「何が、いいアイディアですね、ですか!? 最初から言ってるでしょ!」
福島第1原発の当時の所長・吉田昌郎氏が、東電本店の担当者を怒鳴りつける音声が、テレビから流れてきた。当時の、事故に対する東電本店の対応が、後手後手に回っていたことが、今さらながら思い出される。

3.11から、今日で2年。
このところ、いまだに復興が進まない被災地の映像が流れるとともに、福島第一原発の内部にも、テレビのカメラが入っている。

2008年に東京電力社内で、福島第1原発に想定を大きく超える津波が来る可能性を示す評価結果が出た。明治三陸地震が福島沖で起きたと仮定、想定水位5.7メートルを大幅に超え、最大で水位10.2メートル、浸水高15.7メートルの津波の可能性が浮上したのだ。

その時に、津波対策の必要性を否定したのが、吉田所長であった、ということもテレビで語られた。
それは、原発の問題に取り組んでいる者の間では、周知の事実である。防潮堤を作ったら、津波が来た時に、かえって周辺への被害が大きくなるのではないか。放射能をまき散らして周辺を廃墟に追いやった現在から見れば、首を傾げるような理由で、吉田所長は対策はいらない、と結論したのだ。

だが、吉田所長を批判する者が少なかったのは当然だろう。まったく無責任な対応しかしなかった、東電の当時の、勝俣恒久会長や、清水正孝社長と比べれば、吉田所長は死を覚悟しながら現場に踏みとどまり、指揮を執り続けた。後から検証すれば細かな過ちもあったが、彼の指揮がなければ、事故の被害はさらに大きくなっていた可能性は高い。

吉田所長は、癌に罹患して治療を受けている。己の過ちを、自ら贖っている、と言える。
それを、テレビが批判した。かなり、突っ込んだ報道であり、真実を伝えている、と受け取った視聴者も多いだろう。

しかし、はたして、そうだろうか?
福島第1原発の事故後、「想定外」という言葉が飛び交ったが、地震や津波によって事故に陥る可能性は、多くの識者から指摘されていた。
それは国会でも議論になっていた。東電社内で津波の危険性が指摘される以前の、06年12月のことだ。
地震や津波によって外部電源も内部発電装置も機能しなくなる可能性を指摘した質問書が、共産党の吉井英勝衆院議員から提出されていた。
政府の回答は「まったく問題ない」と、対策の必要性を否定するものだった。
この時の首相は誰か?
安倍晋三、である。

安倍晋三こそ、福島第1原発の事故に直接の責任を有しているのだ。
安倍が首相になって、原子力ムラのメディアコントロールは、方向を変えた。
「東電=悪」として、すべてを東電に押しつけることで、政府の責任をひた隠す、ということだ。
これは、何かを悪として祭り上げれば民衆は納得する、という昔から馴染みの宣伝方法に他ならない。

これまで、データ改竄などが目立ったのも、東電だ。東電に「悪」を押しつけてしまえば、他の電力会社の原発は安全という世論を醸しだし、停まっている原発を再稼働させる、ということも可能になる。

新しい原発なら対策も完備していて安全だ、ということも、安倍は言っている。
『タブーなき原発事故調書』(鹿砦社)の中で、福島第1原発でも働いた、東電の原子力部門であった、蓮池透氏も言っている。確かに、今5000億円ほどで建てている原発を、1兆円ほどかけて建てればすごく安全な原発は造れるだろう、だがそれでも使用済み核燃料は出る、それはどうするのだ、と。
脱原発を決めたドイツでさえも、使用済み核燃料の問題は解決していない。
安倍の言っていることは、詭弁だ。

何よりも、福島の人々に災厄をもたらす原因を作ったのは、安倍晋三なのだ。
このことを、私たちは決して忘れてはならないだろう。

(FY)