激変タイ国! ムエタイ界 コロナ禍後の現在 堀田春樹

2020年3月にルンピニースタジアムで発生した新型コロナウイルスの集団感染に始まったタイ国内のムエタイ界は大打撃を受けてさまざまな形で変貌を遂げてきました。

コロナ禍以前と同様にギャンブルありきのムエタイも復活していますが、”新しい様式のムエタイ”と言われるルンピニースタジアムでのONE Championship(興行名はONE Friday Fight)、ラジャダムナンスタジアムでのラジャダムナン・ワールド・シリーズ(RWS)といった新しいスタイルでのムエタイが毎週開催されて現地では人気上昇中の様相です。

今年5月28日には、ラジャダムナンスタジアムに於いて、現職警察官による総合格闘技ルールでの「COPS COMBAT」が開催され、女性警察官も出場。今やバイクの発表会にも使われ、いろいろなイベントが開催される殿堂スタジアムへ変貌してきました。

5月28日に行われたCOPS COMBATの様子 ©THAI RATH
COPS COMBATの試合、グローブはオープンフィンガーグローブ ©THAI RATH

◆ONEとRWSの人気

ONE Championship(設立当初はONE Fighting Championship)は2011年7月、総合格闘技団体としてシンガポールで設立されていますが、ルンピニースタジアムでのONE Friday Fightは2023年1月10日から始まりました。

ONE Championshipは魅せる演出と競技をバランスよく融合させて来た様子で、極力ワイクルー(試合前の戦いの舞い)を少なくし、試合中の演奏は排除。グローブはMMA(Mixed Martial Arts)と同様のオープンフィンガーグローブ使用となっており、ムエタイルールだけでなく、キックボクシングルールや総合格闘技(MMA)ルールでの試合も同興行内で混合して開催しています。

オープンフィンガーグローブはサイズがS、M、L、XLとあって選手各自が選べます。毎試合新品を使用し、重さ的には4オンス程度と言われます(大きさにより若干ズレがある模様)。

RWSは2022年7月22日より8人トーナメントでスーパーウェルター級、フェザー級、ライト級、ウェルター級で開催され始めました(当初の発表)。

RWSはONEよりは従来のムエタイ様式を残しており、試合前のワイクルーや試合中の戦闘音楽演奏は従来どおりでも、独自のルールを作り上げている部分があり、3回戦制でのラウンドマストシステム、オープンスコア制を採用しています(タイトルマッチは5回戦)。

ONEとRWSのトレードマーク

◆ギャンブルとしてのムエタイ

これらはいずれもタイ国スポーツ局で認可されている本来の正式なムエタイ競技で定められたものではありません。

本来のムエタイは1999年制定のタイの法律で管理されており、ムエタイ競技は5回戦(3分制)は当然で、グローブも打撃技も従来どおりです。スポーツ局が認定するコンバットスポーツ(一対一で戦うコンタクト競技)に関してはカテゴリーが4つに分かれており(以前に取り上げていたら重複する説明かもしれませんが)、

1.ムエタイ競技
2.ボクシング競技
3.アマチュア競技
4.その他の格闘技

以上が定められた分類です。

MMAや本来のムエタイルールとは違う独自のシステムで行われている3回戦制などの試合は、全てカテゴリー4の“その他の格闘技”に一括りにされている状態で、正規ムエタイ競技の公式戦とは違ってしまうのが法律上の解釈です。それでも“ムエタイ”と言ってイベントが開催されているのは、ここが抜け道と言えるような状態に規制が無く、緩く感じさせている要因でしょう。

しかし、細かな競技の規定に対して一般ファンや視聴者にとってはさほど興味は無く、観る側が面白いかどうかが重要で“これもムエタイ、あれもムエタイ”と多様化して来た流れでしょう。

プロモーター主催の正規5回戦制試合は、水曜日と木曜日のラジャダムナンスタジアム、火曜日と金曜日のランシットスタジアム、日曜日のBBTV・7チャンネルスタジアム、土曜日のオムノーイスタジアム、土曜日のヨッカオスタジアム(ジットムアンノンスタジアム)などで開催されており、コロナ禍前と同様にギャンブラーが賭けを行なっています。

ラジャダムナンスタジアム、ルンピニースタジアムなどの歴史あるスタジアムは、標準スタジアム、公式スタジアムと表現されることが多く、標準規定のリング設置、リングドクター常駐や厳格な計量、ボクシング法に基づいた運営と言えるスタジアムで、正式にギャンブル可能な賭博場の政府認可を受けたスタジアムとも言えます(現在ルンピニースタジアムは賭博停止)。

2018年6月17日、緑川創が挑戦したラジャダムナン王座、本来のムエタイである

◆スタジアムの新しい在り方

懸念されることは、ラジャダムナンスタジアムのタイトルマッチでも、RWS興行内で行われるタイトルマッチと通常のプロモーター主催興行で行われるタイトルマッチとでは、同じ5回戦でありながら、RWSではラウンドマストシステムでのオープンスコアでの採点方式で、通常興行では本来のシステム(10対10有り、採点公開無し)で行われておりダブルスタンダードになっています。同じスタジアムの正式タイトルマッチでシステムが違うことについては、採点基準そのものは問題無いものの、どこのマスメディアも問題提起しないことが不思議ではあります。

しかしながら、ONEやRWSのような新型ムエタイでも、ムエタイの名が世界に広まるのはタイ国としては大歓迎の様子で、本来のムエタイも正規のルール、システムで盛り上がっており、伝統格式が完全には崩れていない安堵もあります。生き残るのは元祖ムエタイか、新型ムエタイか、数年では決着は付かない様相のムエタイ界を楽しんでいきましょう。

6月14日のONE Friday Fightポスター

6月14日のONE Friday Fightに出場した日本側の選手4名もポスターに登場しました。
小田魁斗(VERTEX)
COCOZ (TRY HARD)
谷津晴之(新興ムエタイ)
山岸和樹(PCK連闘会)

6月22日のラジャダムナンワールドシリーズトーナメントポスター

6月22日のラジャダムナンワールドシリーズ、ウェルター級トーナメントが行われました。(8人制/ Aブロック4選手、Bブロック4選手)

▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]
昭和のキックボクシングから業界に潜入。フリーランス・カメラマンとして『スポーツライフ』、『ナイタイ』、『実話ナックルズ』などにキックレポートを寄稿展開。タイではムエタイジム生活も経験し、その縁からタイ仏門にも一時出家。最近のモットーは「悔いの無い完全燃焼の終活」

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