新型コロナ禍と釜ヶ崎「命の危機」! 10万円特別定額給付金をすべての野宿者、住民票のない者にも、一人残らず配布せよ! 尾崎美代子

◆コロナ禍、「命の危機」はすべての人に平等か?

今回のコロナウイルス禍について「全世界的に平等に降りかかり、階層もなく命の危機にさらされた」という学者がいた。確かに亡くなった人の中には、志村けんさん、岡江久美子さんなど経済的余裕のある人がいたのも事実だ。しかし、本当に「命の危機」は階層とは全く関係ないだろうか。

3・11の福島第一原発事故で放出された放射能は、地域の差はあれ、そこに住む全ての人々に平等に降りかかりはした。しかし、その後の個々の対応、とりわけ人体に多大な健康被害を及ぼす放射能を回避する方策については、階層及びそれに伴う経済的差異や地位によって、明らかな差が生じた。

もちろん避難や移住が経済的理由だけで決まった訳でないことは、家族を被ばくから守るため、着の身着のままで避難する人たちが多かったことからも明らかだ。しかし一方で、避難指示が解除された後、経済的理由などで泣く泣く線量の高い故郷に帰らざるを得なかった人たちがいたことも事実だ。

放射能もコロナウイルスも、全ての人に平等に降りかかりはするが、それをどう回避するかの条件は、全ての人に平等に与えられている訳ではないということだ。

毎日店の前を台車で通るAさんは、コロナウイルスが流行っていることすら知らなかった

◆「すべての人に給付金10万円を」

コロナ対策で、政府が全ての人を対象に唯一決まった10万円の特別定額給付金は、複雑難解な当初の30万円給付金案から、より「簡素な仕組みで迅速に」「一日もはやく手元にとどけ」との目的で変更された。それは一刻も早く届けないと、命の存続にかかわる事態に追い詰められている人たちが多数いるからだ。

私の住む釜ヶ崎では、建設現場の相次ぐ閉鎖で仕事が減ったうえ、GW前から、地区内のいくつかの炊き出しが中止となった。

空き缶、銅線、鉄を集めて、1日約千円にしかならない。開放会館に置かれていたCさんの住民票は、2007年強制削除された
カンパで頂いた米、食材を使い、1日7個~10個を順番に配っている

そんななか、「どうしたら、野宿者らにも10万円を渡すことができるか?」と考えながら私は、マスクと弁当を野宿者らに配ろうと考えた。GW突入と自粛要請が重なり、店も暇になり、時間も出来たし、ちょうど同じころ、マスクや米などのカンパが届いたからでもある。

とはいえ、仕事合間に1人でやることなので、数は1日10個前後としれている。店の近くを台車で通る人数人、閉鎖されたセンターのシャッターの下に野宿する人たちに、毎日順番に配ることにした。

マスク、弁当を渡しながら、10万円給付金を受け取る条件となっている「住民票」の有無などの話を、本人から聞き出すことも目的の一つだった。

同上

店の近くを日に何回も行き来するAさんに初めてマスクを渡すと、Aさんはきょとんとしていた。考えたらAさん常に1人、他の人と話すこともなく、携帯やテレビで情報を得る環境もない。「コロナウイルスという危険なウイルスが流行っているから、マスクして」と伝え、毎日弁当を届けた。

そのうち、Aさんは少しずつ話すようになった。きっかけは10万円給付金の話。「10万円、貰えるんか? 本当か?」。そしてAさんは私に年齢、名前、住民票は府内某所に置いたままだと話した。

もう一人、同じく毎日店の前を通るBさんは、50代で病気を患い、生活保護を受けたが、運悪く「囲い屋」に囲われてしまったようだ。Bさんは「囲い屋」とは言っていないが、住民票の話になると、必ず「前に生活保護受けた部屋に置いたまま」と暗い表情で悔しそうに話すため、私がそう考えたのだ。

センター近くでアルミ缶、鉄、銅線などを集め、1日約千円を凌ぐCさんにも住民票がない。聞けば、2007年釜ヶ崎開放会館に置かれていた2088人の住民票が、大阪市に強制削除された際の犠牲者の一人だった。またセンターに野宿する50前後の若い男性は、6年前働いていた会社の寮に、他にも以前住んでいたドヤやアパートに置いたままの人が多い。さらに多くの人は住民票をもっておらず、本籍地に戻された住民票を移すにしても、自分を証明するものが全くない人も多数いた。なお「10万円はいらんわ」という人も数名いた。

自転車に山ほど積まれた空き缶、アルミの値段が下がり、以前はこれで2200円あったが、今では1800円に

◆10万円給付金、「現に居住している場所」で受け取れるように!

決まった場所に定住する野宿者だけでなく、荷物を積んだ台車を押しながら、あちこち点々とする野宿者も多い

大阪出身で元松竹芸能所属のお笑い芸人だった清水忠史(ただし)衆院議員が、Twitterで5月18日、「19日の衆院財務金融委員会で質問にたちます。新型コロナウイル禍で、いかにして個人事業者や生活困窮者に支援するのか、財務省、経産省、厚労省の見解をといます」と呟いていた。一方、私たちは、4月28日西成区役所に要請を行っていたが、区役所から「給付については大阪市役所市民局が行う」と返答されたため、5月8日仲間と大阪市役所に向かい、「10万円定額給付金が、住民票を持ってない人にも必ずわたるように」との要望書を提出していた。しかし1週間後の15日夜遅くに届いた返答は「あと1週間回答を待ってほしい」とのことだった。

「野宿者らに本当に10万円届くのか」。不安になった私は、藁にもすがる思い、そしてダメ元で、清水議員にDMを送った。「大阪市は10万円給付金、とにかく住民票のある人と言っていますが、私たちはずっと野宿者など住民票取れない人にも本人確認して渡して、と訴え続けています。明日の質問にちょっとそのことも質問してもらえないでしょうか。ご検討をお願い致します」。

律儀にすぐに返答があった。翌日「確認したいことがあります」と連絡があり、携帯番号を伝えたところ、すぐに連絡が入った。電話で私は、釜ヶ崎の野宿者の置かれた厳しい現状、とりわけ住民票を移すにも、自分を証明するものが全くない人が多数いること、大阪市はそれまで、住民票の取れない労働者に対して、解放会館などで住民登録することを勧めてきたくせに、2007年2088人の住民票を強制削除した件などを説明した。

清水議員は、20日「地方創生に関する特別委員会」で、新型コロナ禍での生活保護制度の運用や、1人10万円の特別定額給付金の問題をとりあげ、質問したようだ。委員会終了後、「総務省とのやりとりで、2007年の『事件』も含めて伝え、大阪市では簡単に住民登録ができないこと。こうした人たちをどのように救済するかが問われていることを指摘したところ、総務省政務官は『現に居住していることを市区町村に認めてもらえるように取り組む』と答弁した」とメールが届いた。

これを先に進めたら、野宿者の人たちにも10万円が手渡せるはずだ。もちろん私たちの要請行動も引き続き行っていくが、それに加えて議員やマスコミへの働きかけなど様々な形で、「住民登録」のみに固執し続ける国、行政の考えを改めさせなくてはならない。

ある税理士さんがこう呟いていた。「確かに給付対象は住民登録者とされている、でもこの規定は支給の便宜を考えてのもの。目的が国民の生活費支援である以上、最もこれを必要としてる彼ら(住民票のない路上生活者)の除外は許されっこないね。役所は住民票でやり方が楽なんだろうけど、少しは汗かきなよ」。

今回の10万円給付金の目的(理念)は、コロナ禍で生活に困窮した人たちを助けるためだ。その支給の「便宜」のため、戦術として住民登録が選ばれただけだ。ならば、国は再度立ち止まって、その目的(戦略)のために何ができるかを必死に考えるべきだ。「オギャー」と産まれたばかりの赤ちゃんも、すぐにコロナ禍に放り込まれるのだから、10万円給付は当然だが、これまで何十年も、日本経済の末端で、それこそ汗水流して働いてきた労働者が、いまは野宿で住民票ないからと10万円受け取れないなんて、余りに理不尽だ!国と行政は、すべての野宿者、住民票を持たない人にも10万円が渡るよう、必死に動き汗水を流せ!

