◆陰謀国家は存在するか

帝国主義の侵略戦争にたいして、①侵略された国を他の帝国主義国が支援する。あるいは②軍事同盟にもとづいて侵略国に宣戦布告する。

これら正当な自衛戦争の行使(交戦権)について、一部の新左翼党派・反戦市民運動は、その背景を政治的に解釈して「帝国主義間戦争」だとする。あるいは「相互に停戦せよ」「戦争を激化させる軍事支援反対」と説教をする。

今回のウクライナ戦争(ロシアの侵略戦争)は、上に挙げた①に該当する。

②は第二次世界大戦(ドイツのポーランド侵攻にたいする、英仏の戦争参加)が典型的である。

開戦(侵略)した戦争と、自衛戦争をとり間違えてはいけない。ハーグ不戦条約いらい戦争は違法とされ、それゆえにドイツと日本はその開戦責任を問われて、国際法廷で戦犯が罰されたのである(ニュルンベルク裁判・東京裁判)。

日本の開戦責任については戦後、アメリカをはじめとするABCD包囲網が日本をして戦争に走らせた原因だったとする見解がある。

アメリカのルーズベルト大統領の側近はニューディーラー(ニューディール政策推進者)であり、コミンテルン(国際共産主義組織)の手先である。したがって、日本は共産主義者の挑発によって、太平洋戦争に引き込まれたのだと。開戦した日本も悪いが、しかしそれは共産主義者の陰謀によるものだ、とするものだ。

いま、ディープ・ステート(闇の国家)による陰謀で世界が動き、その代表であるアメリカ(NATO)が、ロシアを徴発して戦争を起こさせたのだと、陰謀史観の人々は云う。これに左派も巻き込まれているのだ。ここで言う陰謀とは、政治を解釈する者たちの「想像力」にすぎない。

個人の想像力を抑制することが出来ない以上、陰謀史観という疑問に応えることは出来ない。したがって、われわれは歴史的事実から戦争の性格、とくに民族の独立と救国戦争について考えることで、その回答としたい。

◆開戦した国家が侵略国である

プーチンが先ごろ行った対独戦争記念日の演説によれば、プーチンはウクライナの地域名や都市名をあげて「祖国の土地を護るために戦っている」と言う。ウクライナという国名は演説のなかに聴こえなかった。ウクライナはロシア民族の土地であって、ウクライナという国家はあたかも存在しないかのようだ。

つまり、近代国家は戦争によってしか戦い取れない、戦争によって抹殺されるのだということを、プーチンの言動は端無くも明らかにしているのだ。

帝国主義戦争にたいする救国戦争が、民族とその文化を護る生存のための戦争であることを、プーチンがみずから「ロシアは国家と伝統文化の存続のために、軍事行動を行なわなければならなかった」という。その論理と同じことが、ウクライナの国家と人民に強いられているのだ。

この「同じ論理」のもとに行動する(戦争する)二つの国家を分けるものは、侵略したかどうかの違いである。いま両国は戦争をしているが、この「侵略した」かどうかの違いであって、それは180度違うのだ。くり返し確認しなければならない「事実」である。

◆中国の抗日救国戦争

この連載の〈2〉において、ソ連邦の「大祖国戦争」について触れた。それはレーニンの教え「プロレタリアに祖国はない」「プロレタリア国際主義」を根底から転換させるものだった。

社会主義革命の勝利(ロシア革命)をもってしても、帝国主義戦争は終わらなかった。社会主義革命が一国にとどまる以上、戦争は廃絶できない。

そうであるならば、国際共産主義運動をもって帝国主義(資本主義の最高段階)を廃絶する以外にない。かくして、ソ連邦の拡張政策(覇権主義)が戦後の基調となったのである。アメリカもこれに対抗する。

ロシアとは異なった道を歩んだのが、中国革命(中華人民共和国)だった。中国は清朝時代にイギリスとのアヘン戦争で敗れ、上海・香港などを中心に租界(植民街)を接収された。以後、欧米各国の侵出をゆるした。

