「マンモスうれピーです」
11月24日、芸能界復帰の発表記者会見を開いた酒井法子は、「今の率直な気持ちを『のりピー語』で表すと?」と訊かれて、屈託なく、そう答えた。
2009年8月に覚せい剤取締法違反(使用・所持)で逮捕された酒井の受けたのは、懲役1年6カ月、執行猶予3年の有罪判決。24日は、執行猶予期間が開けた日だという。
来月15日から渋谷区文化総合センターで上演される舞台『碧空の狂詩曲~お市の方外伝~』で酒井は主演する。

過ちを犯した人間が、罪を償った後に社会に復帰するのは、歓迎すべきことだ。
だが、酒井法子は、介護の道に進む、と言っていたのではないか。
介護の道で苦労を積んで、自らの犯した罪への悔悟も含めて、語り始める。そうした形で公に姿を現すのなら歓迎できるが、執行猶予期間が開けたと同時の女優復帰会見は、ちゃっかりしすぎてやしないだろうか。

『のりピー芸能界クスリ天国』(鹿砦社)は、酒井法子を初めとして、芸能人たちの実名を上げながら、どれだけ芸能界が薬物に汚染されているかを記している。

同書にも詳しく書かれているが、2009年8月3日、夫だった高相祐一が覚せい剤所持の現行犯で逮捕されると、「子供を預けているから」と酒井は任意同行を拒否し、6日間行方をくらまし、8月8日に警察に出頭した。これは、覚せい剤を体から抜くためだと言われた。実際に酒井の尿からは覚せい剤反応は得られなかった。だが、毛髪検査で覚せい剤反応が出たため、乱用が判明し、起訴に至る。

女優復帰にも、同じしたたかさが伺えるが、それがうまくいくのだろうか。
酒井の女優復帰には、非難の声とともに、擁護の声も聞こえてくる。

同書にも書かれているように、芸能人の薬物使用には「夢を与えてくれた人だから」「有名人だから社会的制裁を受けている」「アーティストなどは感覚を研ぎ澄ますために必要悪では?」「芸能界は厳しい世界だからかわいそう」「あまりに忙しくて肉体的につらいのだからしかたない」「才能があるのだからもったいない」などの同情論も湧く。

薬物一般に言われることで、「他人に迷惑かけたわけではないから」という見方もけっこう多い。だが薬物の慢性中毒になると、妄想に取り憑かれることにもなり、それにより無差別殺人を起こした例も少なくない。

人気芸能人であった酒井は、逮捕によって、様々な人々に迷惑をかけた。
そのひとつとして忘れられないのが、原田昌樹監督の映画『審理』が封印されてしまったことだ。
『審理』は裁判員制度広報用映画として、最高裁判所は2008年4月から、DVD5万枚とビデオ4000本を全国の学校や図書館、各地の裁判所などに配布し、一般市民に貸与していた。
だが、裁判員を演じていた酒井が逮捕されたことで、『審理』は封印された。
裁判員を演じた女優が犯罪者になったということは、裁判員が犯罪者であり得るということを、容易に連想させるからだろう。

原田監督は、癌で余命を宣告されていた中で、命を刻むようにして『審理』は撮られた。
『審理』は、原田監督の遺作となった。
酒井が女優復帰したとしても、『審理』の封印が解かれることはない。
それだけを考えても、「マンモスうれピーです」はないだろう。

(FY)