センターが閉まったため、水飲み場はどこも洗濯、シャンプー、ひげそりなどする野宿者で混んでいる

※コロナ禍をめぐる釜ヶ崎のこうした現況について、MBS(毎日放送)の情報番組「ミント!」が本日5月26日(火)18時15分頃から報じる予定です。関西の皆様、ぜひご覧ください。

▼尾崎美代子(おざき みよこ)

新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

月刊『紙の爆弾』6月号 【特集】続「新型コロナ危機」安倍失政から日本を守る
『NO NUKES voice』Vol.23 総力特集〈3・11〉から9年 菅直人元首相が語る「東電福島第一原発事故から九年の今、伝えたいこと」他

【カウンター大学院生リンチ事件(別称「しばき隊リンチ事件」)検証のための覚書2】みんなグルだった!? 鹿砦社代表 松岡利康

直近の大きなニュースの一つは、東京高検トップ・黒川弘務(元)検事長の賭けマージャンスキャンダルでしょうか。そしてその賭けマージャンに産経新聞記者2人と朝日新聞社員(元検察担当記者)が同席していて、これが常習化していたそうです――また朝日新聞か! 

朝日といえば、先立って阿久沢悦子記者(大阪社会部から現在静岡総局)にまつわることを報じたばかりです。特段朝日を嫌いではありませんし、自宅で購読しているのは朝日ですが、15年前の「名誉毀損」出版弾圧事件での官製スクープ以来、くだんのリンチ事件での司法記者クラブ所属記者や朝日本社広報の対応(詳しくはリンチ本第4弾『カウンターと暴力の病理』を参照してください)など、なにかと因縁があります。そのどちらも私が悪いわけではありませんが、阿久沢記者、それに大阪社会部記者らには、とても日本でトップクラスの大新聞の「ジャーナリスト」とは思えない振る舞いに煮え湯を飲まされてきましたが、「またか」という思いが尽きません。

ちなみに、こういう大手新聞社・通信社の記者や社員が起こした事件を報じる場合、なぜか実名を出しませんが、いつも疑問に思っています。マスコミは「第四の権力」ですから、「第四の権力」者は(準)公人と言ってもよく、こんな大スキャンダルですから実名を出すべきでしょう。一般市民がささいな事件を起したら簡単に実名や住所(さすがに番地までは出しませんが)など掲載するのに、です。逆じゃないでしょうか?

さて、私が阿久沢記者を許せないのは、村八分状態にあったリンチ被害者M君が孤立していたさなか、あたかも味方のように近づき精神的にも弱っていたM君を弄んだからです。阿久沢記者は、自称「浪花の歌う巨人」ミュージシャン趙博をM君に紹介し、挙句趙博は、当時まだ公にされていなかったリンチ事件の貴重な資料を入手し、その後M君や、M君支援に関わり始めたばかりの私たちを裏切りました。私たちは趙博に直接裏切られましたので、彼がいろいろな運動や組織に近づき、いかがわしい動きをしていることに不信感を抱かざるをえません。私たちは彼に直接裏切られたのでハッキリ言いますが、「趙博に気をつけろ!」

 

阿久沢記者について、調べていくと、「ん、っ!?」と思わざるを得ない写真が出てきました。阿久沢記者の隣にはリンチ事件隠蔽のA級戦犯の一人・北原みのり、そしてリンチ事件隠蔽の表には登場しませんが、取材により関与が疑われた谷口真由美、また井戸まさえ(元衆議院議員)、らが写っています。

「石原燃さんの『白い花を隠す』の再演を池袋に観に行きましたら、井戸さん、谷口さん、北原さん、中安さん、なつきちゃん……知り合いがぞろぞろと客席に……いやー、びっくりしました」ということです。「いやー、びっくり」したのは私のほうです。なあんだ、みんなグルだったのでしょうか。極めて不愉快です。

谷口真由美が、リンチ事件について、あちこちで嗅ぎまわっているという噂がありましたので、「なぜだろう?」と思っていましたが、この写真で合点がいきました。

4月28日は、対李信恵第2訴訟、対藤井正美訴訟の期日でしたが、コロナウイルスによる非常事態宣言で延期になりました。どちらも代理人は神原元弁護士ですが、これらの裁判のために東京からやって来る神原弁護士のために、私たちなりに配慮して同日に開くことに同意しています。べつに配慮してやらなくてもいいんでしょうが、余裕です(笑)。他にも李信恵が高島章弁護士を訴えた訴訟も神原弁護士が代理人を務めていますが、これも同日で、神原弁護士は1日にダブルヘッダーならぬトリプルヘッダーで大車輪のご活躍です。

 

次のリンチ関連書籍や陳述書の準備のために、静かで長かったGW中にこれまでの資料などを整理していくと、新たに分かったこともありました。

M君の“元上司”に高橋直輝こと添田充啓という男がいましたが、不審な亡くなり方をして、もうどれほどになるのでしょうか。添田は「しばき隊」の中でもゲバルト部隊の感のある「男組」のトップで「組長」といわれていました。M君は添田の部下でしたので、添田への直撃取材も敢行しようとしていました。

添田と一緒に親しげに写っている著名人の写真が出てきました。あれっ、佐高信、社民党党首・福島みずほさんではないですか? 

 

福島が関わった集会のフライヤーも出てきました。この集会の司会は池田幸代(元福島みずほ秘書)、出席者に辛淑玉、金平茂紀、福島みずほらがいましたが、この集会の直後、執行猶予中でありながら、添田は、いわば“鉄砲玉”として沖縄に派遣され逮捕、のちに有罪判決を受けます。

その後、精神的に病んだという噂も耳に入ってきていたところ、謎の死を遂げます。しかし、死亡の報も、実際になくなってからずいぶん経ってからしばき隊の中心人物の一部から漏らされましたが、死の真相は公にならないまま現在に至っています。3回忌とか弔いの儀式などやったのでしょうか? 本当にこれでいいのでしょうか? 添田の死は「死人に口なし」でM君リンチ事件真相究明のためにマイナスになりました。

口封じのために殺られたとか精神的に追い詰められ自殺したとか……あれこれ噂が耳に入ってきていましたが、常識的に言って、添田を死に追い詰めたものは何だったのか、解明しないといけないのではないでしょうか? 

また、彼をやんややんやと煽り立て沖縄に派遣した辛淑玉、金平茂紀、福島みずほらは何を考えているのか、所信を表明すべきではないでしょうか? そうではないですか? 私の言っていることは間違っていますか?

 

その後、しばき隊は沖縄にはどう関わっているのか、これもどうなっているのでしょうか?

くだんのM君リンチ事件それ自体にも、その添田死亡のようにリンチ事件周辺にも不思議なことが少なくありません。

私たちが全く白紙の状態からこのリンチ事件の被害者支援と真相究明に関わってきて、多くのことを反面教師的に学んできました。一番疑問に思ったのは、朝日の記者ら「ジャーナリスト」らの醜態、かつては講演などにも招いたこともある池田香代子ら「知識人」のでたらめさです。

池田香代子は、ご存知のようにアウシュヴィッツの実態を記述したフランクルの『夜と霧』の新訳を出しています。学生時代に旧版を読んで衝撃を受けました。私よりも上の世代にとっては必読本でした。この頃、必読本は多く、一知半解ながら読み、このことが今になっても活きていると思います。

池田にとってアウシュヴィッツとは何なのか? アウシュヴィッツとは、ナチスによるユダヤ人大虐殺があった強制収容所ですが、これはもちろん他人事ではありません。われわれの心の中にも潜在的にアウシュヴィッツ的なものはあり、これと不断に対決していかなければなりません。池田さん、あなたは『夜と霧』を翻訳する過程でアウシュヴィッツがどのようなものか理解されたと思いますが、アウシュヴィッツ的なものはあなたの心の中にもあることを自覚すべきでしょう。

収容所の中で虐殺が行われていたことはドイツの国民や周囲の住民らは知っていたかうすうす感じていたとされますが、これをくだんのリンチ事件に当てはめると、池田らしばき隊に近い者たちは知っていたと推認され、だからこそ真相をたずねようとすると逃げ出したり沈黙したり、逆に開き直ったりするのでしょう。ここにアウシュヴィッツ的なものを感じますが、逃げ出すことなく事実を見つめアウシュヴィッツ的なものやリンチの思想と主体的に対決していかなければなりません。特に池田香代子にはその責任があります。

このかん資料を整理し書き連ねてきたことを、今後数回にわたり分載していきます。(文中敬称略)