日本も日清戦争を機に中国に侵出し、日露戦争後は東北地方(満州)に開拓民を送り出す。そして満州での権益を確実なものにするために、清朝最後の皇帝溥儀を擁して満州国を建国した。爾後、事変と称する戦争を仕掛けては、支配地域の拡大にこれつとめたのだ。

日本の満州国建設にたいして、内戦(華北北支軍閥・共産党軍との内戦)中の国民党はこれを黙認していた。日本(関東軍)はさらに、北支自治運動(軍閥の傀儡化)を工作する。

これに対する中国の動きはどうだったか。先に動いたのは延安に長征中の共産党だった。山西省で国民党軍と衝突するが、張学良(北支那軍閥)の説得で国民党との合作(統一戦線)を検討することになる。タイムラグで言うと、1932年が満州国成立、35年から内戦停止の機運があり、張学良の説得が36年、国共合作が成立するのは37年のことだった。抗日闘争を方針として打ち出したのは共産党(周恩来)だったが、封建的民族ブルジョアジーである軍閥の張学良が蒋介石を監禁してまで説得したところに、民族統一戦線としての性格を見ることが出来る。

◆帝国主義の中国支援

37年7月の盧溝橋事件以降、日本の事変(侵略)拡大に対して、上海事変・日中全面戦争へと発展する。そのかん、今回のウクライナ戦争と同様に、日中は停戦交渉を何度もくり返し、日本政府は不拡大方針と関東軍・支那派遣軍の暴走という曲折をくり返す。事変拡大の大義名分は、居留民(日本人)の保護であった。その意味でも、ウクライナ戦争と同じ構造である。

1940年3月に南京で汪兆銘政権(日本の傀儡政権)が成立すると、米英・ソ連の中国援助が行なわれるようになる(ビルマルート・インドシナルート)。そして日本は、ドイツ・イタリアとの三国同盟へと歩を進めるのだ。

全面戦争になってからの、日本軍の振る舞いは現在のロシア軍に似ている。三光政策「殺し尽くし・焼き尽くし・奪い尽くす」(中国語:で殺光・焼光・搶光)が行なわれるようになるのだ。※この行為自体は、国民党軍が共産党のソビエト地区に対して行なったものと同じであるともいう(貝塚茂樹)。

40年末には、蔣介石がアメリカに航空機の提供、日本本土遠距離爆撃のためにB17爆撃機を要請している。ソ連も国民政府に対し1億元の借款を供与している。41年になるとアメリカが国民政府に5千万ドルの借款。こうして、中国を複数の列強(帝国主義国)が軍事支援をするようになるが、だから「帝国主義間戦争」なのだとは云えない。現在のウクライナ戦争と同じである。

昭和16年(1941)すでに中国(重慶政府)への交渉をみずから閉ざした日本は、アメリカを交渉相手にする。だがアメリカは、中国への満州の返還、南京政府の取り消し、日本軍の中国からの撤退を要求する。ここにおいて日本は、対英米戦の決意を固めることになるのだ(開戦は12月)。

さて、近い将来にウクライナ戦争が膠着状態になり、ドンバス地域の帰趨を決める国際交渉(ミンスク合意の再版)が行なわれたとき、クリミアをふくめたロシアの撤退を求められたプーチンは、何を決意するであろうか。核兵器のボタンを押すには、大統領・国防相・参謀長の3人のコードが必要だという。最期の瞬間に、プーチンの決意をくつがえすシステムであって欲しいものだ。(了)

◎[関連リンク]ウクライナ戦争をどう理解するべきなのか
〈1〉左派が混乱している理論的背景
〈2〉帝国主義戦争と救国戦争の違い
〈3〉反帝民族解放闘争と社会主義革命戦争
〈4〉民族独立と救国戦争

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。

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