遠慮・忖度一切なし!《本音の対談》黒薮哲哉×田所敏夫〈04〉問題すり替えに過ぎない“SDGs”の欺瞞

◆SDGsに無批判なマスメディア

田所 国連が提唱するSDGsという「持続可能な成長」。耳障りは良いです。しかし本音は「持続可能」ではなく「成長」=「経済成長」です。成長を実現するために紛争をなくす、貧困をなくす、二酸化炭素を減らすといろいろ言いますがそのための市場や商品が国連により推奨され、あたかも人類や地球環境や生態系に良い効果をもたらすと札付きを与えている。たとえば電気自動車や二酸化炭素を出さないもののが、良いものだとされる。けれども二酸化炭素がなければ新しい空気ができません。この基本的な議論がSDGsからは見事に抜け落ちている。

 
黒薮哲哉さん

黒薮 環境をよくすることは大事だけども、それをビジネスに変えるのはおかしいでしょう。環境問題を企業に委ねれば、目的が達成できると考えるのは誤りです。

田所 綺麗な言葉で国連が新自由主義を擁護している。国連が発するのですからもう学校教育の場でも子どもたちに刷り込みが既に始まっている。

黒薮 「企業コンプライアンス」という言葉が重視されていますが、新自由主義の下で格差が広がり、様々矛盾が噴出してきたから、それをなんとなく誤魔化すための言葉だと思います。資本主義の枠内で、欠点を多少「手直し」して、基本的には同じ路線を突き進むための世論誘導です。現在の体制を巧みに維持するための戦略です。

田所 これは政策ではなくイメージです。そこがたちが悪い。イメージだから直接的に誰かが傷ついたり即座に誰かが困ったりはしない。けども分析すれば「貧困をなくす」のは企業がではないです。利益を追求しないと成立しえない集合体が企業であり利益を最大化したいのがもとからの企業の存在意義です。

黒薮 だからイメージをコントロールして世論を誘導する戦略が、非常に重視されるわけです。こうした財界の戦略に協力しているのがマスメディアです。

田所 マスメディアはSDGsにまったく無批判です。イメージでは我々よりも意識が進んでいるだろうと思いがちな欧州の国々でも、この問題に異議を唱える人が多くはなさそうで、右から左までがSDGsを認証することにより、新自由主義=格差拡大を地球規模で拡大させることにより事態がさらに悪化してゆくことは目に見えている。

◆「誰にでも起業のチャンスがある」というのは幻想

黒薮 今の資本主義は高度成長時代の資本主義と違い、国境がなくなっていますから資本主義の陣営が同じ方向性の戦略を取り、必要とあればどこかの国を共同で攻撃する。こうした戦略がどんどん鮮明になっています。

田所 資本に国境はないです。GAFAといっても米国だけが儲かっているわけで、製造業は工場を世界各国に置きます。利益は国境を越えて多国籍企業が儲かる仕組みです。彼らは大きくなりすぎているので新規参入の中小企業が入る余地はない。

黒薮 それが実態なのですが、メディアにより「誰にでも起業のチャンスがある」かのような幻想が広がっています。

田所 大嘘です。ビジネスチャンスとか、ドリームとか、頑張ればなんとかなるとか。はっきり言って頑張ったってどうにもなりませんよ。この寡占の現実は。原則が間違っていると認識し、違う方向を見出さない限り無理です。今お金を持っていて支配している人が作り出すからくりを綺麗に言いつのる現実を気持ち悪いと感じます。

◆政策を決定しているのは、グローバル化した資本主義

黒薮 防衛費の倍増や沖縄の基地化。これらの政策に反対している人々の多くは、自民党の政治が終われば問題は解決すると考えていますが、そんな単純なものではありません。政策を決定しているのは、グローバル化した資本主義です。

国際的な協力の枠組みの中で、日本も「役割分担」をさせられているわけです。ですから安倍政権が終わっても、グローバリゼーションを背景に、政策の大枠はまったく変わっていません。改憲と軍国化の方向で走り続けています。グローバル化した資本主義に合わせた政策をやっているわけです。

