2011年5月から2012年9月にかけて東京地裁で計13回の公判が開かれた刑事事件の裁判で「虚偽記者席」により傍聴を妨害されたなどとして、フリージャーナリストの今井亮一さんが国を相手取り、損害賠償金1万円の支払いなどを求める訴訟を同地裁に提起した。
問題の裁判は、東京地裁・高裁の庁舎の前で毎日のようにハンドマイクで裁判所批判をしていた大髙正二さんという男性が被告人とされた事件。大髙さんは2010年8月10日、東京高裁の男性警備職員の頭部を2回殴るなどしたとして公務執行妨害と傷害の容疑で逮捕・起訴され、当初から一貫して無実を訴えたが、2012年9月19日の第13回公判で懲役1年2月の実刑判決を受けた。大髙さんが裁判所に敵対的な人物であったことなどから事件自体が裁判所によるデッチ上げだと指摘する声もあり、一部で熱烈に注目された裁判だった。

訴状などによると、この「大髙裁判」では初公判から毎回、傍聴券の抽選が行われたが、傍聴券の交付を受けていない人は傍聴席に空席ができても傍聴できず、それ以前に職員がつくったバリケードにより法廷前に近づくことさえできなかったという。そんな中、法廷の出入り口そばの5つの傍聴席にいつも「報道記者席」とプリントされた白いカバーがかけられていたが、その5席中4~5席は常に無人状態だった。そこで、今井さんが公判が開かれるたび、司法記者クラブに確認したところ、クラブ側から裁判所に「報道記者席」の用意を要求したことは一度もなく、そもそも「大髙裁判」のことを知らない社が多かったという。

今井さんはこれらのことから、「大髙裁判」における白いカバーの5席は、この裁判をなるべく国民に傍聴させたくない裁判所による「虚偽記者席をもうけての傍聴妨害」であるとみて、このたびの訴訟に踏み切った。今井さん自身もこの「大髙裁判」に注目して傍聴に通ったが、空席があるのに傍聴できなかったり、虚偽記者席に座ろうとしたら職員に頑として阻止されたことがあったという。
「裁判官による法廷の管理権は否定しませんが、虚偽記者席のような“ウソ”や“騙し”はダメでしょう。裁判は、理がある側が必ずしも勝つわけではないですが、理はこちらにあるはずです」と今井さん。実際問題、裁判所が一般傍聴席を5席少なくしなければならない正当な理由があるなら、正々堂々とそうすればいいだけで、「虚偽記者席」などもうける必要はない。裁判所が虚偽の記者席をもうけたことが事実なら、いかがわしく思われても確かに仕方ないだろう。

東京地裁に事実関係を確認したところ、「裁判所としては、お答えすることはありません」というお決まりの回答が返ってきたが、今井さんとの訴訟ではそんなふうにごまかすわけにはいかないだろう。果たして、被告側は訴訟の中で「虚偽記者席」をもうけた理由をどう釈明するのだろうか? そして、この訴訟が係属する東京地裁の民事第45部は、身内の問題を公正に裁くことができるだろうか? 何かと見所が多そうな事案である。

(片岡健)

★写真は、「虚偽記者席」により傍聴を妨害したとされる東京地裁。大髙さんは現在、東京高裁に控訴中。