伊方原発のゲート前にて、原発に向かって声を張り上げる斉間淳子さん

 

伊方原発3号機の運転差し止め決定を下した広島高裁の野々上友之裁判長を賞賛して「ありがとう野々上裁判長」と書かれた手作りの旗を掲げる

四国電力が本日(3月27日)にも伊方原発2号機の廃炉を正式決定する。1号機に次ぐ廃炉決定で、伊方で再稼働可能な原発は3号機のみとなり、少なくとも四国では〈原発ゼロ〉が遠からず現実味を帯びてきた。

伊方では昨年12月13日、広島高裁抗告審決定で九州・阿蘇山の「噴火リスク」がまっとうに強調され、再稼働が差し止められた。とはいえ、この司法の快挙に喜んでばかりはいられないと現地では1月20日、21日の二日間、廃炉を求める集会が開かれた。以下、その現地レポートを『NO NUKES voice』15号から一部加筆転載する。

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伊方原発3号機は2015年7月、原子力規制委員会が東日本大震災後に策定した新規制基準による安全審査に合格し、2016年8月に再稼働した。住民側は、四国電力の安全対策は不十分で、事故で住民の生命や生活に深刻な被害が起きるなどとして広島地裁に仮処分を申請したが、広島地裁はこの申し立てを却下。住民側は即時抗告していた。そして昨年12月13日、伊方原発3号機をめぐっての抗告審が開かれた。広島高裁は、伊方原発から130キロ離れた阿蘇山の巨大噴火を挙げ、9万年前の破局的噴火の規模なら火砕流到達の可能性は否定できないとして広島地裁の決定を覆し運転停止を命じた。

原発の運転を差し止めた司法判断は高裁では初めてだ。伊方原発は愛媛県の伊方町に建てられている四国唯一の原子力発電所で、福島第一原発事故後の2012年に全三基が停止。その後1号機は廃炉されることになり、また2号機は再稼働に必要な審査を受けるための申請がされておらず、運転を停止したままだ(※3月27日にも四国電力は2号機廃炉を正式決定)。残る3号機は2016年8月に再稼働するも昨年10月からは定期検査のために運転を停止。この司法決定で伊方原発は2018年9月30日までは運転を再開することができない。

こうした状況にある伊方原発だが、立地する伊方町では引き続き抗議活動が行われている。1月20日に催された集会には現地の方のみならず全国各地から参加者が集まり、その数約250人。近くに駅も無いのによく集まるものだと思う。

◆沖縄から山城博治さんがやってきた!

開会直前に現場に到着した沖縄平和運動センター議長・山城博治氏に注目が集まる。愛媛新聞の記者やローカルテレビ局が取材のタイミングを見計らうなか、経験は浅いが決断と短距離走がやたらに早い私はまっさきに山城氏の元に駆けつけ、登壇するので解放してくれという付き添いの声が聞こえるまでの7分間だけ、直接インタビューを行うことができた。

壇上から連帯を呼びかける沖縄平和運動センター議長・山城博治さん。スピーカーが弾けてしまうような張りのある声で集会に熱を加えた

伊方でも叫び、歌い、踊りだす山城博治さん

沖縄平和運動センター議長・山城博治さん

1月20日(土)に催された集会場の様子

 

四国電力の用地買収に対して「原発反対、プルサーマル反対」を生涯貫き農地を売らなかった地主農家の広野房一さん(2005年、92歳逝去)の碑

◆ここには怒りが備わっている

伊方原発への反対運動には怒りが備わっている。人間そのものが発する怒りが備わっている。他方、首都圏の運動に欠けているのは、この怒りだ。たとえば国会前での抗議活動はまさにその典型。ふざけるな。よし殴る。今スグぶち壊してやろう。といったフィジカルな気迫はどこからも感じられない。それは結局のところ、当人たちが苦しんでいないからではないだろうか。社会に不満があるとはいいつつも、その中でそこそこの安寧を得ており、だからこその腑抜けた態度が身について、その取り組みがポーズだということにも気がつかない。彼らは既に漂白されている。

ところが伊方ではどうだろう。この伊方町に暮らす人々は、原発が誘致されたことによりおよそ非倫理的とも言える苦しみのなかに蹴落とされた。南海日日新聞社の斉間満さんが著した『原発の来た町』には、その事実と怒りが淀みなく記されている。魚を殺し職を奪い、暴力的に金をばら撒き人間とその生活を引き裂く。

これが原発だ。許せるはずがない。「もし事故が起きたら被曝して苦しい思いをするかもしれないからイヤだ」などという思いから発せられる行動とはまるで違う。事故を起こした福島第一原発と同じように、既に、そして常に暴力を振るい被害を生んでいるのだ。

