前回に続き、安田浩一へのインタビュー(2016年3月23日の電話)の後編を公開する。

《安田から2度目の電話》

安田 あの田所さん、ごめんなさい、もしかしたら『紙の爆弾』とかに書こうとされていますか?
田所 いえ、別に寄稿の依頼はありません。私はこちらから持ち込んで書いてもらえる(ようなところはありません)。『紙の爆弾』に記事を書いたことはありますけれども、今の段階で別にどこのメディアどうこうって全く予定はありません。
安田 あ、そうですか。どちらに書かれるのもご自由だと思いますし、僕が何も制限させてもらうつもりはないんですけれども、『紙の爆弾』であれば、僕はある種何か意趣返しじゃないかなと感じたものですから。
田所 はい? とおっしゃいますと?
安田 『紙の爆弾』でもある種、運動圏に対して非常に厳しい冷たい視線を向けたりしてることが最近ありましたから、『紙の爆弾』はね。あるいは反原連の関係におきましても。しかも『NO NUKES voice』など見ますと、更に大きいネタを掴んでる、みたいなことをたしか松岡さんが書かれてたような記憶もありますんで、そういう文脈であるのであれば嫌だなと思ったのは正直なところです。
田所 今のところ私はこの件では、李信恵さんに電話取材しまして、今日安田さんに電話させていただきまして、あとは実際にカウンターされている方に二、三、情報は聞いてはいるんですけれども、まだまだとてもではないですけれども全体像が掴めていませんので、それがどんな感じのものなのかということ自体がまだわかっていない段階です。それが果たして記事にできるものなのかということすらまだわからない段階で、むしろそういうことの指針をいただきたくて安田さんにはお電話差し上げたということです。
安田 指針なんて言われるほどのものでもないし、どんな媒体に書いてもそれは僕は自由だと思いますから、そこに何か是非を加えたり加えようと思うことは僕はないんです。ただ『紙の爆弾』であれば、松岡さんが何かそういった大きなネタを掴んでるといったような文脈の延長線上に今回の取材があるのであれば、非常に不愉快だなと思って。
田所 それは全くないです。
安田 そうですか。やっぱりそんなにデカいヤマ(事件)なのかどうかっていうことに関して、僕は甚だ疑問ですし、結果的にどうなるかって考えると、もちろんどうもならなくていいし、目的もない記事を量産してきた僕は言えないんだけれども、結果的に何か運動を縮小させたり、せっかく頑張って傷付いて戦ってる人を更に傷付けるってことが目的であるのならば、嫌だなと思ったわけです。
田所 そういう目的は少なくとも私は持ってないつもりです。
安田 今回のことに関してはデマや誇張された形で持っていって流通してるようにも感じますし、誰が喜ぶのか、誰を喜ばせるのかってことを考えた時に、僕は喜ぶ人の顔が見えてすごく嫌なんです。

安田浩一(『人権と暴力の深層』より)

 

 

  
◆「何か運動の中の組織的に行われた暴力ってわけじゃないんでしょ」

田所 誇張したデマなどももうネットには出ているわけですか?
安田 出てますよ。暴力事件がどうのこうのとか。で、結果的に誰が喜ぶのか、誰を利するのかと考えると嫌だなという気はするんですね。結果的にどんな取り繕おうが、どんな美辞麗句を使おうが結果的に運動に分断を持ち込んで、亀裂を深めさせ、対立を煽ることにしかならない。僕個人はそう考えてる。これが社会的大問題であればですよ、例えばかつて新左翼と呼ばれた方々の内ゲバに発展することであったり何かそこで凄惨な粛清が行われたのであれば、それはそれで社会的な問題として提起することが可能であったでしょうけども、そんな問題でもないでしょうしね。
田所 私が伝えられた内容は鼻の骨を折る大怪我をして顔の形が変わっているという表現で伝えられたんですね。
安田 でもそれがね、何か運動の中の組織的に行われた暴力ってわけじゃないんでしょ。なんかよくわからない喧嘩っぽい。
田所 それはわからない。まず私は被害者の方に聞かないことにはわからない。
安田 それはそうですね、それは裏取りする必要がある。
田所 憶測で判断したくはないなと思っているんです。
安田 それをどういう形でもって発表されるかわかりませんし、ただ結果的に僕は疑ってるのは紙の媒体の意図の中で何かうまい具合にネタが作られているような気がしないでもないんですよね。
田所 ネタが作られてる?
安田 ええ。
田所 紙の媒体の中で?
安田 『紙の爆弾』の意思や意図が反映されてるんじゃないかという気がしますし、田所さんがこの取材をされてるということはね。何に興味を持たれてるのかなぁというのが疑問にあります。いったいこの問題のどこに問題があるのか。
田所 かつての新左翼の粛清と言いますか暴力による内ゲバみたいなことがありましたよね。そんなことを私は歴史的には知ってるんだけれども、肉感的には知らないんですね。今のカウンターの人たちがどういう様な形で動いているのかということは、私は現場に行って皆さんと一緒に行動して、安田さんのように現地で取材をするとか、これをメインのテーマとして扱っている人間ではないものですからよく知らないんです。側面から見ていて在特会の問題とかお金の流れとか、そういうことを自分で調べながら記事にすることはあるんですけれども、実際の在特会がものすごい無茶苦茶なヘイトスピーチをしている所へ出て行ってカウンターの方の抑えてる場面とかを取材したことはないんですね、私自身。
安田 そっちの方がよっぽど問題としては大きな問題であって、一方的な暴力によってむしろ傷ついてるのは李信恵をはじめとする在日当事者であって、そしてカウンターと一口におっしゃいますけども、カウンターって組織じゃないですからね。何か組織があるわけではご存知の通り、カウンターって称するって、この間も東住吉に大勢の人が集まりましたけど、誰一人として組織に属してるってわけでもないし、いわば自発的に集まってる人の総称としてカウンターとして呼んでるのであって、論調の違いでもって何かトラブルが起きるとかそういうのはない。まだまだ地雷を抱えながらそれぞれがそれぞれの戦いをしてるのであって。何が問題なのか僕はわからない。
田所 ちなみにちょっと古い話になるんですが、私は20数年前から辛淑玉さんと親しくさせて頂いてまして、石原知事だった頃の「第三国人」発言の際には私も及ばずながら共闘した人間です。ただ私が聞いているのは被害者が顔を殴られて骨が折れて顔の形が変わっているという話です。発表するしないは別に、その真偽を確かめたくなるのは安田さんにもお分かりいただけると思います。もし本当であれば、安田さんがさっきおっしゃったように、そんな軽いことではないという可能性も出てくると思うんですね。
安田 うーん