 
田所敏夫さん

田所 その側面があることに同意しますが、覇権を維持しよう、利益を維持しようとする層がいます。実は安倍元首相の場合は、彼の祖父の時代からその時々で、主張することは違いますが、岸信介は若い時代中国大陸で満州国を作り商工大臣をしていました。戦後戦犯として逮捕されたもののどういう訳か不起訴で出てきました。戦犯追放を潜り抜け総理大臣になり、昨年話題になった「勝共連合」の設立に尽力しました。それは米国の軍産共同体との利害が一致していたからでしょう。米国はベトナム戦争の際、韓国に参戦させることにより、韓国に特需を与えた訳です。今韓国にある財閥はベトナム戦争時に出来上がり、米国の財閥との結び付きを得た。次の世代が安倍晋太郎ですがこの人は中継ぎです。中曽根がレーガン、サッチャーとともに、重武装への転換点を作り小泉がイラク派兵を行った。その完成形の役割を安倍は長い期間にわたって担い続けた。黒薮さんが指摘されるように、必ずしも個人の思いつきではない部分も多いが、安倍晋三は小泉政権の副官房長官時代に早稲田大学で「敵地攻撃は違憲ではない」「核兵器保持は違憲ではない」と明確に話しています。だから一定程度そのような考えの持ち主であることは確かです。そのような人物で血統もそうだから総理大臣にさせてもらっていた側面もあると思う。

黒薮 どういう人物が首相になるかを決めているのが、時代の流れでしょう。

田所 単に投票行動だけではなく、投票行動を誘う諸政策、小選挙区制の導入や労組の無力化、政党助成金の導入などにより選択肢がない。こう言うと熱心に政治に関心を持っている方々に悪いかもしれないけども。

黒薮 政治家が劣化しています。どうやって次の選挙で当選しようか、そのことばかりを考えて、世論に迎合し、大胆なことはしない。バッシングされると困るので控えておこうという傾向が非常に強くなりました。1996年に小選挙区制導入されてからどんどん新自由主義が顕在化し、それにあわせて軍国化が進んでいます。ビジネスのグローバル化に伴い、多国籍企業を「国際協力」により防衛するための体制が拡大され続けています。

◆「リベラル保守」の罪

田所 それを可能にするには、世論の支えが必要です。一連の構造改革の中で派遣法の改正が行われました。改正以前、派遣労働は特別な業種に限定されていたが、ほぼすべての職種で派遣労働が可能になり、同じ仕事をしていても給与が半額の人が多数生まれる現象が起きました。

貧困で労働組合にも入れない。その人たちが自分たちの窮状を訴え、権利を求める方向に目が行かないように当時一番売れていたのは小林よしのりです。『ゴーマニズム宣言』です。評価は分かれますが宮台真司、宮崎哲弥、浅田彰も入れます。廃刊した『朝日ジャーナル』の負の部分が一役になっていたと思います。今30代、40代のひとがかつての革新陣営や社会主義に対して持っている嫌悪感や、日本や日本民族に対する論拠無き過剰なプライド。砂上の楼閣のような感情が見事に形成されたのを政府は確認して、投票年齢の18歳に引き下げたのでしょう。

黒薮 そうですね。これらの層は根本から日本の社会を変えようとはしないで、一部を手直しして基本的な枠組みにはメスを入れません。その典型が、「リベラル保守」と呼ばれる人々ですね。

田所 そう人たちの罪がとても大きいと思います。

黒薮 朝日新聞などもこうした路線だと思います。資本主義の枠は維持して、その中で「手直し」を提唱する程度です。ガス抜きはするが、本当に社会を変革しようというメディアではないと思います。こうした勢力は、日本を支配している人たちにとっては、むしろ必要なメディアなんです。世論誘導とはそういうものです。(つづく)

◎遠慮・忖度一切なし!《本音の対談》黒薮哲哉×田所敏夫
〈01〉「スラップ訴訟」としての横浜副流煙事件裁判
〈02〉横浜副流煙事件裁判のその後 
〈03〉禁煙ファシズムの危険性 ── 喫煙者が減少したことで肺がん罹患者は減ったのか? 
〈04〉問題すり替えに過ぎない“SDGs”の欺瞞
〈05〉「押し紙」は新聞にとって致命的

▼黒薮哲哉(くろやぶ てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、『禁煙ファシズム』(鹿砦社)他。
◎メディア黒書:http://www.kokusyo.jp/
◎twitter https://twitter.com/kuroyabu

黒薮哲哉『禁煙ファシズム-横浜副流煙事件の記録』(鹿砦社)

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。著書に『大暗黒時代の大学──消える大学自治と学問の自由』(鹿砦社)がある。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

田所敏夫『大暗黒時代の大学 消える大学自治と学問の自由』(鹿砦社LIBRARY007)
月刊『紙の爆弾』2023年3月号