9月3日、筆者の自宅(広島市東区)近くの地下を通る広島高速道路公社(広島県と広島市が折半で出資)の高速道路5号線の二葉山トンネルをめぐる問題を議論するシンポジウムが広島弁護士会館で開催されました。

◆シールドマシン故障に予算オーバー、地盤のトラブルも相次ぐ

 

予算オーバー。工事は進まない。地盤沈下。行政の対応はお粗末。このトンネル工事はまさに、広島県政および市政における、最大級といっていいほどの「問題のデパート」です。

広島市内のトンネルをめぐっては、同じく広島市東区の高速道路1号線の福木トンネル工事で地盤沈下の被害が出て中止になった経緯があります。そのため、二葉山トンネル計画地の真上の住民からも反対運動が起きました。結局、知事の湯崎さんが現地を訪れ「住民に犠牲を強いるような工事はしない」とあいさつし、住民も納得した経緯があります。

ところが、工事が始まった2018年からシールドマシンの故障などが相次いだことから、この二葉山トンネル住民の間で工事速度も遅々としたもので、再度延長された工期が2022年7月12日に来ても、トンネル自体が半分程度しか完成していません。いま、建設工事紛争審査会に下駄が預けられています。

 

もちろん、地盤のトラブルも今回のシンポジウムでも報告されたように相次いでいます。シールドマシンのカッターを交換するたびに、周囲の地盤に悪影響が及びます。

さらに、予算もいつのまにか高速道路5号線全体でいえば倍増以上してしまいました。そもそも、企業への移転補償が当初予算の700億の予算の半分近い320億円もありました。それ自体が疑惑ですが、さらに、その倍以上の1500億円の予算にいつのまにか膨れあがったのです。

この中には、どさくさに紛れて、凍結された事業も盛り込まれています。市の北部へ向かう五号線を広島市南方の南の呉に向かうためにわざわざつなぐ、まさに意味不明の事業です。平安時代の方違え(遠くへ旅行する際に運勢が悪いと考えられた方角を避けていったん違う方角へ向かう)でもありますまい。

◆シールドマシン故障に関する負担は受注者側の責任

まず、「二葉山トンネルを考える会」越智修二代表が、発言。相次ぐシールドマシンの破損について、これは想定外の(固い)岩盤があったからではない、とは指摘。故障に関する負担は受注者側の責任だ、と指摘しました。

「県や市はこれ以上、JVを甘やかして予算を追加で出すべきではない。」と筆者も感じました。

 

◆住民をなめ切っている湯崎さん

ついで、二葉山トンネル建設に反対する牛田東三丁目の会の棚谷彰代表は「知事の湯崎さんはシールド工法で工事を始めることを決めた際、住民にあいさつに来られ、「住民に犠牲を与えながら工事を進めることはない」と断言した。」と報告。

しかし、地盤沈下を発生させるシールドマシンのカッター交換は計画5回に対して41回もされました。そして右の写真のような被害が発生してしまったのです。

牛田東一丁目では、介護を必要とするご家族が騒音・振動にびっくりし、仮住まいに移転せざるをえなくなった事例もあったそうです。認知症の方など、こういった刺激で不穏になられ収拾がつかなくなることはよくあります。本当に勘弁してほしいですよね。

棚谷代表は憤まんやる方ないご様子でしたが、当然です。湯崎さんは県民をなめ切っています。

 

◆なぜか、欠けやすいカッターを使用し大失敗

ついで、元トンネルボーリングマシン技術者の三浦克己さんが講演。二葉山トンネルでは、性能が優れていると企業側も認めている20インチのカッターではなくなぜか17インチのカッターを使用。その結果、当然、カッターが破損しやすくなった。そこで、カッターの歯が欠けるのを恐れて遅く掘る。そして、カッター回転量が増えて摩耗が進むという悪循環だそうです。

そして、排出した土砂量も想定より多くなっている。空洞が出来ている恐れがあるそうです。

◆トンネル工学の泰斗が無責任な県・市に憤り

大阪大学名誉教授の谷本親伯先生が基調講演として「市民目線で見えるもの」と題してお話しされました。まず、冒頭、「この場にいてほしいのは、公社の方や議会の方だ。」などと嘆かれました。

その上で、
・県や市にインハウス(自前の)技術者がいるのか
・受注者(大林組系JV)は請負人として責任を果たしているのか?
・掘り進むのが月に50mなのは適切か?
・それについて企業秘密だと逃げる施工者をきちんと追及しているのか?
などと問題提起をされました。

その上で、谷本先生は「(安全管理には)行政がきちんと責任を持つべきであり、いま、被害を調査している住民に変わって調査すべきだ。今は事業者に調査を任せている。今回の広島の二葉山トンネルでも博多であった陥没事故でも、行政は施行業者に安全管理を丸投げし、住民を守ろうとしていない」などと指摘。

本来であれば、県や市がきちんと現場の地盤などの状況を24時間体制でチェックするべきだ(がしていない)と、広島の行政の無責任さに怒りを込めておられました。
「大学教授も本当のことを言ったら、行政が仕事をさせてくれない。自分も豊浜トンネルの事故の時、良心に基づいたコメントをしたら、それ以来行政の仕事がしにくくなった。」と回想。この点については、マスコミも頑張れ。と𠮟咤激励されました。

◆予算面でも全くの失敗、シールド工法

そして、予算面で見てもシールド工法は全く失敗だったと指摘。今のTBMよりナトム工法のほうがいい。というのがトンネル専門家としての意見だとしました。
質疑応答の中で谷本先生は、他の自治体でも状況は変わらない、と指摘。例えば調布市当局は外環道現場の陥没事故について住民の安全のためになにかするのか?という先生の問い合わせに、「業者の問題だから一切タッチしない」という回答だったそうです。これはちょっとショックでした。調布市はトップが広島県・市のような自民党系官僚出身者ではなく、野党共闘系の市長を持つ自治体だからです。

◆まともに追及する政治家を出さぬ県民・市民にも責任──会場から憤りの声

この問題をめぐる住民訴訟の弁護団も務めた経験のある山田延廣弁護士は、きちんとこの問題を追及するような県議や市議を出してこなかった県民・市民にも責任がある、と指摘しました。

被害住民の方からは、施行業者(大林組系JV)から補償の対象外だとされたことへの怒りが表明されました。

 

地元の東区の村上厚子・元市議(2019年県議選にも立候補した経験あり)からは、県議会も市議会も「いま、工事を止めたらどれくらい損が出るのか?」などといういわゆる出来レースの質問しかしない県議や市議ばかりだと指摘がありました。

◆元職場・広島県庁のふがいなさに憤り

筆者は、会場から東区の自宅へ自転車で帰宅する途中、現場を撮影しました。あまりにも、無責任な県や市。元県庁職員として、知事も議会も腐っているこんな県であることが恥ずかしく、また、心から憤りをおぼえました。

一方で、県も市も技術が分かる役人がいない。それで、施工業者に舐められているのも事実でしょう。これも筆者の県庁在職中、広島県が全国のトップを切って進めてきた公務員削減の弊害です。専門家を抱えておかないといざというとき住民を守れないのです。そのことも感じました。

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
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