安田浩一と香山リカ(『人権と暴力の深層』より)

 

 

  
田所 だから安田さんもまだ詳細はご存じないわけであって、私もわからないわけであってそのことに対する評価というものはまだする段階ではないと思うんですね。
安田 わかりました。そういう熱意を持って取材される意味が僕にはよくわからないんだけど。取材されるのは自由ですから、これ以上特に言及することはないんですが、少なくとも、ただここまでお話しましたから万が一、僕の懸念もわかっていだいたと理解した上で取材していただいたと思いますけれども、何度も言いますように一つこう約束してください。僕は取材拒否ということはしたくないので、極力どんなお電話でも取りますし、どんな自分と考え方の違う人の問い合わせであっても極力答えるようにしております。ですから今回もそう思ってあえてこちらからお電話差し上げましたけれども、もしカギ括弧を使うのであれば、僕は運動を貶めるための目的や意図があるのであればご協力したくないということだけ、カギ括弧として使ってください。申し訳ございません、お約束いただけますでしょうか。
田所 もちろん確実にわざわざお電話までいただいて、それを裏切るようなことは決していたしませんので。 (電話の会話は以上)

◆「M君」に対する心遣いの言葉の断片も聞くことはなかった

どうだろうか。太文字と赤い下線の部分を特に注意して再度ご覧いただきたい。安田は最初に「僕もそういう話は聞いたことはありますけれども」と言い、また「僕その場に居たわけじゃありませんし、また聞きですからね」はずなのに、終始事件を「取材」すること自体に疑問を呈し、「訳が分からない」と繰り返している。詳細を知らないはずなのに「だけどもことさら取り上げることの意味がさっぱり分からないし、なんとなくその取材に向かう回路そのものに僕は胡散臭さを感じてるんで、」と極めて神経質に、事件の内容が明らかになることを警戒している。そして明言はしないものの、「取材をしてくれるな」というニュアンスが至る所に見られる。

安田が田所の取材に警戒心を隠さなかったのは、せっかく功を奏しそうだった「M君リンチ事件隠蔽作戦」が社会に広く知られれば「結果的にどんな取り繕おうが、どんな美辞麗句を使おうが結果的に運動に分断を持ち込んで、亀裂を深めさせ、対立を煽ることにしかならない。僕個人はそう考えてる」のと、「僕とすればこれは明らかに李信恵を貶めるための情報だと思うので一切協力はできない」のが本音だろう。

しかしここで安田の言う「運動に分断を持ち込んで、亀裂を深めさせ、対立を煽ることにしかならない」という理由は逆に言えば、「被害者M君の被害回復よりも、運動のほうが大切だ」ということになる。そして事件への言及で安田の口からは、ついぞ「M君」に対する心遣いの言葉の断片も聞くことはなかった。おそるべき加害者擁護、運動第一主義である。

◆「C.R.A.C.」はいまも存在するし、悪名高かった「男組」は明確な組織だった

安田は「カウンターって組織じゃないですからね。何か組織があるわけではご存知の通り」とここでも明白な虚偽を述べている。現在に至るも野間易通が君臨する「C.R.A.C.」は存在するし、解散はしたが悪名高かった「男組」は明確な組織だったじゃないか。そして、何よりITOKENこと伊藤健一郎が鹿砦社元社員藤井正美に宛てたメールにあった「説明テンプレ」と「声かけリスト」はカウンター全員ではなくとも、その中の一部が「組織化」されていた動かぬ証拠だ(詳細は『反差別と暴力の正体』参照)。

「カウンターは組織ではない」、「リンチ被害者などどこにもいない」ように世論形成をしたがっている安田は、「差別反対」であれば「集団リンチ」も黙認し、被害者を無視、いや攻撃さえする。さらには冒頭述べた通り、障害を持つ田所の公開を望まないのに写真を掲載した野間のツイッターを肯定するなど、最近の言葉でいう「アウティング」(身分晒し)を肯定していることになる。

この男、策略と矛盾だらけではないか。

◎M君リンチ事件から李信恵を守るジャーナリスト、安田浩一の矛盾〈前〉(2017年7月17日公開)

(鹿砦社特別取材班)

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