、筋肉美を取り戻すことは難しくはないでしょう。

◆気を付けたい生活習慣病

キックボクサーや一般人に関わらず、運動不足と太ることで気を付けて貰いたいのは糖尿病や高血圧などの生活習慣病。

“キックの鬼”沢村忠さんは引退後も体型は変わらない人生を送り、富山勝治さんもスラっとした俳優さんのような佇まいの現在。

今も現役中と思われる立嶋篤史選手は、2018年11月の試合で、新人時代と変わらないフェザー級リミット(-57.15kg)で戦っていましたが、長年現役を続け、減量に耐えていても階級を上げることなく30年前と体型が全く変わらない。もし、30歳ぐらいで現役を退いていたとしても、太るタイプではないでしょう。

酒と煙草が止められない元・チャンピオンもいますが、昭和の群雄割拠の時代を生きた名選手の方々は生活習慣病に気を付け、歴史を語り継ぐ生き証人として健康で長生きして頂きたいものです。

▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

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