安倍元首相国葬前の9月23日、広島1区発で「安倍晋三さんは、介護現場に何をしたのか?」を検証するオンラインおしゃべり会が筆者のよびかけで開催されました。

なお、この日は、リアルでも「総がかり行動」主催で、安倍晋三さんの国葬を中止するよう求めるデモが原爆ドーム前から岸田総理の事務所の前まで実施されています。

岸田総理は、国葬の理由として、安倍さんが憲政史上最長の総理であったことをあげておられます。しかし、在任期間が長いということは、それだけ、悪いことについても責任が重いということです。そのことについてもきちんと検証することが、本当の意味での「追悼」ではないでしょうか?

◆筆者から安倍晋三さんへの「追悼の言葉」―― 介護破壊の悪行三昧

まず、20時のオンラインミーティングの開始から、20分ほど、筆者(介護福祉士・元広島県庁職員=元介護保険担当)から問題提起と称する故・安倍晋三さんへの追悼の言葉をおくらせていただきました。

以下はその要旨です。

介護保険導入は2000年4月であり、介護保険が発足してからの22.5年のうち、介護保険発足から約22.5年のうち、4割弱の約8.7年が安倍晋三さんの総理だった期間である。きわめて大きな影響、それも悪い影響を与えた総理大臣で言わざるを得ない。介護の社会化が大義名分だった介護保険だが、利用者負担増でそれが揺らぎ、一方で、我々介護労働者の給料労働条件は劣悪なままだ。

第一次安倍政権(2006年9月-2007年9月)において、安倍さんは2007年参院選では「KO負け」し、短命政権に終わり、大きな影響はなかったとも言える。これにより、民主党が躍進し、2009年介護報酬改定(麻生太郎政権)では、我々介護労働者について一定程度の処遇改善加算制度が導入されるきっかけになった。言い換えれば自民党が民主党の政策を模倣した結果だ。

その3年後の2012年度の介護報酬改定は、民主党政権下で行われることになった。民主党は、マニフェストで介護労働者の大幅給料アップを掲げていた。しかし、東日本大震災からの復興財源調達を理由に、自民党政権以上の改善はされず、介護労働者の失望を買った。民主党は、震災復興財源の調達のため、公務員=旧社会党=総評時代から支持基盤も失った。古い基盤も新しい支持者も失い、民主党は自滅。安倍晋三さん、あなたは政権に返り咲いてしまった。

2012年末、政権に返り咲いたあなたは「消費税増税は全額社会保障に使う」と約束し、2014年10月に5%から7%に税率を引き上げた。当時、新人の介護労働者だったわたしは、「これで俺の給料は上がる」と喜んだが、あなたを信じたわたしが愚かだった。あなたは、2015年度から介護報酬を引き下げた。当時のわたしの勤務先の老人ホームの社長は、「消費税増税でモノも値上がりし、経営が苦しくなる。報酬も下がる。覚悟しておけ」と訓示した。こうした介護業界の苦境により、多くの仲間が現場を去った。利用者側はこの年度から一部に2割負担が導入された。サービスの利用控え圧力が進んだ。ここだけの話だが、2割負担を回避するために、名目上離婚されたとみられる方も存じている。

あなたは、2015年9月の自民党総裁選挙で「介護離職ゼロ」を掲げた。家族の介護のために仕事を辞めることに追い込まれる人をなくすということだ。それ自体は結構だが、あなたのやった利用者負担増などはそれに矛盾している。

2018年度の介護保険法改定では、2割負担の対象を拡大し、3割負担も導入した。そもそも、お金持ちとも言えない人から過剰に負担を求めすぎているのではないか?もしお金持ちに負担を求めるなら、税金をしっかり負担いただくのが筋だろう。

2018年末、あなたは、入管法改定で特定技能制度を導入した。日本人で介護労働者になる人が足りないからと言って、外国人を呼び込もうという安易な考え方だ。2022年現在、わたしの勤務先の中には、外国人の時給を日本人より高めに設定している介護施設経営者もおられる。日本人がやりたくない仕事を外国人はやりたがるとどうして安易に思えたのか?いまや、円安は進み、給料を上げないともっと外国人労働者も来てもらいにくくなるだろう。

2019年介護報酬改定(臨時)をあなたはおこなった。介護職員等特定処遇改善加算を設置したが、対象が非常に狭く実効性が薄いと言わざるを得ない。

2020年に新型コロナ禍が勃発し、ただでさえ人員不足で厳しい介護現場に追い打ちをかけた。あなたは、介護職員に5万円の慰労金は出した。菅、岸田政権では同様の措置はなかったから、この点はまだ「より少なく悪かった」かもしれない。あなたは、その年の9月に退陣した。そして2022年7月8日、山上徹也被疑者の凶弾に斃れたのである。