◆福島からは大熊町議の木幡ますみさん

大熊町議会議員・木幡ますみさん。たんぽぽ舎代表・柳田真さんや大間原発反対現地集会実行委員会・中道雅史さんの姿が見える

大熊町議会議員・木幡ますみさん

壇上でマイクを握る木幡ますみさん

夜は八幡浜の公民館にて大熊町議会議員・木幡ますみさんの講演会が行われた。講演が始まって一時間もすると、日中の疲れのためか、ウトウトとしている人がチラホラ。そんな時、前に出て休憩の提案をしたのは愛媛有機農産生協理事の秦左子さんだ。

現場ではリーダーとして常に笑顔で動き回りとてつもないエネルギーを周囲に振りまく。2016年の夏に伊方を訪れたときには「市民運動というのは、思想とか哲学から始まっているものが多かったんです。現地の人たちは命の戦いをしているのに、私たちは思想や哲学で原発反対と言ってきた。そこには大きな距離がある。」という話を聞かせてくれ、私はそのことについて時間をかけて熟慮したのを覚えている。『原発の来た町』をプレゼントしてくれたのも秦さんだ。

そんな秦さんが、集会の終わりにチラッと声に出した「原則として原発に反対しています!」という言葉は、伊方の反原発運動の特徴をバシっと表現しているのではないだろうか。放射能は子供達の未来を……、差別被差別の構造が……、事故の起こる可能性がゼロでないのなら……等々の理由を飛び越え、とにかく原発には反対なんだ。もう検討の余地などない。償って償いきれるものではない。誰がなんと言おうと絶対に認めない。そんな本当の信念を、希望や期待では無く信念を、特別な意図なく発したであろう「原則」という言葉からはっきりと感じ取ることができた。

現場で誰よりも明るく大きな声で動き回る秦左子さん。斉間淳子さんと共に活動を続けるリーダー的存在だ

愛媛新聞の記者からインタビューを受ける二木洋子さん。40年以上前から伊方原発反対運動に参加している

集会を盛り上げる原発さよなら楽団、通称“原さよ楽団”のメンバー

◆ふるさとは原発を許さない

翌朝は8時45分に伊方原発のゲート前に到着した。天気は晴れ。怒声あり。警察とデモ参加者あわせて10人ほどで早速揉み合っている。さてさて、とカメラと共に駆け寄る。「せめて確認しろよ!勝手に何やってるんだ!」「車を止めることを認めていないんだから!」「メモした紙を破れ!いますぐここで破りなさい!」不承不承その通りにするリーダーらしき警察官。

到着したころには少なかった警察官の数がいつの間にか倍増していた。

「彼らが守っているのは原発です! 私たちを監視するためにここに来ている! まず君達が一番最初に守らなければならないのは憲法だ! そのことを忘れてここにいる資格はない! 原発ではなく国民を守るのが君たちの仕事だ!」

伊方原発を背に反対運動参加者を無表情に見つめる警察官の隊列。ゲート前近くから望む四国電力伊方発電所。中央に見えるのが1号機、右が2号機、そして左に見えるのが、昨年12月に広島高裁が運転差し止めの決定を下した3号機

原発に背を向け抗議行動を監視する警察官。全員がマスクをしており匿名性が保たれている

反対運動参加者に対峙する警察官の隊列。数がどんどん増えていく

1月21日の朝、伊方原発ゲート前に到着すると怒声が聞こえた。警察の対応への抗議の声だ。警察も簡単には引き下がらない

伊方原発に向かって抗議の声をあげる参加者たち

「伊方原発、廃炉! 伊方原発、廃炉!」と始まりの挨拶があるわけでもなく徐々に抗議活動は熱を帯びてきた。「西日本で事故が起これば日本には住むところがなくなるんだ!」

「我々は微力だが無力ではないことを証明し、原発を廃炉にしよう!」
「この故郷には誇ることのできないものがひとつある!」

集会の最後には『ふるさとは原発を許さない』が歌われた。

国道197号沿いに設えられたステージにあがりマイクを握る、伊方の家主宰・八木健彦さん

▼大宮 浩平(おおみや・こうへい) [写真・文]
写真家 / ライター / 1986年 東京に生まれる。2002年より撮影を開始。 2016年 新宿眼科画廊にて個展を開催。主な使用機材は Canon EOS 5D markⅡ、RICOH GR、Nikon F2。
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※伊方集会の詳細は木幡ますみさん、山城博治さんのインタビュー等を掲載した『NO NUKES voice』15号をご購読ください。

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