◎松岡利康【「カウンター大学院生リンチ事件」(別称「しばき隊リンチ事件」)検証のための覚書1】朝日新聞・阿久沢悦子記者の蠢きと、「浪花の歌う巨人」趙博の突然の裏切りについて(2020年4月27日)

《関連過去記事カテゴリー》
 M君リンチ事件 http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=62

私の内なるタイとムエタイ〈75〉タイで三日坊主!Part67 藤川さんの武勇伝

◆観光ビザ時代

藤川さんがタイに渡ったのは、バブルが弾けるかなり前からではあるが、まだ観光ビザで何度も訪れていた頃まで遡る。

「昔、観光ビザで何回もタイと日本を往復しとった時、パスポートはハンコだらけで帰国の際、『あんたはもうタイに入国出来んぞ!』と言われたんやが、パスポートとズボンをワザと一緒に洗濯してボロボロにしてまた申請に行く訳や、『すんまへん、ズボンのポケットにパスポート入れといたの忘れて洗濯してもうたら、こんなんなってしもうたんや、新しいの作ってくれへんけ?』って言うて再申請や。それ使こうてまたタイ行った。それが通用した時代まではよかったが、コンピューターで記録が残るようになってからは出来へんようになった!」と、こんな程度のことは平気でやったであろう。

そんな日本タイ往来を繰り返していた頃、娘夫婦がタイに来て会う事になった時、「ホテルロビーで待ち合わせしたんやが、たまたまワシが遊び通うクラブの派手な格好のホステスどもが居って『藤川社長~!』て叫びながら寄って来て抱き着かれた時は娘亭主の手前、恥ずかしかったなあ。どんな時も恐ろしいとか恥ずかしいとか思うたこと無いが、あれだけは恥ずかしかった!」という意外な弱点も笑いながら話してくれたことがあった。そんな一方、家族に見せられない中では、

「タイではいちばんの高級ホテルは娼婦の連れ込み禁止やが、7人ほど普通の宿泊客のように装って連れて入って全員裸で居らせて乱交パーティー。ルームサービスを頼んで、ボーイが料理を運んで来た時、女がそのまんまドアー越しに出てしもうて見つかってもうた。即刻出入り禁止になった!」

バブルや日本円の力に物を言わせていた行為だったが、それが自分の力と勘違いしている頃だったという。

◆バブルの陰で

「バブルの頃は土地転がしで皆やりたい放題やった。ワシの口座預かり持っとる銀行員がワシの名義で土地買うて来て、その土地売って、「藤川さん、土地売れましたさかいに、5000万円、口座に入れときましたで!」と言いおって、銀行員が土地の売買やっとったんやからなあ。クラブ連れて行って飲ませると「藤川さん、おおきに!」とか言いよるけど、「どんどん飲めや、お前が稼いだ金やないかい!」といった感じで、このバブル弾けて景気悪うしたこの張本人の、不動産業者やら銀行員やら政治家やら、誰も謝った奴も責任取った奴も逮捕された奴も居らんし、後々も普通に生活しとるし、反省の色も無い。滅茶苦茶な時代やった!」といった現実的な話。

土地の売買では、「バブルの頃の土地売った金の受け渡しを現金でやったある時、100万円ずつ入った封筒を何千万円とか入って来る訳やが、いちいち数えておれんで、確認は封筒から1万円札100枚の束をちょっと引っ張り出してまた中に戻すだけ。すると1枚でも足りんと微妙にスカスカするような感覚が指に残るわけや。そういうのだけ数え直して、あとは封筒単位で何百万、何千万と数えるだけやった。数万円ぐらいは足りんこともあったかもしれんが、桁から言うたら微々たるもんやからそのまんま構わず取引きしとった。」

世間の常識からは桁外れの金額を扱った時代、その後、「娘の居る前で、一般サラリーマン級の相手と物の値段の話になると『ウチのお父ちゃんは金銭感覚狂うとるから、高い買い物の相手したらアカンで!』と忠告するようになった!」と笑っていた。

まだ五十代前半頃、元気にいろいろな所へ出向いた藤川さん

◆親孝行物語の裏側

これが最も現実的なタイ人の姿かもしれないが、タイの最も貧しいイサーン(東北地方)の家庭に育った女の子が、貧しい両親や弟妹を養う為にバンコクや日本に出稼ぎに来て、娼婦となって稼いだお金で両親にキレイな家を建ててやり、電化製品が揃った便利な生活をさせてやる親孝行物語。そんな単行本を藤川さんに見せると、

「ワシはその類いの話は信用せえへんで。ワシは実際にこの目で現実を見て来たが、バンコク、チェンマイ、プーケット、そして日本で、売春婦と呼ばれる少女やジャパユキさんと呼ばれる若い女の子と付き合い、名古屋では彼女らの泊っているマンションで、15~16人の女の子の生活を覗いたこともあるが、中には実際に貧しくて家族の生活の為、また親が無学な為、無理やり売られて来た子もいたが、大半は贅沢がしたくて綺麗な服が着たくて、あるいは纏まったお金を掴む手段としてその道に入ったというのがほとんどや。実際彼女らは明るく楽しそうでジメジメした暗いところは少ない。タイ人の仕事に関する一般的な考えを見ていても、女が身体を売って金を稼ぐのも甲斐性の一つだという面もある。とりあえずしんどい思いをせずに、綺麗な恰好して楽に稼げる職業に憧れる傾向が強いんや。実際、北部タイやパークイサーン(東北地方)にも行き、彼女達の実家に行ってみると、彼女からの仕送りの金で家を建て替え、テレビや冷蔵庫などの電化製品を買い、親たちは仕事もせんと酒を飲み博打をやって居る。そしてそれを見た他の親は娘に売春婦になることを勧める始末で、村の若い男達は彼女達が村へ帰って来ると先を争って稼いだ金を目当てに結婚を申し込む始末。むしろ問題は彼女達からピンハネをする組織の方で、そちらの問題を解決するべきや!」というジャーナリスト級の体験談。新たに真実本でも書けばと思うほどである。

こんな出会いもあった。左は習志野ジム・樫村謙次会長。覚えていないだろうなあ!

◆キックボクシングの冷静な未来予想

私の関わる業界にも触れたことがあった。一般論でもあるが、
「キックボクシングは国民の関心が低く、裾野が広がらん。野球やサッカーには少年野球、少年サッカーがあってその大きな裾野があるやろ。ボクシングは世界が相手で、そこまでの道が通じるが、キックはそうはいかん。昭和40年代のキックブームの頃、小学校では、野蛮で禁止されたキックの真似事。これじゃあ裾野が広まる訳が無い。格闘技はハングリースポーツで、強くなれば普通の世界では得られない稼ぎが出来てこそ裾野が広がる。ボクシングも最近の日本にかつての勢いが無いのは他にもっと稼げるものがナンボでもあるからやろ。キックはメジャーになることなく一部のお遊びで終わるやろな。そして時代は観るだけでなく、自分らも出来る参加できるスポーツへと進んで行くんではないんかなあ。」

これが25年前の一般社会人目線での意見。現在、誰でも出来るとまでは言えないが、キックに限って言えば、ジュニアキックからオヤジキックまで、参加しようと思えば女性でもちょっと鍛えて参加し、またはボクササイズでも鍛えられる、藤川さんの予想は近い線を行っている感じではあった。

相手の都合を考えないつまらん長話は藤川さんの怨念が原稿に乗り移ったか、鬱陶しくて聴いてあげられなかった分、出家後の坊主目線の話題を、もう少々だけ触れておきたいと思います。

小国ジム・斎藤京二会長とのツーショット。覚えていないだろうなあ!

※写真はイメージ画像です。画像は文面と直接の関係はありません。

◎[カテゴリーリンク]私の内なるタイとムエタイ──タイで三日坊主!

▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]

フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

最新刊!月刊『紙の爆弾』2020年6月号 【特集】続「新型コロナ危機」安倍失政から日本を守る
一水会代表 木村三浩 編著『スゴイぞ!プーチン 一日も早く日露平和条約の締結を!』
上條英男『BOSS 一匹狼マネージャー50年の闘い』。「伝説のマネージャー」だけが知る日本の「音楽」と「芸能界」!

