◆世論調査はどこまで信用できるか

朝日新聞8月21日朝刊によると、「岸田内閣支持 続落33%──マイナ 首相が指導力『発揮せず』79%」だという。

世論調査はおおむね3000前後、無作為に電話調査したものを集計する。わたしも過去に三回、新聞社から電話調査を受けたことがある。かなり作為的な質問で「国会で予算案が可決されましたが、安倍内閣を支持されていますか?」と誘導尋問に近いものだった。質問の仕方もその結果も、新聞社・報道局によってバラツキもあるものだ。

7月22・23日に毎日新聞が行なった全国世論調査では、岸田内閣の支持率28%で「退陣危険水域」だった。この記事では「自民党幹部が心配しているのは、内閣支持率よりも自民党支持率だ」という。

朝日新聞(7月15・16日)では28%、上記の毎日新聞では24%、時事通信(7月7~10日)が23.6%だった。前述の朝日新聞(8月21日)も28%である。


◎[参考動画]処理水放出「説明が不十分」7割 内閣支持率は続落

いっぽう、自民支持傾向がつよい(前述の恣意的な誘導質問的な調査が現認できた)読売新聞・産経新聞はどうだろうか。

7月の調査になるが、読売新聞は内閣支持率が35%(6月から6ポイント下落)、自民党支持率は34%だった。

産経新聞・FNN合同(8月19・20日)では、内閣支持率41.5%(7月から0.2ポイント増)。FNN(フジニュースネットワーク)と産経新聞社は、2020年の6月に、委託先の社員が14回にわたり、電話をかけずに架空の回答を入力していたことが明らかになっているから、あまり信用できない実態があると言い添えておこう。

◆政治的な感性こそが問題 マイナ対応と自民党女性局のフランス研修問題

岸田不支持はいうまでもなく、マイナンバーカードの健康保険証リンク不備問題であろう。登録時の入力ミス(前に受け付けた人のデータが残る)によるものだが、構造的なものと断じてもいいだろう。

そもそも60年代の住民基本台帳法、70年代の国民総背番号制、そして今回のマイナンバーカードと、国民をデジタル管理すること自体が無理なのだ。なぜならば国民がデジタルに馴染まなかったにもかかわらず、無理を要求しているからだ。自治体がマイナンバー受付指導をしなければならない実態、すなわち個人のPCやスマホでは受け容れてくれないソフトしか作れない技術力に原因がある。

だとしたら、これまで機能してきた保険証登録をそのままにして、少なくとも人の生命を左右する医療現場に混乱をもたらすべきではなかった。ここでの不作為が政治不信として顕現しているのだから、岸田文雄総理自身の政治的感性が問題となる。

もうひとつは、物価高のなかで生活に苦しむ国民に「わたしたち、楽しんでまーす」とばかりに、パリの街角で記念撮影をした自民党女性局の政治的感性である。

◆改造内閣は9月下旬

政局で当面注目されるのは、秋の内閣改造である。ところが岸田総理の外交日程がきびしい。

9月上旬はインドネシアでASEAN関連首脳会議、インドでG20首脳会議と、重要な外交日程が続く。11日ごろの帰国となり、19日から米ニューヨークで始まる国連総会の一般討論演説に出席するまでの間に、首相は人事のタイミングを模索していたという。

政府筋は「人事は帰国後の9月最終週でいいだろう」と指摘した。自民党関係者も「9月下旬の可能性が出てきた」と語った。

とはいえ、人事が遅れれば、秋に想定される臨時国会の召集時期もずれ込む可能性がある。物価高対策のための補正予算案を求める声が出ている中、首相周辺には「国会召集を遅らせるのは得策ではない。人事は9月中旬に済ませるべきだ」との意見も根強いという。

人事では茂木幹事長の処遇が焦点となる。マイナ問題で批判を浴びた河野太郎デジタル相、週刊文春で家族を巡る疑惑が報じられた木原誠二官房副長官らの去就にも注目が集まる。 


◎[参考動画]警察庁「木原副長官や官邸から接触はなかった」 木原氏は書面で回答

◆安倍派の動向

もうひとつの政局は、党内最大派閥安倍派の動向である。

会長不在の状態が続いている安倍派(清和政策研究会・100人)は8月17日の派閥総会で後継体制について協議した。新たな意志決定機関として「常任幹事会」を設置し、会長代理の塩谷立元文科相が取りまとめ役の「座長」に就く案を了承した。下村博文元政調会長が訴えていた会長選出論は霧消した。

常任幹事会の構成も一任された塩谷氏は総会後、記者団に「(常任幹事会を)派閥の重要事項を決定していく機関とし、閣僚経験者を中心に選任したい」としている。

萩生田光一政調会長、松野博一官房長官、西村康稔経済産業相、世耕弘成参院幹事長、高木毅国対委員長の有力者5人組の選任が有力だ。

事実上の「下村氏はずし」を後押ししたとみられているのが、森喜朗元首相である。8月7日の北國新聞のインタビューでは、会長にしてほしいと頼み込んできた下村博文が「今までのご無礼をお許しください」と土下座したと暴露している。下村を追い返したが「了解を得た」と触れ回っているとして、怒りを吐露したのだ。これで下村の後継の芽はなくなったといえよう。

とはいえ、後継者を決定できない派閥政局は深刻で、5人組にも決定的な力はない。このまま派閥後継者が決まらないと、派閥それ自体の求心力の低下は避けられないであろう。その先にあるのは、派閥の分裂と雲散霧消である。この危機感は、まだいまのところ感じられない。そこに危機があるのだ。


◎[参考動画]【日経CNBC 投資家アンケート】岸田政権を「支持しない」が74.2%、増税路線への警戒や成長面の政策の分かりにくさを指摘

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。

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