前回は、現行の国民投票法には広告宣伝活動における制限がほとんどなく、今のままだと電通を擁する改憲派が圧倒的に有利な状況を解説した。

◎[参照]国民投票で何が起きるのか(1)広告宣伝で与党が有利な8つの理由

このようなことを書いても、「それは広告費を伴う活動に限ったことだ。報道や討論番組は広告に関係なく中立なはずだから、宣伝広告費の多寡は関係ない」と考える人もいるだろう。

◆改憲派の宣伝広告を担当する電通の印象操作ビジネス

ところが、残念ながらそうはならない。実際の広告宣伝費の投下額に大きな差が生じた場合、民放各社は広告費の多い方に便宜を図る可能性が高い。また、実際にその放送現場を仕切るのは、改憲派の宣伝広告を担当する電通であることも忘れてはならない。つまりプレーヤーがジャッジの現場に立ち会っているのと同じなのだ。具体的には、以下のような印象操作の可能性が生じる。

《1》スポットCMの発注金額に大きな差がある場合、ゴールデンタイムなどの視聴率が高い時間帯に、金額が多い方のCMをより多く流す(ラジオも同様)。

《2》同じく発注金額が多く、かつ発注が早ければ、通常はなかなか獲得できないタイム枠(提供枠)のスポンサーになることも可能である。

《3》一見公平に見える討論番組でも、スポンサーに改憲派企業がつけば内容操作が可能。例えば改憲派は若い評論家や著名人を出席させるのに対し、護憲派は高齢評論家や学者ばかりを揃える、というように番組制作側による印象操作が可能。また、カメラワークによって映る表情や秒数で差をつけることも出来る。

《4》ワイドショーなどのコーナーでも、放映される時間(秒数)に差をつける、コメンテータの論評で差をつける、そもそもコメンテータも改憲派多数にするなどの操作が可能。

《5》同様に、夜の報道番組に改憲派のCMが多数入れば、それだけでその番組が改憲押しであるように錯覚させることが可能。また、報道内容でも放映秒数に差をつけたり、印象を偏らせたりすることが可能だ。

◆公平性を保つために不可欠な6つの宣伝広告規制

以上のように、特に電波メディアにおける広告資金量の差、発注タイミングの差は圧倒的な印象操作を生む可能性がある。では上記のような状況を防ぐ手だてはあるのか。それには、おそらく以下のような規制を設けるしかないだろう。

《1》あらゆる宣伝広告の発注金額を改憲派・護憲派ともに同金額と規定し、上限を設ける(キャップ制)。例えば、予め総金額を一団体5億円、総額で100億円などと規定し、両陣営ともその金額の範囲内で使用メディアを選定、その内訳を公表する。

《2》TVやラジオCMの放送回数を予め規定し、放送時間も同じタイミングで流す。

《3》先行発注による優良枠独占を防ぐため、広告発注のタイミングを同じにする。

《4》報道内容や報道回数、放映秒数などで公平性を損なわないよう、民放連に細かな規制を設定させ、違反した場合の罰則も設ける(努力目標では意味なし)

《5》宣伝広告実施団体(企業)の討論番組へのスポンサード禁止

《6》ネットメディアへの広告出稿に関しても回数・金額の上限を設ける

◆彼らの「善意」や「公平性」、「正義感」などは全く信用していない

しかし上記のような資金規正を設けても、結局は影響力が強いテレビとネットメディアへの広告費集中は避けられないだろうし、そこに細かな規制を設けるのは相当困難だ。であるなら、思い切って「テレビ広告は全面禁止」にした方が一番スッキリすると思う。これは、一番影響力があるメディアが「資金力の差」によって歪むことを予め防ぐためだ。

私は原発広告によってTVメディアが原発ムラにかしずき、原発を批判するニュースを一切流さなかった歴史を知っているので、彼らの「善意」や「公平性」、「正義感」などは全く信用していない。だから広告費をゼロにし、その影響力が偏らないようにするのがベストだと考える。

だが、テレビCMをゼロになどという提案は当然、民放連の強い反対に遭うだろう。それだけでなく、上述したように圧倒的有利な状況にある改憲派が、みすみすその優位性を崩す法改正に応じる可能性も非常に低い。その場合、護憲派はどうすべきか。手遅れになる前に、動き出すべき時に来ていると思う。

▼本間龍(ほんま りゅう)
1962年生まれ。著述家。博報堂で約18年間営業を担当し2006年に退職。著書に『原発プロパガンダ』(岩波新書2016年)『原発広告』(亜紀書房2013年)『電通と原発報道』(亜紀書房2012年)など。2015年2月より鹿砦社の脱原発雑誌『NO NUKES voice』にて「原発プロパガンダとは何か?」を連載中。

『NO NUKES voice』第10号本間龍さん連載「原発プロパガンダとは何か?」新潟知事選挙と新潟日報の検証!

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