安倍晋三さん、あなたは無責任極まる男だ。しかし、あなたの応援でいま総理になっている岸田さんがましか?と言えばそうとも言えない。岸田さんは我々介護労働者の給料アップをしてくれたが、3%としょぼい。物価上昇、最低賃金/他業界の給料アップも加味すれば人手不足解消効果はないのではないか?一方で、岸田政権はIT化による人員基準の緩和などを検討している。しかし、例えば、夜勤帯でどれだけ削減できるのか? とくにコロナのもとでは怖すぎる。

また、岸田さんは、給料アップを2022年10月以降は介護報酬で賄うという。これは利用者負担増につながり、それを恐れて給料改善をやらない事業者も出る恐れがある。そもそも、介護保険の在り方に無理があるのだ。資本の論理と福祉は両立しないのではないだろうか。

安倍晋三さんのでたらめを忘れないとともに、岸田さんへの批判を強めないといけない。

安倍晋三さんが事実上票の差配までしていた旧統一協会が介護現場に与えた影響も指摘しなければならない。男尊女卑と緊縮財政が旧統一協会信者の主張の特徴だ。男尊女卑を前提に家族ですべての責任を負え、というのが基本的なスタンスだ。山上徹也被疑者も旧統一協会の男尊女卑に腹を立てていたという。

男尊女卑と緊縮財政が組み合わされば、ケア労働者の低賃金になる。「こんなのは女のやることだから」と低い給料にされたのだ。そして、利用者負担増で社会化に逆行することになるのだ。

この「問題提起」(筆者の追悼の言葉)を受けて、残りの時間で参加者に自由に意見を交換していただきました。

◆自民党べったりの介護経営者に苦労 ―― 四国地方の女性労働者

四国地方の介護福祉士の女性Aさんは、くしくも安倍晋三さんの地元の山口県出身でもいらっしゃいます。この女性は、ご両親の介護のため、近く退職されるとのこと。この方は訪問介護に従事されています。自民党のべったりの法人で、自民党政治家の活動に動員されるということです。それでも、福利厚生は充実していたが、安倍政権の介護報酬引き下げで、福利厚生も削られ、職場はぎすぎすしていづらい状況になっているということです。

筆者からは「自民党県議・市議らが理事長でなおかつ悪徳な社会福祉法人は全国に多くあった。NHKも含めてそれをマスコミも糾弾した。ただ、当時の安倍政権はそれも悪用して、介護報酬カットへの雰囲気づくりをしていたように見受けられる。その結果は現場の労働者が苦しむだけになっている。」と「悪徳法人が介護報酬カットに悪用されて労働者が苦しむ」構図への憤りの感想を述べさせていただきました。

◆統一地方選で「地方議員兼悪徳法人経営者」の打倒を!

また、関西地方の30代男性Bさんからは、こうした自民党べったりの法人が多い状況に驚愕したと感想をいただきました。この男性からは「こういうことを共有化していかないといけないと思った。」とご感想。

筆者は「ただし、こうした法人の存在をもって介護報酬カットに悪用されたらたまらない。それよりもこうした県議・市議兼悪徳法人経営者という方は、選挙で有権者が打倒すべきだと思う。統一地方選は大事だ。」と回答させていただきました。

◆「反共」で教条的な緊縮財政の「旧統一協会」

四国在住の女性Cさんからは「なぜ、旧統一協会は緊縮財政なのか?」とのご質問をいただきました。

筆者は「『反共』がキーワードだと思う。かつては保育園を増やす政策を取った美濃部東京都知事に対して、統一協会ズブズブの人間を旧民社党が刺客として送り込んだこともある。庶民のための財政支出を共産主義と決めつけて否定するのが統一協会の信者の方には多い。」と筆者の経験上と断りをいれつつ回答させていただきました。

◆年々増加する利用者負担

四国の介護福祉士女性Aさんからは、介護報酬本体以外に、いろいろな加算が取られるようになり、低所得者の負担も増えている、と指摘がありました。

筆者からも「利用者負担増では、今後は、例えば、孫世代に介護負担が行く恐れがある。昔は嫁=母親でもある=におしつけられていたが、そうはいっても昔よりは男女平等が進む中で、嫁=母親に行かない=ぶん、孫に押し付けられ、ヤングケアラーがさらに増える恐れがあるのではないか。昔のように嫁へ押し付ける男尊女卑は論外として、若い人が過剰に介護にエネルギーを取られるのも報道されている通り、まずい。実際、大学生とか、新社会人くらいの孫が介護をされているケースは、わたしもだんだん目にするケースが増えている。本当は(社会人として仕事をおぼえることも含めた)勉強にもっと集中したほうがいいのだが、おっさんが余計な世話を焼くのもどうかとおもい、隔靴掻痒だ。」とヤングケアラー増加への懸念を示しました。

