計量失格のその後、ウェイト競技の難しい現状! 堀田春樹

以前、「ウェイト競技の宿命、試合に向けた最後の仕上げ、計量後のリカバリー!」というテーマで計量後のエピソードを取り上げましたが、今回、計量失格に関わるテーマで語りたいと思います。

対戦相手の秤の目盛りを見つめる梅野源治(2014年2月10日)
全裸での計量も多いパターン(アンディー・サワーの例)(2015年2月10日)

◆確信犯?!

近年、プロボクシングやキックボクシングで時折問題となるのが、ウェイトオーバーによる計量失格です。昔からそんな事態はごく少数的にありましたが、我々は直接の計量風景を見ていないせいか、あまり耳にしない話でした。プロボクシングの世界戦に於いては試合までの全てが注目されるので計量も映し出されますが、少々200~300グラムぐらいのオーバーはあっても2時間以内の猶予の中で落とすという流れは昔も今も、キックボクシングにおいても存在します。問題は最初から2kg以上のオーバーでやって来て、全く落とす気が無い選手が世界戦においても居ることでしょう。

昨年のあるキックボクシング興行で、既定の2時間の猶予が与えられた後も2.0kgオーバーで失格した選手において、試合開催へ協議はされるも条件が合わず中止となったところが、その計量失格した選手がタイの選手との代打試合が行われたことには前代未聞の展開に周囲は驚き、ルールの基本形が細部まで明確にされていなかったことが問題だったでしょう。

◆明確に模範となるプロボクシングルールでは

プロボクシングで、JBCのウェイトオーバーに関する規定では、計量失格となったボクサーに関してペナルティーの規定が明確に存在します。

公式計量において、リミットオーバーが契約体重の3パーセント以上の場合、再計量2時間以内の猶予は無く、計量失格となって試合出場不可となります(フライ級ならば50.8kgリミットで52.32kg超えは即失格)。リミットオーバーが契約体重の3パーセント未満の場合、再計量2時間枠の猶予が与えられ、この再計量でもリミットオーバーの場合は計量失格となりますが、試合を中止しない選択肢は残され、開催の場合は当日朝に再計量を義務付けられます。再計量時の体重が契約体重を8パーセント以上超過した場合、試合出場は不可。ペナルティーについては、試合を中止する場合、ファイトマネー相当額の制裁金や、1年間のライセンス停止処分と次戦以降は一階級以上の階級転向を義務付けられ、更に計量失格となったボクサーのマネージャーを戒告処分があります。

試合を中止しない場合、ファイトマネー相当額の20%を制裁金や6ヶ月のライセンス停止処分があります。マネージャーには厳重注意処分があります。

試合中止となった場合、いちばん困るのは対戦者で、コンディションを整えてきた長い日々の努力や、試合におけるファンの前でのパフォーマンスが披露出来なくなる精神的失望感があり、勝利に相当する待遇を受けても、チケットを買ってくれたファンへのお詫びと払い戻しがあったりとなかなか受け入れられるものではないと言えます。

シュートン(タイ)の計量、通常はこんな計量風景(2022年3月19日)
計量失格でレフェリーが減点を宣告する試合開始直前のリング上(2017年10月22日)

◆計量失敗の原因

キックボクシングにおいても当日計量から前日計量への移行が大半を占める現在、衰弱した身体のリカバリーの時間が丸一日ある為、当日計量ならバンタム級リミットが限界でも、前日計量なら減量リミットをより無理して設定し、スーパーフライ級まで落としてもリカバリー出来るだろうといった思惑が上手くいかなかったという事態もあるようです。そんな階級が細分化されたことも一因でしょう。

昔はジムワーク中に水を飲むことなど許されなかった時代もありましたが、現在は水分を摂りながら練習しているのはごく普通で、大量に水分を摂る選手は、最後の数日間で水抜きに入り、体調が良ければ順調に落ちる見込みも風邪を引いてしまったり、どこかちょっと怪我したりと、想定外の事態が起こると最後の追い込みに狂いが生じ、減量失敗している例はあるようです。

◆ペナルティー問題

女子選手においては難しい問題も存在します。生理中は胎盤を守る抵抗力が働いて、減量では水分を抜き難く、そういう事態で大幅オーバーという失態があっても試合出場を控えたプロとしては失格。公正なルールの下ではペナルティーが科せられることは仕方無いところ、ウェイト競技としての女子だけの苦悩でしょう。

あるライト級元・選手の減量エピソードでは、
「普段ジムワークしている上での平常ウェイトが71kgぐらいだったので更なる10kgの減量でした。昭和や平成初期はとにかく食べないだけだったのでキツかったですね。63.0kgぐらいまで落ちながら、あと2kgがなかなか落ちずに気が狂いそうでした。どうしてもアイスクリームの大きいサイズのレディーボーデンが食べたくて、コンビニで買って来て一気に食べて、すぐに喉に指突っ込んで吐いたこともありました。あの苦しみはもう味わいたくないですね。」

現役当時だったら周囲に言えないであろうエピソードも多そうですが、幾つもの我慢を重ねて計量に向かう一方、大幅にオーバーして来る選手にはペナルティーはより厳しくすべきかは女子の例も含めて難しい判断でしょう。

現在有るペナルティーは、キックボクシングでは罰金と試合における減点。それらの幅は団体や興行によって差があります(例として100グラム毎に1万円、500グラム毎にマイナス1点など)。ペナルティーは矛盾点も出て来る場合があり、グローブハンディーはサイズが大きく重くなる分、逆効果という意見があって、現在では採用されない場合が多いようです。減点は1点と2点の場合とラウンド数との比率も大きく影響する部分があり、減点だけで開始前から勝負が偏ってしまう点が考えられます。

試合に向けて身を削って、計量後のリカバリーで体格的に優位に立つ為の試合前の闘いが、効力を発揮したりしくじったり、永遠のテーマとなる減量物語は今後も続くのでしょう。

現在も使われる天秤式計量秤(2022年9月24日)

▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]
昭和のキックボクシングから業界に潜入。フリーランスとして『スポーツライフ』、『ナイタイ』、『実話ナックルズ』などにキックレポートを寄稿展開。タイではムエタイジム生活も経験し、その縁からタイ仏門にも一時出家した。