惨敗を噂された都民ファーストの善戦のいっぽうで、都議会自民党の復活は不十分なものだった。自公あわせて過半数の確保という、最低限の目標も果たせなかった。

※7月4日23時半現在の議席予想(報道各社の予測をもとに分析)
自民  25~43
都民  25~35
立民  ~17
公明  ~23
共産  18~
国民  0~
維新  ~2
れいわ ~1
嵐   0~

◎7月4日23時半時点の開票速報(東京新聞特設サイトより)

◎都議選2021(東京新聞)https://www.tokyo-np.co.jp/senkyo/togisen21

◎東京都議会選挙特設サイト(NHK)https://www.nhk.or.jp/senkyo/database/togisen/2021/

投票率は18時段階で25%と、前回よりも7ポイント少なかった。事前投票は99万票こえと過去最高になったが、結果的に低迷したといえよう。都議会選挙の得票率はもっとも低いときで40.80%、高いときで58.74%である。

事前の自民党調査によると、自民党は現有議席25から51まで回復。都民ファースト(以下、都ファ)は46議席から13議席と、大敗の予測だった。この予測だけを見るならば、選挙戦は自民の敗北といえるかもしれない。

都民ファが踏みとどまった理由は、オリンピック強硬開催とコロナ対策への是非を問うたからにほかならない。オリンピックそのものの中止を訴えた共産党善戦にも、それは顕著である。

共産党の関係者によると、街頭演説への大量動員を追求せずに、電話による投票依頼に集中したという。その結果、東京五輪中止を訴えているのは共産党だけです、というフレーズに反応が多かったとのことだ。

都民ファは「無観客なら開催、有観客の開催には反対」というもので、いまひとつ鮮明さを欠いたが、それでも演説会での「無観客」という大きな旗は、都民の投票行動に結びついたのではないか。開催反対論よりも、現実的な施策と映ったはずだ。


◎[参考動画]【LIVE】都議選 開票速報!NewsPicksコラボ特番「東京UPDATE」(TBS)

◆都民ファーストの善戦

都民ファが凋落するだろうという予測は、党の特別顧問である小池百合子東京都知事の「入院(退院後も公務は医師と相談しながらのテレワーク)」にみられる自滅、実質的な党首の戦線放棄によるものとみられていた。機を見るに敏な小池都知事は、選挙応援に「参戦」しないことによって、自民党二階俊博幹事長との「密約」を守ったのだ、と。

その「密約」とは、東京オリンピック・パラリンピックの強行開催、および選挙後の自民党との議会提携を担保に、知事の政策遂行を保証するものだ。この裏には1月の千代田区長選挙において、都民ファーストの元都議が自公候補を破ったことに二階が不快感を表明し、その関係修復の過程で交わされたものといわれている。いずれにしても小池知事の入院(寝たふり)は、都ファの凋落を意味すると考えられていた。

ところが、そうではなかった。小池知事は退院の挨拶をした翌日(選挙最終日)に、選挙戦の最前線に立っていたのだ(後述)。

その決断の理由も明白である。前述したとおり、オリンピックの開催が決定的になった段階で、無観客の選択肢が「現実の政治過程」に顕われたからだ。

「公務を離れている都民ファ特別顧問の小池知事の支持率は59%で、前回調査(5月28~30日)の57%から、ほぼ横ばいだった。前回は知事支持層の投票先で最も多かったのは自民の29%で、都民ファは19%にとどまっていたが、今回は都民ファ26%、自民26%と並んだ。」(6月28日、日刊ゲンダイ)。

この調査では、都民の6割近くが「東京五輪の開催を評価しない」と回答していることから、都ファの「無観客開催」「有観客なら中止」に賛意をしめしていると分析できる。開催が決定的な段階での「有観客」への批判的な反応は、都民の冷静さを示していたといえよう。

そしてここで、小池知事が動いたのだ。

◆選挙の組織戦術とは──電話掛けによる支持者の固め

ふり返ってみれば、都ファの大敗を予測するうえで、選挙戦術の常識がその背景にあった。プロの選挙党と素人の選挙党の違いである。

低い投票率のなかで、政党の支持率の基盤となる組織票の実体とはどのようなものか。東京は過去(70年代)に革新都政が実現したほど、全国規模の政党支持率と大幅にちがう。

総じて、政治意識の高さが特徴である。東京新聞・東京MXテレビ・JX通信社が、6月22、23日に合同で行った「都民意識調査」では、
自民党 19.3%
立憲民主党 14.0%
共産党 12.9%
都民ファーストの会 9.6%
公明党 3.4%
日本維新の会 3.4%

これがほぼ、都民の政党支持率といってもよいであろう。ただし、実際の選挙においては、コアな支持層による凌ぎ合いが焦点となる。党派の支持基盤、およびそれを固める活動家である。

自民党の組織基盤は、基本的に町内会(自治会)と商店会、そして青年会議所(JC)などである。このうち町内会は神輿会や神社の崇敬会、お寺の盆踊り、子供会などを外延部に、地域住民の日常生活をほぼ網羅している。

ためしに自分が所属する町内会の新年会に出てみるとよい。自民党の町議や市議が挨拶におとずれ、その自治体の首長が非自民系である場合は、公然とその首長を批判するものだ。

