ピグマリオン効果とゴーレム効果、という言葉が教育の世界にある。
親や教師など周囲の者が、「この子供はきっとよくなる」と期待して接すると、よくなる、というのがピグマリオン効果だ。
逆に「悪くなる」と思われていると、悪くなる、というのがゴーレム効果だ。

私が、小学6年生の時、家族は引っ越しした。中学には、誰一人知った者がいない。
おっちょこちょいの三枚目から、きりっとした優等生にイメージチェンジしようと、私は目論んだ。
小学生の中頃までの私の通信簿はオール3だったが、高学年になって勉強するようになり始めていた。石ノ森章太郎の本に、マンガ家になるには勉強が必要だ、と書いてあったからだ。

イメチェンのため、中学に入って、勉強に拍車をかけた。
「成績がよかったら、レコードを買ってくれ」
親に頼むと、頷いた。
学期末に成績表をもらうと、主要科目は全部5だった。
「レコード買って」と言うと、
「勉強は、そんなことのためにするもんじゃない」と断られた。

怒りは湧かなかった。「そうか」と思った。
確かに、学校の勉強を一所懸命するなど、くだらないことだな、と。
その頃読んだ、『ビートルズ革命』や『戦争を知らない子供たち』にも、そう書いてあった。

中学、高校とバンドに熱中した。
自分を磨くためには本を読み、学校の勉強は適当にした。
だが、数学は学内でトップの成績を取っており、他の教科だって、まあまあだったと思う。
だが、2階の自室で妙な音ばかり出している私を、「ろくでもない人間になってしまった」と、父は思ったのだろう。

「タバコぐらい吸っていいんだぞ」
父親は言い、テーブルにタバコを滑らせてきた。
訳の分からない、ろくでもない人間から、訳の分かる不良になってもらいたかったのだろう。
それまで、タバコは吸っていなかったが、父に受け容れてもらいたいという気持ちは、私にもあったのだ。
タバコを受け取り、それから吸うようになった。

学校のマラソン大会で、同級生たちと、草むらでタバコを吸った。
遠くから名前を呼ばれて、煙を吐きながら振り返ると、教師だった。
他の同級生たちはすでに火を消し、タバコを始末していた。

学校に戻ると、教頭、生活指導主任、担任の横に、父がいた。
PTAの役員であった父は、私に言った。
「何をやっているんだ。日本の法律と学校のルールと、二重に違反しているんだぞ、おまえは」
タバコを吸っても、父は私を受け容れてくれなかったのだ。

(FY)

死よりも、法外な検死料にビックリ

夕焼けが空襲に見えた父