衰亡の北九州と繁栄の博多(福岡市) 工業都市の凋落に見る昭和の歩み

衝撃的なニュース。いや、予期されていた大型百貨店の閉店である。

2020年5月20日付西日本新聞

【北九州市八幡西区の百貨店「井筒屋黒崎店」が入居する商業ビルを運営する「メイト黒崎」が、東京地裁から破産手続き開始決定を受けたことが20日、分かった。決定は11日付。破産管財人の弁護士によると、負債総額は約25億2600万円。井筒屋黒崎店は同じビル内の専門店街「クロサキメイト」(約80店)とともに8月に閉店する。】(西日本新聞・5月20日)

「北九州市の衰亡」とでも表現しておこう。2000年の小倉そごう、2001年の門司山城屋、2002年の小倉玉屋の閉店につづき、北九州からまたひとつ、商業・情報発信の拠点がうしなわれたことになる。

いっぽう、福岡市(博多)はこの5月に人口が160万を超えた。政令指定都市の中で160万人をこえるのは、横浜市・大阪市・名古屋市・札幌市についで5番目だという。福岡市の年間移入者数は1万4千人あまりで、じつにその8割が15歳から24歳である。つまり、高校・大学進学と就職の両面で、地方における一極集中が加速しているのだ。

2020年5月20日付西日本新聞

北海道における札幌市、東北における仙台市、中国地方における広島市と、ミニ東京への人口集中が、その他の地方の衰亡を招いている。そんな中でも、北九州市の衰亡は昭和型工業都市の凋落、福岡市は商業都市の隆盛として典型的であろう。

◆重厚長大産業の崩壊

北九州の凋落と福岡市の隆盛は、まさに戦後の日本の歩みを象徴しているといえよう。もともと福岡市(博多)は黒田52万石の城下町で、戦国時代いらいの博多商人の商業地でもあったのは史実である。

しかし、わたしが北九州に生まれた昭和30年代には、博多は単なる地方の商業都市にすぎなかった。というのも、北九州が五市合併(小倉・八幡・門司・若松・戸畑)で沸き立ち、県庁所在地(福岡市)を圧倒するいきおいで人口が増えていたからである。東京都の向こうを張って「西京市」という新市名が検討されたほどである。なぜ博多(福岡市)のように地味な町に県庁があるのか、子供ごころに不思議だと思っていたものだ。

合併のなった昭和38年に、三大都市圏(京浜・阪神・中京)以外では、初の政令指定都市となった。世に言う「日本四大工業地帯」のひとつでもある。すごいのは工業だけではなかった。門司鉄道総局とその機関区は九州の国鉄の司令部であり、西鉄の路面電車は80年代に全国最長を誇った。3大新聞の西部本社が存在するという意味でも、北九州市は博多(福岡市)を圧倒していたのだ。※松本清張は朝日新聞社の嘱託だった。

だが、その産業構造は石炭(炭田)と鉄(八幡製鉄)・セメント(石灰石産地)・化学工場(三菱・住友)・窯業(TOTO・黒崎播磨)など、重厚長大そのものであった。※佐木隆三は八幡製鉄、草刈正雄は東洋陶器の社員だった。

♪天に炎をあぐる山 鉄の雄叫び洞海に

わが母校の校歌の一節である。炎をあげている山は筑豊炭鉱(炭田)のぼた山、洞海湾にとどろく鉄の雄たけびは、いうまでもなく八幡製鉄である。なんともワイルドで、高度成長下の昭和を感じさせる歌詞ではないか。じっさいに校舎の近くには石炭列車の引き込み線があり、教室の窓から洞海湾が望めたものだ。

往時の八幡製鉄は2交代制勤務で、八幡の山沿いに住んでいる労働者たちは、リポビタンDを早朝・深夜営業の薬局でもとめ、ゾロゾロと工場の門に吸い込まれていた。また、小倉の繁華街では明け方まで、夜勤の新聞印刷労働者たちが酒を酌み交わしていたという。

若松港や門司港は、火野葦平の父親・玉井金五郎親分の時代から、港湾労働者(沖仲士)のメッカでもあり、喧嘩っぱやい気質は「北九モン」(北九州者)と、他県の人々から怖れられていたものだ。その地に仕事をもとめて、日豊線・筑豊線・日田彦山線・山陽線からの労働力が集中したのである。

だがその重厚長大な産業構造は、高度成長の限界とともに下降線を描くことになる。博多(福岡市)にくらべて、土地の狭隘さも仇となった。北九州市は海に面しているとはいえ、旧五市の中心地が山に遮られた盆地のような形状なのだ。住宅地は山裾に貼りつき、風光明媚な風景の反面で住みにくい町でもあった。

工業地帯としての凋落は、八幡製鉄と富士製鉄の合併(新日本製鐵・昭和45年)から始まった。このとき、多くの鉄鋼労働者家族が千葉県の君津(新日鉄君津工場)に移住し、北九州市の100万都市「崩壊」がはじまった。オイルショックのさなか、八幡製鉄所の溶鉱炉が消える。いよいよジリ貧である。

現在では、ネットのまとめサイト(Wiki)によると、工業地帯(地域)としての産業規模も凋落している。

【京浜工業地帯約55兆円、中京工業地帯約48兆円、阪神工業地帯約30兆円、北関東工業地域約25兆円、瀬戸内工業地域約24兆円、東海工業地域約16兆円、北陸工業地域約13兆円、北九州工業地帯約7兆円となり、工業地帯とは大きな差が開き、5工業地域との比較でも最少の北陸工業地域の半数程度まで低下した。】

ちなみに、現在の北九州市は自動車産業(郊外に工場誘致)が主要な産業だという。都市特有のドーナツ現象で、小倉魚町いがいの商店街はシャッター通りと化している。

北九州市観光情報サイトより

◆天神というブランド

北九州市の凋落のいっぽうで、博多(福岡市)は広大な筑紫平野とアジアへの航路を背景に、商業都市としての発展をとげてきた。天神は東京・横浜発の流行情報を真っ先に取り入れ、中洲は歓楽・観光拠点として全国に知られるようになった。

凋落の始まった北九州が、パンチパーマとノーパン喫茶、競輪発祥の地として、社会の仇花のような名を売っていた時期である。六本木とそん色のない天神の繁華街、プロ野球ダイエーホークスの誘致によって、両者の勝負は決定的なものになった。かたや旧100万工業都市、かたやアジア経済の拠点である。

もともと、黒田52万石時代に旧領の中津などから移住がおこなわれ、とくに美女を集めたといわれている。この事情は、佐竹氏(茨城→秋田)が美女を新領地の秋田に移住させたとする説「秋田美人」と重なる、いわゆる「博多美人」である。北九州の女性の「ケバさ(関西風の厚化粧)」にくらべて、いかにも東京風に洗練されている。このあたりも一因となって、若者の北九州離れ、博多流入が加速されたとみていいだろう。

いまや北九州は全国の政令指定都市のなかで、老齢化率ナンバーワンとなって久しい。じっさいに小倉や黒崎の街を歩くと、お婆さん率の高さに驚かされる。

そんな北九州市が生き残る方法は、もはや観光しかないのだ。門司港(レトロ地区)を中心に、映画のロケ誘致、古い倉庫群の保存などが、ようやく実を結びつつあるものの、広大な市域が不均等な発展、すなわちスラム化をもたらしている。その結果が、今回の黒崎井筒屋の閉店であろう。

あまりにも希望がなさすぎるので、宣伝用に観光広告を貼らせていただく。どうか、衰亡いちじるしい北九州市をよろしく。

◎北九州市観光情報サイト https://www.gururich-kitaq.com/
◎門司港レトロ http://www.mojiko.info/


◎[参考動画]わたしの北九州 ~近代産業発祥の地に刻まれた近現代建築を訪ねて ~(北九州市観光情報ぐるリッチ北九州)

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)

編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。医科学系の著書・共著に『「買ってはいけない」は買ってはいけない』(夏目書房)『ホントに効くのかアガリスク』(鹿砦社)『走って直すガン』(徳間書店)『新ガン治療のウソと10年寿命を長くする本当の癌治療』(双葉社)『ガンになりにくい食生活』(鹿砦社ライブラリー)など。

月刊『紙の爆弾』2020年6月号 【特集】続「新型コロナ危機」安倍失政から日本を守る

自分たちこそ自民党も含めた政財界とズブズブ! 検察庁法改正案に反対した検察OBたちの正体 片岡 健

国民的な批判にさらされた検察庁法改正案について、政府・与党はついに今国会での成立を断念した。政権が検察に介入する恐れが指摘された法案が、このコロナ禍のどさくさに紛れて成立することが回避されたのは、とりあえず良かったと言えるだろう。

