社会新報編集次長の田中稔が、週刊金曜日に『最後の大物フィクサー・白川司郎氏・東電利権に食い込む』のタイトルで書いた記事を、名誉毀損だとして白川司郎が訴えていた裁判の第七回口頭弁論が、3月25日に東京地裁615号法廷で開かれた。
今回の法廷には、原告代理人である元特捜検事の土屋東一弁護士の姿はなかった。
前回の公判では、昨年12月の公判で田中稔が指摘した白川司郎のニューテックグループが主催するゴルフコンペに、パチンコ利権フィクサーのコスモ・イーシー代表取締役の熊取谷稔や、元警察庁生活安全局長の黒澤正和、元特許庁長官の吉田文毅らが参加していたことを、白川側が認めている。

今回の公判で田中稔は、白川司郎の中核企業であるニューテック監査役の小菅啓嗣が、東京電力福島事務所長としてプルサーマルの導入工作を担当、退職後は東電の子会社である東京リビングサービス社長になった人物であったことを指摘し、東電とニューテックの深い繋がりを明らかにした。
この裁判は、海外メディアからも注目され、昨年8月31日に外国特派員協会に田中が招待され、記者会見を開いている。前回のデジタル鹿砦社通信では、海外メディアからも注目された裁判だから、裁判所もあまりおかしな判決は出せないだろうと予測した。しかし、だから安心、というわけでもなさそうだ。安倍新政権の誕生により、原発推進派の巻き返しが際立ってきているからだ。

安倍内閣の経済再生担当相に任命された甘利明と、テレビ東京の間で争われた裁判では、テレビ東京側に330万円の支払いを命じる判決(都築政則裁判長)が1月29日にあり、テレビ東京は控訴を断念している。
一昨年の6月18日に放送された番組内で、甘利明がインタビュー中に取材を中断したのを、テレビ東京が、そのまま放送した事を名誉毀損だとして訴えていた裁判だ。判決文では、テレビ東京の取材は適正であり、最大の争点だったインタビューを中断したことを放送しないという約束は、成立したとは認められていない。それでもテレビ東京に330万円の賠償を命じた判決が下されている。

テレビ東京が取材中に、甘利に提示した資料に津波による電源喪失が書かれていないのに、あたかも書かれているように説明していたのが不適切とされたのだ。
つまり甘利明は、テレビ東京の記者の説明を真に受け、提示された資料に津波による電源喪失が書かれているのだと自分で勝手に思い込み、インタビューの途中で逃げ出したことになっている。

テレビ東京が甘利に見せた資料は、06年12月13日に共産党の吉井英勝衆院議員が、安倍内閣に提出した「国民の安全を守ることに関する質問主意書」であり、そこには次のようにある。
「大規模地震によって原発が停止した場合、崩壊熱除去のために機器冷却系が働かなくてはならない。津波の引き波で水位が下がるけれども、一応冷却水が得られる水位は確保できたとしても、地震で送電鉄塔の倒壊や折損事故で外部電源が得られない状態が生まれ、内部電源のディーゼル発電機もバッテリーも働かなくなった時、機器冷却系は働かないことになる」
確かに直接津波で電源喪失するとは書いてないが、大規模地震や津波による電源喪失の危険を警告したとも読めるのではないか。

むしろ見過ごせないのは、裁判の中で、テレビ東京のスタッフが甘利の発言として証言した内容だ。
甘利明いわく「日本なんかどうなったっていい」「私を陥れるために取材しただろう」「原発事故の責任を押し付けられたらたまったもんじゃない!」
「日本なんかどうなったっていい」という人間が、日本経済再生担当相とは、悪い冗談にしか聞こえない。
国会もマスコミも、この甘利明の問題発言の真偽を徹底追及すべきではなかったのか。

(橋本征雄)