よく知られていないが、今回の衆院選で、自民党も脱原発を言っていた。
大きく「脱原発」と掲げられている左のパンフレットは、自由民主党福島県支部連合会が、選挙で配ったものだ。
もちろん、よく読めば、笑いたくなるようなペテンだ。「県内の原発10基すべて廃炉を実現します」と書いてある。
福島県内の原発10基と言えば、核爆発をも起こした福島第1の6基と、地震と津波で損壊したが、かろうじて紙一重で事故4日後に冷温停止した、福島第2の4基である。
いくらなんでも、これらの原発を再稼働させよう、などと言う人はいない。自然に、廃炉への道を進んでいくものである。

だが、福島で票を集めるために、自民党もまた「脱原発」を掲げていたのは、まぎれもない事実だ。
自民党の安倍晋三総裁は、経済財政政策の司令塔として設置する「日本経済再生本部」の担当相に、甘利明政調会長を起用することを内定した。
甘利明は、『タブーなき原発事故調書 超A級戦犯完全リスト』にも、A級戦犯として名を連ねている、原発族議員である。

そして自民党は、公明党との政権協議の中で、「原発依存度を徐々に下げる」ことで一致した。
つまり今停まっている原発の再稼働も認める、ということだ。自民党は、新たな原発の建設も認める方向だという。
福島の人々を「脱原発」の言葉で騙しておいて、政権を取ったら、原発を推進していく、というのだ。

公明党はどうか、と言うと、選挙時の公約は、「可能な限り速やかに原発ゼロを目指す」だった。それが、自民党に屈して、原発推進を容認しているのだ。
公明党の支持母体は、創価学会。宗教者の端くれを自負するのだったら、福島のお母さんたちの悲痛な声に耳を傾けたらどうなのだろうか。

今回の自民党圧勝ぶりには、体調を崩すくらいショックを受けた人も多いようだ。
だがその内実を分析してみると、圧勝のハリボテぶりが分かる。
小泉純一郎がやった、05年の優勢選挙では、自民が得た比例得票数で2588万票。変化を求めた、若い無党派層が多く票を投じたことがうかがえる。
だが今回、自民が得た比例得票数は、1662万票。実は、民主党に大敗した09年衆院選の時の1881万票にも及んでいない。
民主党のダメぶりで、自民に支持が戻ったということはない。政治不信の広がりで、棄権、無効票が増え、第3極が票を食い合ったことが、自民圧勝を許したのだ。

「日本経済再生本部」担当相に、甘利明を起用するという人事にも、新政権のハリボテぶりが現れている。
『タブーなき原発事故調書 超A級戦犯完全リスト』では、文字通りの超A級戦犯が選ばれているが、甘利は福島第一原発事故に直接の責任がある。
奇しくも、前の安倍内閣で、甘利が経済産業大臣だった06年12月、共産党の吉井英勝衆院議員から、地震や津波によって外部電源や、原発内の内部発電装置も機能しなくなる危険性を問う質問書が提出された。
これに対して、安倍政権は「まったく問題ない」として、何の対策も指示しなかったのだ。

福島原発事故後の2011年6月、テレビ東京の『週刊ニュース通信』に出演した甘利に、田勢康弘キャスターは「福島第一原発事故は自公政権時代の安全対策の不備によるものではないか?」と問い、吉井議員からの質問書を無視した経緯を質した。

すると、前代未聞の椿事が起きた。「取材中断」という字幕が入ると、カメラは誰もいなくなった甘利の席を映した。
甘利は、テレビ東京を名誉毀損で訴えているが、質問に答えられなくなり逃げ出した、という事実は覆しようがない。

このような人物を、「日本経済再生本部」担当相に起用せざるを得ないほど、新政権に人材はいない。ハリボテなのだ。
甘利などの事故の直積責任者が要職に付き、追及もできるのだから、自民のハリボテ圧勝は、むしろ脱原発への好機である。

(FY)