一方、この間に、法案に反対の声を上げた14人の検察OBがヒーロー扱いされる「異常事態」が起きたことも忘れてはならないだろう。筆者はその問題性について、5月18日付けの当欄で指摘したが、この件に関して、新たに「深刻な問題」がわかった。それを紹介しておきたい。

◆「天下り」で甘い汁を吸ったのは4人

検察庁法改正案に反対の声をあげた検察OB14人は、法務省に提出した意見書で検察が「政財界の不正事犯」も捜査対象にすることを根拠に、検察の独立性が確保されることの重要性を説いている。それ自体は正論と言えば正論だ。

しかし実際には、この意見書を法務省に提出した元検事総長の松尾邦弘氏、元最高検検事の清水勇男氏の両名が退官後に大企業に天下り、自分たちこそが財界とズブズブになっていたことは5月18日付けの当欄で指摘した通りだ。

では、新たにわかった「深刻な問題」とは何なのか。それは、問題の検察OB14人のうち、前出の松尾氏を含む4人が社外監査役や社外取締役として天下っていた企業がよりによって政権与党の自民党に政治献金をしていた、ということだ。

つまり、この4人は、検察の独立性の重要性を主張しながら、他ならぬ自分たちが検察の捜査対象となりうる政財界の仲間入りを果たし、役員報酬を与えられるなどの甘い汁を吸っていたのである。以下に、その4人の名前と各人の天下り先が自民党にどれほどの政治献金をしていたのかを示す。

なお、ここに示した各社の自民党への献金額は、令和元年11月29日付け官報に掲載された「平成30年分政治資金収支報告書の要旨」において、自民党への献金の受け皿となる政治資金団体「国民政治協会」に対する献金額として記載されていたものだ。また、天下り先の会社名の横の()内は、各人が天下り先で与えられた役職だ。

【1人目:元東京高検検事長・村山弘義氏の天下り先の平成30年の自民党への献金額】
・三菱電機(社外取締役) 2000万円

【2人目:元大阪高検検事長・杉原弘泰氏の天下り先の平成30年の自民党への献金額】
・三菱ケミカルホールディングス(社外監査役) 1000万円 ※献金をした際の名義は、三菱ケミカル

【3人目:元検事総長・松尾邦弘氏の天下り先の平成30年の自民党への献金額】
・トヨタ自動車(社外監査役)   6440万円
・三井物産(社外監査役)     2800万円
・損害保険ジャパン(社外監査役) 1360万円
・小松製作所(社外監査役)    800万円

トヨタ自動車のHPで監査役として紹介されている松尾邦弘氏

【4人目:元最高検次長検事・町田幸雄氏の天下り先の平成30年の自民党への献金額】
・三井化学(社外取締役)  250万円
・双日(社外監査役)    1100万円
・みずほ銀行(社外取締役) 2000万円 ※献金をした際の名義は、みずほフィナンシャルグループ

さて、どうだろうか。検察の独立性の重要性を主張する検察OBたちが実際には、自分たちこそ検察の捜査対象となる政財界とズブズブであることが一目瞭然だろう。

◆検察OBたちの天下り先の同業他社が検察の捜査対象に……

ところで、このように、自民党に政治献金をしつつ、大物検察OBたちの天下りを受け入れている企業の名前を見てみると、すぐに気づくことがあるだろう。それは、検察に犯罪を摘発された企業は1社もない、ということだ。

一方で、ここに社名を挙げた検察OBたちの天下り先の同業他社が検察の捜査対象になっている例は散見される。

たとえば、松尾氏の天下り先であるトヨタの同業他社である日産自動車は、会長だったカルロス・ゴーン氏が逮捕、起訴されている。また、あの有名なロッキード事件では、同じく松尾氏の天下り先である三井物産の同業他社である丸紅の元社長らが逮捕、起訴されている。しかも、松尾氏ら検察OBが法務省に提出した意見書では、このロッキード事件を絶賛しているのだから、公正さを疑われても仕方ない。

この問題は深掘りできそうなので、今後も当欄で続報をお伝えしたい。なお、以下に、今回の調査結果のエビデンスを示しておく。

……………………今回の調査結果のエビデンス……………………

【※1】村山弘義氏が三菱電機に天下っているエビデンス
三菱電機株式会社有価証券報告書 第141期(自 平成23年4月1日 至 平成24年3月31日)31ページ
https://www.mitsubishielectric.co.jp/ir/data/negotiable_securities/pdf/141.pdf

【※2】杉原弘泰氏が三菱ケミカルホールディングスに天下っているエビデンス
株式会社三菱ケミカルホールディングス有価証券報告書 第1期(自 平成17年10月3日 至 平成18年3月31日)60ページ
https://www.mitsubishichem-hd.co.jp/ir/pdf/20060705-1.pdf

【※3】松尾邦弘氏がトヨタ自動車、三井物産、損害保険ジャパン、小松製作所の4社に天下っているエビデンス
三井物産株式会社 第93回定時株主総会招集ご通知46ページ
https://www.mitsui.com/jp/ja/ir/library/business/__icsFiles/afieldfile/2015/07/13/ja_93notice.pdf

【※4】町田幸雄氏が三井化学、みずほ銀行、双日の3社に天下っているエビデンス
双日株式会社アニュアルレポート2014(2014年3月期)全ページ版 65ページ
https://www.sojitz.com/jp/ir/reports/annual/upload/ar2014j_a.pdf

【※5】上記の検察OB4人が天下った各社が平成30年に政治資金団体「国民政治協会」に献金した金額
平成30年分政治資金収支報告書の要旨(令和元年11月29日付け官報)
https://www.soumu.go.jp/main_content/000664153.pdf#page=1

▼片岡健(かたおか けん)

全国各地で新旧様々な事件を取材している。原作を手がけた『マンガ「獄中面会物語」』【分冊版】第9話・西口宗宏編(画・塚原洋一/笠倉出版社)が配信中。

月刊『紙の爆弾』2020年6月号 【特集】続「新型コロナ危機」安倍失政から日本を守る
「絶望の牢獄から無実を叫ぶ ―冤罪死刑囚八人の書画集―」(片岡健編/鹿砦社)

コロナ時代の経済学 おカネをまわすために、もっとお札を刷れ! 横山茂彦

◆コロナ自粛で明らかになった経済の本質とは、「消費」である

新型コロナウイルス対策としての「自粛」によって、現代経済の本質が誰の目にも明らかになったはずである。

経済の本質は「労働」でも「生産」でもない。われわれ消費者の「消費」なのである

その本質は「労働」でも「生産」でもない。あるいは「商品」や「サービス」でもなく、われわれ消費者の「消費」なのである。

店を開けなければ、おカネはまわらない。おカネを使わなければ、社会がまわらないのだ。商品生産も在庫も、労働力も流通も以前と変わりはないのに、おカネがまわらない(消費がない)から食べていけない。そして小規模事業者は資金繰りに行き詰まる。経済とはそもそも、おカネがまわることなのである。

じつに単純な原理だが、その原理をないがしろにしてきた結果、不況でも食べられる(貯蓄がある)人々と食えない(貯蓄がない)人々を、われわれの社会はつくってしまっていた。はなはだしい「富の偏在」である。

政治家たちは、需給バランス(生産と消費)やプライマリーバランス(税収と財政)を信奉する古典主義経済学(旧大蔵省官僚)の経済規律に縛られたまま、富の配分(賃金)を怠ってきたのだ。ピケティが言うとおり、富を独占した者たちは、けっしてそれを明け渡そうとはしない。

◆造幣局はおカネを刷れ!