◆仕事に対して報酬が低すぎる

東北地方の看護師女性も「看護も介護も仕事に対して給料が少なすぎる。」と訴えます。やはり欧州のように公営でやるほうが望ましいとおっしゃいます。

広島市内の別業界の会社員男性も「介護労働者の友達がいるが、昔は看護師がやっていたようなことも、専門知識がそこまでない介護士がやっている。入所者を最後まで看ることも多くなり、精神的に厳しいと思う。やはり、給料の引き上げは必須だと思う」とおっしゃいました。

◆「少子化対策」より「まず、安心」を

また、高齢者が増える中で少子化をなんとかしないと難しいのではないか?というご意見もいただきました。

これについて筆者は「ただし、日本の場合は、高齢者も多く働いている。この点が欧州とは大きく違う。コンビニでも工事現場でも、各種派遣労働者でも年金が少なく働かざるを得ない人がたくさんいる。高齢者を悪者にするのもまた誤りではないか?」と指摘したうえで「環境破壊をせずに一人当たりの豊かさをふやすチャンスでもある。問題は、人口が減るのに、まだ山を開いて大型商業施設や住宅地をつくったりする行政の在り方ではないか? いますぐ子どもがふえたとしても、労働力になるのに時間がかかるので、人口減少を前提に、新規開発はやめて土砂災害警戒区域からはむしろ撤退し、そこで平時は食料をつくるなどの方向も必要ではないか?」と提案しました。

そして「大阪維新の会は高齢者を悪者にして子育て支援重視を言っているが、これも、実際には奴隷であるところの子どもがほしいだけ。自分に反抗的な意見を言った高校生を橋下徹さんは泣かせている。それが維新の本質だ」と維新をばっさり切り捨てました。

また、山口県の女性からも「労働条件も悪い、教育を受けたら借金を背負うこんな国で、子どもを産んだらむしろ子どもがかわいそうだ。まず、教育や労働条件の改善などをする方が先ではないか?」とのお話をいただきました。

◆「チャレンジ」の前に「安心」を

広島県内の女性からは、筆者に対して政治家として何をまず取り組みたいか?とのご質問をいただきました。

「前回、2011年、河井案里さんと対決した県議選立候補時に掲げた公約のうち、まだ実現していない介護する家族を支援する条例(ケアラー支援基本条例)」をぜひ実現したい。特に広島県内は、なぜか女性の健康寿命が短く、男性が妻の介護をするケースも多く拝見する。ある一定年齢以上の男性の方はそうした中で追い詰められる場合も多い。また、ヤングケアラーや、逆に親御さんが高齢になった後、障害をお持ちのお子さんをどうするかという問題など、課題も複雑化している。2011年時点ではわたしが広島でも最初に提案したが、今回はぜひ、実現したい。」

「現知事は高速道路5号線二葉山トンネル問題について、教育長はご自身の疑惑について木で鼻を括ったような対応で、安倍晋三さんうり二つになりつつある。他方で、ご両人とも政策の中身も、保守的な広島県の風土へのいら立ちはわかるが、無理やりアメリカ的なものを押し込もうとしてうまくいっていないように見られる。基本的なニーズが満たされない中でアメリカ的なチャレンジを煽られても、ついていけない県民も多いと思う。」と指摘。

「まずは、安心を県民に。その上でチャレンジだ。知事も教育長もアメリカ的な方向に傾いている中では、安心重視の議員がもっと議会に必要だ。」
と力を込めました。

国葬反対署名の報告も国葬反対署名に取り組む広島市内の20代男性からは、国葬反対署名を3115筆集めて内閣府に提出したことが報告されました。その上で、今後は「奨学金チャラ」の署名活動を進めることが報告されました。

筆者からは「介護現場でも、例えば機能訓練指導員で資格を取るために大学や専門学校に行き、奨学金返済を抱える若者が多くいる。奨学金チャラにもぜひ取り組もう。」と呼びかけさせていただきました。

◆安倍政治の問題点を忘れぬとともに地元から遠慮なく岸田政治をただそう

安倍晋三さんの国葬で安倍晋三さんの問題点を覆い隠すことは許されません。在任期間が長いからこそ影響力も大きい。だから、きちんと検証すべきです。今回は東北から四国まで広い範囲のみなさんのご参加で安倍晋三さんの問題点を検証できました。ご参加ありがとうございました。今後ともよろしくお願いいたします。

それとともに、岸田さんもかならずしも「安倍さんよりまし」とも言えない実態も浮き彫りになってきました。きちんと地元・広島からこそ、遠慮なく岸田政治もただしていかなければなりません。

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
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