原発問題で、意外なほど語られていないのが、「避難の権利」についてだ。
11月13日、大阪府と大阪市が開催した、東日本大震災で発生したがれき試験焼却の説明会で、「焼却反対! がれきは危険!」と叫ぶ反対運動が起こり、逮捕者まで出た。
逮捕の容疑は建造物侵入だが、会場の此花区民ホールは誰でも出入りできる公の場であり、不当逮捕の疑いが濃い。市民メディアOneness TVが撮影制作した検証ビデオを最後に添付しておくので、見ていただきたい。

橋下市長はかつての説明会で、「もしガレキ焼却後、鼻血が出ても、因果関係が証明できないので補償責任はない」と発言し、危険性を認識していることを自ら認めている。

ガレキ処理の受け入れは、復興財源を狙った利権がらみだということもあり、反対運動が起こるのは当然だ。
だが、大阪で処理すると危険なものを、地元にそのまま置いておけ、というのは、外から見るとエゴイズムに見えてしまう。

その時に同時に主張すべきなのが、「避難の権利」だ。
ロシアでは、チェルノブイリ事故後5年の歳月を経て「チェルノブイリ法」が制定された。
そこでは、「年1ミリシーベルト」以上の追加的被ばくを強いられる地域が「避難の権利ゾーン」として規定されている。
避難したいという住民には、国が費用を負担する。

福島第一原発事故で、年間の被曝量が1ミリシーベルトを超える地域は、昨年10月のデータで、福島、宮城、栃木、茨城、群馬、千葉、埼玉、東京におよび、日本の国土の3%に当たる。
あくまでも権利であるから、「自分はもう歳をとっているし、放射能の影響は受けにくい」と判断して住み続けるのは自由だ。
だが、成長期の子どもを抱えているから家族ぐるみで避難したい、という住民には、「避難の権利」を認めるべきだろう。

ちなみにチェルノブイリ法では、強制的に移住させる「移住義務ゾーン」は、年5ミリシーベルトの地域だ。
これを現在の日本に当てはめると、警戒区域で立ち入り禁止となっている、福島第一原発から20キロよりずっと広い。福島市、二本松市、郡山市にまで及ぶ。警戒区域から避難した住民が、それらの地域に住んでいる。

今、自力で避難している住民も多いが、その費用は国と東京電力が負担すべきであるし、もっと多くの住民が避難すべきだ。
ガレキ反対のスローガンは、「ガレキはノー、人はウエルカム」であるべきだ。
各自治体も、ガレキの受け入れではなく、避難の受け入れの態勢を整えるべきなのだ。

この問題は簡単ではない。
故郷に残って復興に力を尽くしたい、と考える人々が「安全だ」というデータを信じたがる心理を、頭から否定することはできないからだ。
だが、「避難の権利」が議論されなさすぎるのは、おかしなことだと思う。

(FY)