だが、解決策がないわけではない。ことさらMMT(Modern Monetary Theory=現代貨幣理論)に拠らずとも、事業者(資本家)が借金を返す意志と事業計画さえあれば、銀行は金を貸し続ける。それを国家レベルに行なうのが「赤字国債」であり、カネを行きわたらせる金融緩和・財政出動(リフレーション)である。

企業が事業資金を融資されることを「赤字融資」などとは呼ばないであろう。決算も赤字にすることで、わが国の大手企業は法人税をまぬがれてきた。財務省が言う「国の借金」をひたすらまじめに返済しているのは、われわれ納税者なのである。マクロ経済政策(金融政策や財政政策)を通じて、有効需要を創出するケインズの思想を呼び起こせ。

ちょうどニュースが入った。財務省は5月8日に、国債と借入金、政府短期証券を合計した国の借金が2019年度末時点で1,114兆5,400億円となり、過去最大を更新したと発表した。2020年4月1日時点の総人口1億2,596万人(総務省推計)で割ると、国民1人当たり約885万円の借金を抱えている計算になるという(共同通信)。

べつに何の問題もない。物資不足・食料不足にならないかぎり、ハイパーインフレは来ないのである。もう20年以上もこの議論はやってきたではないか。戦間期ドイツも敗戦後の日本も、物資不足からハイパーインフレを体験したのである。それがまた、好況への起爆剤になったもの史実である。

わが国の資本家と安倍政権は、日本型経営(終身雇用)を解体するいっぽう、その補完物としての労働市場の自由化(非正規)を拡大し、消費経済は逼塞してきた。買い手におカネを配らないで、商品(およびサービス)が売れるはずはない。

そもそも大量生産は大量消費によって支えられる経済構造であるのに、片方を潰してしまったのが80年代以降の新自由主義なのである。日本型経営がじつはフォーディズム(労働者に余暇と賃金を与え、クルマと生活を保証する)であり、労使が共同体として経済成長を達成してきた原理であることを、80年代後期のバブル崩壊によって破壊してしまったのだ。

◆生産者を食べせる賃金が、資本を回転させる

にもかかわらず、安倍政権は「働き方改革」として「同一労働同一賃金」をスローガンに掲げた。この心地よいスローガンを取り入れる安倍総理のパフォーマンスを、われわれは社会主義的な労働証書制として解釈しようではないか。

1991年にソビエト連邦が崩壊し、中国も市場経済(資本主義)の道をきわめた今日、資本主義の政治的代理人が労働証書制を口にしたのである。財界・労働界・諸政党も、そして国民もこれに異論はないという。

共産主義の第一段階(社会主義)における労働証書制とは、工場委員会やコミューン(地区ソビエト)が、この労働者は何時間労働したという証明書を発行し、労働者はその範囲内で自分が必要とする生産物を、労働協同組合の倉庫から取り出すというものである。

資本主義における賃金が労働力の価値(価格)であるのに対し、労働証書は労働そのもの時間数(量)である。資本主義の労働力の価値(価格)とは、労働者が生きて明日も労働者として働ける今日の労働力の再生産費であって、実際に行なった労働の量とは異なる。この差が「剰余労働」であり、資本家が労働者から搾取している。と、マルクス主義経済学は説明する。この搾取をなくせ、というのがマルクスの主張である。

ようするに、資本+労働-賃金=剰余労働(価格)をなくしてしまえば、そこに労働量(労働証書)が残る。それは同一の労働に対して、同一の賃金で報いるということだ。

それでは、安倍政権の提唱する「共産主義の第一段階(社会主義)」は、どうすれば実現できるのだろうか。大目標(共産主義的にいえば最大限綱領)ではなく、最小限綱領(実現可能な政策)として、可能性はあるのだろうか?

方法はそれほど難しくない。国民(成人)ひとりあたり20万円のベーシックインカムを実施し、年間40兆円といわれる企業の内部留保を財源に充てればよいのだ。それができない企業は潰して(国有化して)しまえ。

問題は「同一労働同一賃金」を時間で測るのか、それとも労働の質を「同一労働」とするのかであろう。いますぐに、政府は「自粛後」の生活資金を支給せよ。配るカネがない? いや、刷ればいいのだ。


◎[参考動画]【財源の話】れいわ新選組代表 山本太郎(2019年国会質問&スピーチ集より)

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)

編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。医科学系の著書・共著に『「買ってはいけない」は買ってはいけない』『ホントに効くのかアガリスク』『走って直すガン』『新ガン治療のウソと10年寿命を長くする本当の癌治療』『ガンになりにくい食生活』など。

月刊『紙の爆弾』2020年6月号 【特集】続「新型コロナ危機」安倍失政から日本を守る

自粛同調ファシズムに抗して、渋谷と高円寺で若者たちが「要請するなら補償しろ」デモ決行! 林 克明

◆コロナ対策はゆっくり、コロナファシズムは急展開

「自粛自粛はお金が足らぬ」大日本自粛連盟(5月5日高円寺)

コロナ感染拡大防止のため、政府は4月7日から非常事態宣言を出し、5月4日には5月31日までの延長を決めた。
 
新型コロナウイルスに関する情報が膨大に流れ始めた2月中旬、社会の流れる見るポイントを、筆者は3つ決めた。

(1)医学的科学的な対処法
(2)外出自粛などによる経済恐慌と生活破壊
(3)パンデミックによる全体主義への兆候

どれも大切でそれぞれが複雑に連動しているのは言うまでもない。そして、それぞれの項目に問題が続出している。

医学的な見地では、PCR検査をめぐって様々な情報や意見が飛び交い、非常事態宣言や外出自粛要請の根拠となる専門家委員会のシミュレーションに重大な疑問が沸き上がっている。

経済と生活の問題では、自粛強制による休業で経済破綻する人が続出している。政府は休業要請する一方で、かたくなに補償を拒んでいる。そのため、経済苦境に陥る人が激増している。

もっとも懸念されるのは、度を越した同調圧力でファシズム的雰囲気がパンデミックのように広がっていることである。

そのような風潮の中で、政府の要請(命令)に従うことを絶対視し、自分の小さな正義感を満足させるために「自粛警察」「自粛ポリス」などという人たちが現れ、従わない人々を「罰する」ようになった。

一般人ならともかく、政治家にも「自粛警察」はいる。筆頭は、休業要請に従わないパチンコ店を公表して大衆の攻撃の的に誘導した吉村洋文・大阪府知事。ナンバー2は、同じことをした小池百合子・東京都知事である。

休業を要請するだけで補償をしない政府に批判の矛先を向けるべきだろう。ところが、もっと厳しく規制しろ! 私権を制限しろ! 緊急事態宣言を早く出せ! とテレビと一般庶民が下から突き上げてきたのが現状である。

このようなファシズム的な空気の中で、ストレートに政府に批判を向ける人々がいる。それが、「要請するなら補償しろ」とスローガンをかかげて街頭デモを行なっている人たちだ。

「要請するならもっともっと毎月補償しろ!」(5月5日高円寺)

◆補償がなければ外出して働くしかない

4月中旬、生活苦に陥った人たちが「要請するなら補償しろ」と東京渋谷駅周辺でデモを開催したニュースをインターネット上で知った。

デモの第一弾は、4月12日。渋谷ハチ公前広場に集まり、安倍晋三首相の私邸がある富ヶ谷、麻生太郎蔵相の私邸がある神山町などの高級住宅街を練り歩いた。

デモ第二弾が4月26日にも同じ渋谷であると聞き、取材に行ってみた。呼び掛けたのは、休業でキャバクラでの仕事を4月上旬に失ったヒミコさんだ。

「私自身も生活苦のなかで精神的にとても苦しいです。もともとアルバイトで月収が10万円を切ることもあり苦しかったです。今度のコロナでその仕事も失いました。マスク2枚じゃ食えねえぞと思っている人はいっぱいいます。安倍さんや麻生さんに、月10万円で暮らせるか聞いてみたい」

デモを呼び掛けたヒミコさん。彼女は4月上旬に職を失った(5月5日高円寺)

ちょうど、すべての住民一人当たり10万円を給付するとの決定が発表されて間もない時期だった。その決定から約1カ月経過した今も、ほとんどの人は給付されていない。

デモをやり始めると、外出要請を破ってデモのために人が集まることに対し、コロナテロリスト! 乞食! などとインターネット上で罵声を浴びせる「コロナ警察」「自粛警察」も多かったが、賛同する声も多かった。

ヒミコさんは「非難があるけれど、デモやるべきだと思った」と言っている。2回のデモは、一般庶民を苦しめる側の安倍首相や麻生財務大臣らが住む地区で実施したが、今度は、デモに参加する人に、より近い存在の杉並区高円寺を選んだ。

デモを監視しメモする警察(5月5日高円寺)

◆「絶対に生き続けてしゃべり続けたい!」

5月5日夕方、中央線高円寺北口駅前広場に110人ほどが集まった。安定した給料と補償がある公安警察も多数「参加」し、こまごまとメモをとっていた。

いろいろな人がマイクを手に取り、思いを語った。

参加した男子学生は言った。

「夜に飲食をするなというのは、水商売とかそういう仕事をしている人への差別を感じる。そうじゃなくて休ませるなら補償しろと訴えたい」

自ら右派系と称する男性も広場に駆け付けた。

「私は、弱い人にやさしい『美しい国を取り戻そう』と主張するためにここにやってきました」

「弱者と困窮者に優しい『美しい国』日本を取り戻せ」(5月5日高円寺)
「要請は補償とセット」(5月5日高円寺)

前日に、デモが東京であることを知って京都からやってきた20代に見える女性は、こう話した。

「政府のひとたちは、私みたいな人間が一人でも死んでくれればいいと思っている。今まで税金を払ってきたけれど、今のような事態のときにこそ、その税金が私たちの家賃や給料になるべきじゃないですか!? ここで警察が監視してますが、私たちが納めた税金が警察ども給料になっている。みんな大変だと思うけど、絶対に生き続けしゃべり続けたい! いまの政府の奴らを許さない!」

まったくそのとおりで、たかだが110人のデモに制服警官や相当数の公安警察を導入しているのは、どうみても税金の無駄遣いであり、その分をコロナ被害者の補償につかうべきだ。

◆諮問委員会のメンバーを見ると補償は絶望的?