民主党系(旧社会党・民社党)が、労働組合と生活消費組合などを基盤にしているのと好対照である。共産党の場合は、労働組合にくわえて民商(零細経営者の共同組織)になる。公明党はいうまでもなく、創価学会という信教団体(宗教団体)である。

これら支持団体の組織力こそ、政党の生命力といっていいだろう。したがって、支持団体の活力を、選挙政党はくり返し刷新している。

立憲民主党は労働組合の代弁者から市民政党への脱皮をめざし、民主党時代からサポーターシステムを導入してきた(現在は立憲民主がパートナーズ、国民民主がサポーター制度)。

これに対して、都ファはまったく政党としての支持団体を形成できなかった。支援団体は議員の個人的な努力に任されているのが現状なのだ。

選挙はポスター貼りに始まり、街頭演説(聴衆動員)にせよ電話掛け(人海戦術)にせよ、組織で取り組まなければ勝てない。筆者も選挙支援は何度も体験したが、そのたびにダメ押しの電話の重要性を、選挙のプロみたいな人たちから強調されたものだ。

たとえば市議選レベルで、ふたつの陣営の電話掛けを見たこともある。一見して政党色がつよい陣営の、ヘッドホンマイクで電話掛けをする選挙活動家のそれと、素人市民運動家の電話での執着力のなさが、候補者の明暗をわけたものだ。

にもかかわらず、都ファは組織力以上の結果を出したのである。街頭演説会のレポートからも分析しよう。

◆組織力を誇るしかない演説

選挙の華ともいえるのが、街頭演説である。

たまたま麻生太郎の街頭演説(墨田区)を見学できたので、その内容のなさを披露しておこう。自公ともに今回は、都ファ叩きのシフトで臨んだ選挙だった。

したがって、国政につながらない(国会議員のいない)党ではダメだ。首長(区議)のいない党もダメだ。国会で予算割りを実行できて、さらに自治体(東京都)レベルで予算を獲得できる区長、および都議がいなければならない。さらには、その区長と都議をささえる区議がいなければ党のシステムとはいえない。というのが、その主な論調である。政策の内容ではなく、結果を出せる「政治力」ということになる。

だがこれは、政治家をありがたがる地方の選挙区ではともかく、意識の高い東京では相変わらずの「田舎選挙」に映ってしまうものだ。麻生の演説を楽しみにしている聴衆の、少なくない人々が彼の「失言」を心待ちにしていたとしたら、もはや田舎選挙どころか、お笑い選挙だったということになる。

そしてもうひとつは、麻生太郎は選挙における「風」を極度に怖れていた。55年体制下でもマドンナ旋風や新党ブームによる「風」が自民党政権を危機にさらし、実際に政権交代は実現された。自民党自身も小泉「郵政選挙」において、自民党を「ぶっ壊す」ことで「風」を実現した。

2009年の政権交代は、消えた年金問題と安倍政権の自壊的な閣僚ドミノによる「風」であり、2017年は小池旋風であった。そこにあるのは、無党派層の存在である。今回、無党派層はNHK調査で30%、朝日調査で21%となっていた。

◆自民を驚嘆させた小池出馬

その無党派層を動かす「風」を、今回も瞬間的に創出したのが小池都知事だったのである。

小池都知事は7月2日に都庁で記者会見し、執務中に「倒れても本望」と宣言したその翌日、都議会選挙の応援に電撃出撃したのだ。

これに対して「お涙ちょうだい的な話」(舛添要一)と批判するのは簡単だが、その批判には「悪意」や「冷血」「サイコパス」な雰囲気がただよってしまう。つまり、かりに仮病であれ、病人を批判するのは、日本人の感性に合わないのだ。ぎゃくに公用車を公私混同し、ナイフのコレクションが趣味というサイコな一面(元妻片山さつきの証言)が覗いてしまう。

小池知事は7月3日午前10時半ごろ、東京都中野区の都民ファ代表の荒木千陽候補の事務所前に、ガラス張りの選挙カーで登場した。

都ファのイメージカラーである緑のジャケットに同色の手袋という姿で、街頭演説こそしなかったが、荒木候補者と商店街を練り歩いたのである。激戦の中野区にサプライズ登場したことに、自民党幹部も驚きを隠せなかったという。

けっきょくこの日、小池知事は中野区、豊島区、練馬区(2候補陣営)、板橋区、西東京市、三鷹市、調布市(北多摩第3)、港区、墨田区、千代田区など、10カ所の応援に駆けつけた。

激務のなかで疲労困憊し、都議会でも青息吐息。そして入院生活をへて政務復帰という、絵に描いたように同情を煽るながれの中で、選挙応援に駆けつける。これ以上効果的な政治劇場はないであろう。これは3日夜の報道番組でも報じられ、都民はサプライズに圧倒されたのである。

負ける選挙を一日で巻き返し、素人政党を持ちこたえた手腕は、さすがというべきであろう。これで自民復党、国政復帰というメディアの観測は崩れたわけだが、劇場型政治である以上、まだこのさきに何が待っているのかはわからないと指摘しておこう。

そして最後に、組織選挙でしか戦えない自民党の凋落が、東京五輪の成否やコロナ禍の帰趨によって、凄まじい風にさらされることを予言しておこう。


◎[参考動画]テレ東BIZ #都議選生配信〜国政選挙への影響を考える〜

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。

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