ピョンヤンから感じる時代の風〈43〉米国の「自由と民主主義」は日本の国益か 赤木志郎

岸田首相は4月訪米し米議会で、「米国が築いてきた国際秩序は新たな挑戦を受け、自由と民主主義が世界中で脅威にさらされている」と述べ、「日本国民は自由の存続を確かなものにするために米国とともにある。自由、民主主義、法の支配を守る。これは日本の国益だ。……これらの価値を守ることは世界中の未来世代のための大義であり、利益でもある」とし、日本がグローバル・パートナーとして米国とともにその価値観にもとづく国際秩序を守っていく決意を述べた。

はたして米国の「自由、民主主義、法の支配を守る」価値観にもとづく国際秩序を守ることが日本の国益なのだろうか。

今日、世界において「自由と民主主義」の価値観で国を否定し覇権をおこなっていくということが通じなくなっている。ウクライナ戦争もロシアはNATOの東方拡張政策に反対し、祖国とロシアの価値観を守る戦いとして位置づけているゆえに勝利していっている。パレスチナ人民のイスラエル占領に反対し国の主権確立をめざす戦いもかならず勝利していくだろう。そして、アジアでは米国の対中新冷戦も国を守り発展させようとする中国人民により破綻するのは明白だ。

ロシアと中国、イスラム圏だけでなく、インド、ブラジル、南アフリカなどもBRICSや上海機構に結束し、米国の古い覇権的秩序に代わる新しい反覇権多極化秩序の確立をめざしている。この流れにASEAN諸国、アフリカ諸国、中南米諸国が合流している。

そのなかで岸田首相だけが「米国は独りではない、日本というパートナーがいる。共に『自由と民主主義』の価値観にもとづく国際秩序を守っていこう」としたのだ。それは時代の潮流に逆行するものであり、米覇権秩序が崩壊することは避けることができない。

にもかかわらず岸田首相の米国の国際秩序を守ろうとするという覚悟は、あくまで日本が米国を盟主として仰ぎ従い、世界の反覇権勢力に敵対していこうとするものだ。結局、米国のいうがままに日本が利用され使い捨てられていくのではと思う。

「日米同盟の新時代」で米国のもとの統合がすすめられれば、日本の政治、軍事、経済、教育文化と地方のすべての領域にわたって米国に統合し米国式におこなうことが強制され、日本という国が名実ともになくなってしまう。

また、今回の日米会談で統合作戦司令部の発足が決められたように、日本は米軍の指揮のもとで「自由と民主主義」を掲げた米国覇権の軍事外交作戦に動員されていくようになる。かつて日本軍国主義が侵略と戦争の道を突き進んで滅んだとしたら、現在、米国覇権の汚らわしい番犬、駒として世界の自国第一主義の潮流に飲み込まれ滅亡する道を歩んでいるといえよう。

その結果、国民はどうなるのか。中国との戦争で戦禍を蒙るだけではないか。国民にとって戦争を絶対望んでいないし、米国のもとに日本が統合されることを望んでいない。平和で豊かで生きがいある生活をもたらす自分たちの国であってほしいと思っているのではないか。

なぜ日本が米国に統合されていき、米軍の尖兵になるのか?

 
赤木志郎(あかぎ・しろう)さん

それは、先に引用した岸田首相が「自由、民主主義、法の支配を守る。これは日本の国益だ」と述べているように、米国の「自由と民主主義」を日本の国益の上においているからだ。いいかえれば、日本は植民地でも傀儡国家でもないが、無条件降伏した国家として日本の上に戦勝国である米国が君臨しているからだ。そしてそこには、米国に従うことによって自己の利益を得ようとする日本の勢力がいる。侵略戦争をおこなってきた旧支配層は他国を隷従させたので自己が従属してもなんとも思わない。そして、米国の覇権にすすんで加担することなる。単なるかいらい売国勢力ではなく従米覇権勢力ともいうべきか。地検特捜部が米国の指示で動く部署だとしたら、財務省や外務省が従属覇権勢力の巣窟と考えれば分かりやすいかもしれない。

しかし、今や戦後日本を占領し日本を従属させてきた時と異なり、米国の力は著しく弱化している。歴代自民党の首相をはじめ多くの政治家、学者、マスコミは「自由と民主主義が日本の国益」「米国の国益が日本の国益だ」と言ってきたが、今回の岸田首相の発言にたいしては大手マスコミでも必ずしも全面賛成ではなく、疑問を呈している。

米国の力が弱化したもとで日本が「同盟者」として先頭に立って頑張りますよというのが岸田首相の言い分だが、実際は米国の尖兵として肉を切られ骨を切られるまで使い捨てられることを甘い言葉で強要されているのだ。もともと米国の国益が日本の国益になりえないが、米国の国益を日本の国益とするその乖離、軋轢、矛盾が耐えられないほど大きいなものになっている。

もはや日本国民にとって米国の国益が日本の国益ではない。日本の国益はあくまで日本国民の利益を守ることであり、日本を米国に統合し米国の尖兵となって対中戦争をおこなうことではない。

日本国民の利益を守る真の国益を擁護するために、「日米同盟新時代」を掲げた米統合と戦争策動に反対する闘いを起こしていくことが問われているのではないかと思っている。

▼赤木志郎(あかぎ・しろう)さん
大阪市立大学法学部中退。高校生の時は民青、大学生のときに社学同。70年赤軍派としてハイジャックで朝鮮に渡る。以来、平壌市に滞在。現在、「アジアの内の日本の会」会員

『一九七〇年 端境期の時代』

『抵抗と絶望の狭間 一九七一年から連合赤軍へ』(紙の爆弾 2021年12月号増刊)
『一九七〇年 端境期の時代』