だが、休業だけ要請し、従わない(あるいは従えない)人々を追い詰める政府による虐待行為は、これからも続く可能性がある。

その兆候は、コロナウイルス対策のために政府が設置した「基本的対処方針等諮問委員会」に、緊縮財政派の専門家を新たに加えたことに現れている。

諮問委員会に4人の経済専門家を加えたのだが、そのひとり小林慶一郎・東京財団政策研究所研究主幹について、京都大学レジリエンス研究ユニット長の藤井聡教授が次のようにツイートしている。

〈「経済」専門家会議に入った小林慶一郎教授。この方は、「財政再建が経済成長率を高める」と完璧な嘘話をさも正しきモノのように大学教授の名を借りて語る人物。政府がこの人物を選んだ時点で「補償も給付もやらねぇよ!」と断定した事になります(5月13日付ツイート)〉

検察庁法の改正で、政権に都合のいい人物の定年延長を図ることは、非常に迅速に進め、経済危機にあえぐ人々にへの補償は、極端に遅い。

とくに、かたくななまでに補償しない政府の方針は、世界各国と比較して病的ともいえる。となれば、声を上げ続けることと、政権を倒す以外に道はない。

「永年の低賃金でコロナの前から非正規労働者は生活困窮しているんだ!!」(5月5日高円寺)

▼林 克明(はやし・まさあき)

ジャーナリスト。チェチェン戦争のルポ『カフカスの小さな国』で第3回小学館ノンフィクション賞優秀賞、『ジャーナリストの誕生』で第9回週刊金曜日ルポルタージュ大賞受賞。最近は労働問題、国賠訴訟、新党結成の動きなどを取材している。『秘密保護法 社会はどう変わるのか』(共著、集英社新書)、『ブラック大学早稲田』(同時代社)、『トヨタの闇』(共著、ちくま文庫)、写真集『チェチェン 屈せざる人々』(岩波書店)、『不当逮捕─築地警察交通取締りの罠」(同時代社)ほか。林克明twitter

月刊『紙の爆弾』2020年6月号 【特集】続「新型コロナ危機」安倍失政から日本を守る

ついに民意が追い詰めた! 安倍政権が「卑怯な法案」の今国会成立を見送る

安倍政権が「検察庁法改正案」の今国会での成立を、見送る方向で調整に入ったという。政府高官が5月18日に明らかにしたところによると、準司法権(検察)の独立を脅かす恐れがあると同改正案に反対する世論が高まる中で、採決を強行して批判を招くのは得策ではないと判断したようだ。自民党関係者も「検察庁OBの反発で官邸内の風向きが変わった」と話したという(18日、朝日新聞WEB報)。


◎[参考動画]“検察庁法”成立見送る方針 政府与党世論に配慮も(ANNnewsCH 2020年5月18日)

政府筋によると「束ね法案」になっている「国家公務員法改正案」などと併せ、秋に開会が予想される臨時国会で仕切り直す考えだという。これで、自己保身の「卑怯な法案」にたいする民意が、政権を追い詰めたことになる。新型コロナウイルス防疫の危機管理失敗によって、もはや死に体となっている安倍政権にとって、秋の舞台があるかどうかであろう。朝日新聞は18日、世論調査を発表した。以下のとおりだ。

▼「検察庁法案」反対    64%
        賛成    15%

▼同法案を急ぐべきではない 80%
        急ぐべきだ 5%

▼同法案に関する総理の説明を
       信用できない 68%
       信用できる  16%

▼「安倍総理はコロナ対策に指導力を発揮しているか」
していない         57%
している          30%

▼「安倍政権を支持しますか」
しない           47%
する            33%

前信において、安倍政権の私利私欲を担保する「卑怯な法案」、そして三権分立をも揺るがしかねない前代未聞の暴挙は「自民党の凋落を招きかねない」と指摘したとおりだ。まさに「消えた年金」いらいの党的な危機感に、安倍政権も法案成立延期へと舵を切らなければならなかったのである。

◆「戦後レジームからの脱却」は頓挫した

今回の「卑怯な法案」が日本という国家の基本的な枠組み、すなわち戦後民主主義の三権分立を侵すものであったこと。それはとりもなおさず、安倍晋三の「戦後レジームからの脱却」の内実が、近代民主主義の破壊にほかならなかったことを端的にしめしたのである。
そしてそれ以上に、新型コロナによる「国家的な危機」にもかかわらず、みずからの刑事訴追の回避を画策するという、あまりにも情けない策謀に国民は怒りを隠さなかった。芸能人たちの公然たる批判、検察OBの明快な指弾をはじめ司法人たちも声をあげ、安倍総理の暴挙を批判したのである。

「安保法制の時とおなじく、何も変わらなかったと思えるはずです」などと、安倍総理は国民の怒りの声をいなそうと懸命だった。何ごとも上からの統制や変更に、わが国民が唯々諾々としたがうと思い込んできた安倍総理にとって、ここ数日間は悪夢のような事態だったにちがいない。

これでいちおう、わが国にも民主主義社会が根付いていることを、われわれも知ることが出来た。「ほかにふさわしい政治家がいないから」とか「経済政策に期待したい」などという虚構ないしはネグレクトされた国民の政治観・政治家観に乗って、選挙でのずば抜けた強みを発揮してきた安倍政権も、いよいよ先行きが見えてきたのである。

このうえは、ウイルス防疫に失敗することで日本経済を崩壊の危機に陥らせた「戦犯」として、最終的な引導を渡すのでなければならない。

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)

編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。医科学系の著書・共著に『「買ってはいけない」は買ってはいけない』『ホントに効くのかアガリスク』『走って直すガン』『新ガン治療のウソと10年寿命を長くする本当の癌治療』『ガンになりにくい食生活』など。

月刊『紙の爆弾』2020年6月号 【特集】続「新型コロナ危機」安倍失政から日本を守る

高まる政権不信の反動で……検察OBたちがヒーロー扱いされる異常事態

黒川弘務東京高検検事長の定年を半年延長した閣議決定や、内閣の裁量で検事総長らの定年延長を可能にする検察庁法の改正案をめぐり、安倍政権が検察に不当な介入をしようとしているとの批判が巻き起こっている。そんな中、検察の大物OBたちが法務省に対し、検察庁法改正に反対する意見書を提出し、喝さいを浴びている。

実際には、意見書は、高齢の検察OBが過去の栄光をひけらかすなどしている稚拙な内容で、検察OBらしい独善的な主張も見受けられる。しかし、高まる政権不信の反動により、これが素晴らしい内容に思える人も少なくないらしい。それは大変危ういことなので、この意見書の問題をここで指摘しておきたい。

◆有罪が確定していない田中角栄氏の逮捕を自画自賛

法務省に乗り込む場面をマスコミに撮影させた清水氏(左)と松尾氏(朝日新聞デジタル5月15日配信)

意見書に名を連ねた検察OBは、検事総長経験者の松尾邦弘氏ら14人で、取りまとめたのは元最高検検事の清水勇男氏だ。その全文は、朝日新聞デジタルに掲載されているが、大きな問題は2つある。

