私、深笛義也が昨年、鹿砦社より上梓した『女性死刑囚』に対して、和歌山毒物カレー事件で殺人罪などに問われた、林眞須美さんが訴えてきた。
『女性死刑囚』には、執筆の段階で13人いた戦後の女性死刑囚について書いている(昨年、大牟田4人殺害事件の被告の死刑が確定し、現在は戦後の女性死刑囚は14人となっている)。

そのうちの1人が、林眞須美さん。虚偽の内容を本にされ肉体的、精神的苦痛を受けたとして、著者の私に1千万円の損害賠償を求める訴訟を神戸地裁尼崎支部に起こしている。

私は、和歌山毒物カレー事件で眞須美さんは無実だという視点で書いた。これは冤罪であって、彼女が行っている再審請求を支持する立場である。
これを、彼女が虚偽である、というのは、どういうことなのだろうか?

一方で私は、眞須美さんは保険金詐欺については行っている、と書いた。
彼女を悪人だと書き、「たとえ悪人だとしても、法に従って裁かれるべきだ」と書いた。

眞須美さんは訴状で、私とは一面識もなく、取材も受けていない、と書いている。
確かにその通りだ。執筆を始めた時には、すでに彼女は確定死刑囚であり、面会者は限られており、私が面会することは不可能だった。

私は夫の健治さんや、支援する会から話を聞き、公判資料を読み、報道された資料、眞須美さん自身の著作を含め、関連する文献に目を通して、記事を書いた。その内容が真実であることには、自信を持っている。

彼女は、保険金詐欺を行っていた、ということまで否定するつもりなのだろうか。
しかしそれでは、毒物カレー事件での無実も、説得力のないものになる。

最高裁の判決は、カレー事件以外に、3件の殺人未遂、4件の保険金詐欺、詐欺未遂で、彼女を有罪としている。
その一つが、保険金を得るために、夫の健治さんに砒素を飲ませて殺そうとしたとする、殺人未遂だ。それは、彼女が生命を軽んじる人間だと印象づける効果を、法廷では生み出した。
しかし、健治さんは法廷で、入院保険金を詐取するために、砒素は自分で飲んだと証言している。

「私たち夫婦は保険金詐欺のプロ。金にもならんことはやるわけない」
詳しくは『女性死刑囚』を読んでいただきたいが、健治さんのこの言葉こそ、毒物カレー事件での彼女の無実を浮き彫りにしているのだ。

何を思って私を訴えたのか、戸惑うばかりだが、受けて立つしかない、であろう。

(深笛義也)