最高検の「監察指導部」なるものをご存知だろうか。大阪地検特捜部検事による証拠改ざん事件などによって検察不信が高まる中、2011年7月に検察改革の一環として新設された部門だ。全国の検察庁職員の不正行為や違法行為の情報を内外から収集し、必要に応じて監察を行なっているというフレコミで、情報提供は電話や投書、メールで受け付けている。

ただ、これがどれほどアテになるかというと、マユツバものだ。
最高検が昨年4月に公表した統計によると、2011年7月8日から昨年2月22日まで同部に寄せられた通報は598件にのぼるが、監察が行われた件数は116件。そのうち、指導などの措置がとられたのはわずか2件だった。言いがかりのような通報も少なくないだろうが、それを踏まえても、600件近い通報がありながら具体的な措置を講じたのが2件だけでは、「本当にちゃんと監察しているのか」という疑念を抱かれても仕方ないだろう。

実際、筆者自身がある地検職員らの不正行為を同部に通報したところ、その疑念は確信に変わった。
昨年6月から7月にかけ、筆者は山口地裁で開かれた裁判員裁判を取材した。それは当欄で昨年10月18日にレポートした下関市の女児殺害事件の裁判だが、その公判には連日多くの傍聴人が集まり、初公判と判決公判では定員オーバーのため、多数の人が傍聴できなかったほどだった。そんな中、山口地検の澤田康広次席検事をはじめとする同地検の職員たちはあろうことか、山口地裁に特別傍聴券を請求し、全56席の傍聴席のうち、実に6席も連日、占拠し続けたのだ。

裁判が公開されている理由は色々あるだろうが、一番の理由はやはり、公正な裁判が行われているか否かを国民が監視できるようにするためだろう。本来、国民から監視される立場の検察庁の職員たちが6席もの傍聴席を占拠し、国民の傍聴を妨げるというのはとんでもない話である。もちろん、何か正当性を認められる特別な事情があれば話は別だが、6席の傍聴席を占拠した地検職員たちの様子を公判中に観察していても、彼らが傍聴席を占拠する正当な事情は何も見いだせなかった。しかも、自ら率先して傍聴席を占拠していた同地検の澤田康広次席検事に対し、筆者が傍聴席を占拠する事情を質したところ、彼は逆ギレし、臆面もなくこう言い放ったのだ。
「裁判所が認めているんだよ!」

要するに、6席もの傍聴席の占拠は裁判所が認めたことだから正当だというわけだが、随分ふざけた物言いだろう。仮に澤田次席検事の言い分が正当ならば、検察庁は故意に無実の人間を逮捕勾留したり、捏造した証拠で起訴して裁判で有罪を立証しても、「逮捕や勾留を認めたのも、有罪判決を書いたのも裁判所だから、検察は何も悪くない」と居直るのも正当だということになってしまう。

そこで、筆者はこの一件を最高検の監察指導部にメールで情報提供した。監察結果についてはいちいち教えてくれないというので、情報提供した結果がどうなったのかは別途、最高検に対し、保有個人情報の開示請求をした。すると、関連する計14枚の文書が開示されたが、その大部分は黒くマスキングされていた。そして、処理結果欄のマスキングされていない部分には、次のように記載されていた。
<検察官の補助者たる検察事務官を法廷内に入れるか傍聴席で待機させるか、特別傍聴券を検察官や弁護人に何席分割り当てるかは、裁判所の訴訟指揮に属する事柄であり、山口地検が、前記事件において、6席分の特別傍聴券を割り当てられたことをもって、次席検事を始めとする山口地検職員が、違法・不適正な行為をしたとは認められない。>

要するに澤田検事の言い分を、最高検監察指導部はそのまま認めているわけだ。つまり、裁判所が認めさえすれば、検察庁は何をやっても悪くない、と最高検も思っているのだろう。
あまりに人を馬鹿にしたような監察結果なので、筆者は昨年暮れ、黒くマスキングした部分も開示するように異議を申し立てた。ところが、最高検の担当部門である企画調査課情報公開係によると、「異議申立から90日以内に全部開示する決定をしない場合、審査会に諮問します。審査会から答申が返ってきたら、うちがそれを踏まえて裁決・決定します。ただ、審査会が答申する期限は定められておらず、答申するまでに数年かかっている事案もあるようです」とのこと。つまり、お返事はいつになるかわかりませんが、けっこう年月がかかるかもしれませんよ、というわけだ。

これで気持ちが萎えたら先方の思うつぼなので、この問題はしつこく追及し続けるつもりだが、「検察改革」なる言葉はやはりお題目に過ぎないのだなあ、としみじみ感じさせられた次第だ。

(片岡健)

★写真は、黒塗りだらけで開示された最高検監察指導部の監察結果の文書