1つ目の問題は、あのロッキード事件で検察が田中角栄氏ら政財界の大物を逮捕したことを自画自賛するようなことが書かれていることだ。

清水氏は、検察がいかに素晴らしい組織かということを主張するに際し、自分自身が捜査に関わったこの事件の話を持ち出したようだが、実際には、逮捕された田中氏は裁判で一、二審共に有罪とされたものの、最高裁に上告中に死去しており、有罪は確定していない。つまり、本来は「無罪推定の原則」により有罪扱いされてはいけない立場だ。

清水氏は現在、弁護士をしているようだが、自分の過去の仕事を得意げに語る中、ここまでわかりやすく「無罪推定の原則」を踏みにじっていたのでは、弁護士をしていることにも相当問題があると言わざるを得ない。

◆検察OBは自分たちこそ財界とズブズブ

2つ目の問題は、検察が「政財界の不正事犯」も捜査対象としていることを根拠に、「検察が時の政権に圧力を受けるようなことがあってはいけない」という趣旨の主張を繰り広げていることだ。

この主張については、まさしく検察官特有の独善的な主張だというほかない。なぜなら、この意見書に名を連ねた検察OB自身が財界とズブズブの関係にあるからだ。

まず、意見書を取りまとめた清水氏自身が退官後、公証人を務めたのちに東証一部上場企業の東計電算に監査役として天下っている。また、清水氏と共に法務省に足を運び、意見書を提出した前出の松尾氏は、検事総長経験者だけに天下り先はさらに豪華だ。あのトヨタ自動車をはじめ、旭硝子、ブラザー工業、テレビ東京ホールディングス、損害保険ジャパン、三井物産、セブン銀行、小松製作所の各社に監査役として天下ったほか、日本取引所グループに取締役として迎えられている。

これほど財界にどっぷり浸った2人が、「政財界の不正事犯」も捜査対象にしている検察の独立性の重要さを訴えるというのは、国民をバカにしすぎではないだろうか。

安倍政権は元々、「モリカケ」や「桜を見る会」など様々な疑惑が取り沙汰された中、コロナ対策も不評を買い、さらに検察の人事に関しても不可解な動きをしているので、国民の政権不信が高まるのは当然だ。しかし、その反動により、これまで数々の冤罪を生んできた検察のOBたちが、自分たちの権勢をアピールするかのようなおかしな動きをしていることまでヒーロー扱いされる現在の社会の空気は相当危うい。

▼片岡健(かたおか けん)
全国各地で新旧様々な事件を取材している。原作を手がけた『マンガ「獄中面会物語」』【分冊版】第9話・西口宗宏編(画・塚原洋一/笠倉出版社)が配信中。

月刊『紙の爆弾』2020年6月号 【特集】続「新型コロナ危機」安倍失政から日本を守る
「絶望の牢獄から無実を叫ぶ ―冤罪死刑囚八人の書画集―」(片岡健編/鹿砦社)

あまりにも卑怯! 自分の保身・お友だち利権を担保する法改正 検察官定年延長法は、安倍を退陣させられない自民党の凋落をまねく 横山茂彦

これほど法案反対が国民的な運動になったのは、いつ以来だろうか。いうまでもなく、検察定年延期法案(検察庁法改正)に対する批判である。

ネット上では法案反対の声が1000万ツイートにもおよび、安倍政権への国民の怒りを象徴している。小泉今日子や東ちづるなど、国民的人気の芸能人が反対を訴えることで、コロナ不作為とはまた別の意味で、安倍政権の致命傷となりそうな気配だ。政府は強行採決も辞さない構えだが、そのことが「消えた年金」以来の自民党凋落の予兆となることを、ここに指摘しておこう。

とくに安倍政権にというよりも、官房長・事務次官時代をつうじて、政権一般に協調的・親和的といわれる黒川弘務検事長の定年延長(閣議決定)を、安倍総理はさりげなくやったつもりだった。森友・加計・桜を見る会という具合に、総理自身の利益供与、公職選挙法違反という刑事訴追の可能性も浮上してくる中、おそらく軽い気持ちでやったのではないか。じっさい、市民運動家や弁護士による安倍総理刑事告発が、複数回にわたって官邸を悩ませてきた。


◎[参考動画]東京高検のトップに黒川弘務氏が就任 抱負語る(ANNnewsCH 2019年1月21日)

◆あまりにも卑怯

しかしそれは、卑怯な戦術として国民の目に映った。国民の目には、官邸が訴追を怖れるあまり、三権分立を侵す検察官の人事権を掌握する挙に出たと映ったのは、あまりにも当然のことだった。

黒川検事の定年延長をきめた閣議が法的担保のない、行政行為(法解釈の変更)であるのとは違って、停年延長法は検察に対する官邸の優位を決定づける。もはや形式的な任命権。すなわち検察官を内閣の指名により天皇が任命するという、法手続きの域を超えてしまうがゆえだ。まさに訴追権を時の政権が掌握するという、ナチス政権ばりの独裁法(全権委任法)である。

それゆえに、松尾邦弘元検事総長は「内閣による解釈だけで法律の解釈運用を変更」することが「フランスの絶対王政を確立し君臨したルイ14世の言葉として伝えられる『朕は国家である』という中世の亡霊のような言葉を彷彿とさせるような姿勢であり、近代国家の基本理念である三権分立主義の否定にもつながりかねない」とまで安倍政権を批判しているのだ。

まさに「今回の法改正は、検察の人事に政治権力が介入することを正当化し、政権の意に沿わない検察の動きを封じ込め、検察の力を殺(そ)ぐことを意図していると考えられる」(検察定年延長 OB有志意見書)。まさに正鵠をえた批判であろう。定年延長という人事権をもって、政権が検察を支配しようとしているのだ。


◎[参考動画]検察OBが定年延長可能にする検察庁法改正に反対し記者会見(朝日新聞社 2020年5月15日)

◆安倍総理の検察支配は目論見通りにはいかない

検察庁法22条には「検事総長は、年齢が65年に達した時に、その他の検察官は年齢が63年に達した時に退官する」と定められている。

国家公務員法第81条の3は「その職員の職務の特殊性又はその職員の職務の遂行上の特別の事情からみてその退職により公務の運営に著しい支障が生ずると認められる十分な理由があるとき」は最大3年の勤務延長を認めている。

そして国家公務員法の定年制度には「法律に別段の定めのある場合」は除かれるという規定がある。したがって検察庁法に、この「別段の定め」があるのだから、今回の黒川検事長の定年延長には、そもそも違法の疑いがあった。

国家公務員の定年制度導入を論議した1981年の衆議院内閣委員会においても、政府は「検察官と大学教官につきましては、現在すでに定年が定められております」と、国家公務員法での定年制度に検察官は含まれないと明言しているのだ。

こうした違法の疑いを、停年延長法で乗り切ろうとしたところに、安倍総理の浅はかさが露呈した。

自分の保身のため(桜を見る会における公職選挙法違反)に、あるいはスキャンダルにも等しいお友だち利権(森友・加計)のためにする閣議とそれを担保する法案に、だれが賛意をしめすというのだろうか。

安倍総理のもうひとつの弱点として、いったん言い出したことは曲げない。絶対に誤りは認めない、謝罪をしないというものがある。謝れば負けを認めたことになると、彼の狭隘な政治感性がそうさせるのだ。それゆえに人事権を官邸ににぎられた官僚は政権に「忖度」し、政権も国民的な常識からかけ離れた言動を繰り返してきた。

新型コロナウイルス防疫の遅れや不作為もあり、いまや安倍政権は第一次政権時のような衰亡に晒されている。であるがゆえに、安倍総理が辞任するとともに、刑事訴追されるのではないかという観測が高まっているのだ。すでに河井克行元法務大臣、河井案里参院議員にたいする公選法違反での立件も現実性をおびてきた。そう遠くない時期に、そして自民凋落という情勢の中で、総理が逮捕されるという事態があるかもしれない。すくなくとも安倍総理においては、その危機感故に、「指揮権発動」にもひとしい検察人事に手を染めたのだから。


◎[参考動画]【アベの大嘘】黒川の定年延長は法務省が言い出した事。我々はそれを承認しただけ【隠蔽】(FckAbe 2020年5月16日)

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)

編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。医科学系の著書・共著に『「買ってはいけない」は買ってはいけない』『ホントに効くのかアガリスク』『走って直すガン』『新ガン治療のウソと10年寿命を長くする本当の癌治療』『ガンになりにくい食生活』など。

月刊『紙の爆弾』2020年6月号 【特集】続「新型コロナ危機」安倍失政から日本を守る