2018年7月22日付け福井新聞より

7月22日の京都新聞は1面トップで〈「原発テロ備え大型巡視船 海保、来年度から福井に2隻配備〉の大見出しで、以下のように報じている。〈原発のテロ対策を目的に、海上保安庁が2019年度から順次、15基の原発が集中立地する福井県に大型巡視船2隻を配備することが21日、関係者への取材で分かった。東京電力柏崎刈羽(新潟県)、中国電力島根(島根県)といった原発での有事にも対応可能で、日本海側の要にする。今後、同規模の巡視船を全国に展開してゆく方針。〉だそうである。(注:太文字は筆者)

◆国際的には笑いものになりかねない頓珍漢

こういう政策を日本語で「愚策」または「頓珍漢」という。まず巡視船が「原発での有事にも対応可能」ではないことは、柏崎刈羽原発の事故や、言わずと知れた福島第一原発事故で明らかだ。原発での有事=事故が起これば、海上保安庁の巡視船など、一切役には立たない。原子炉に直結しない部分で火災が起きたときも、海上保安庁ましてや、大型巡視船はなんの役にもたたない。そもそも「原発テロ」と、問題を設定しているけれども人間の意志とは無関係に、機械の故障や、地震、津波などで大災害が起こることをわたしたちは経験しているだろうが。2011年3月11日福島県沖に大型巡視船が、待機していたらあの事故は防げたのか? 防げずとも少しは被害の程度をマシにできたというのか?

 

海上保安庁のPL型巡視船艇。PL型(Patrol Vessel Large)とは700トン型以上の大型巡視船。ヘリ甲板を設けた巡視船が増えつつある(海上保安庁HP)

大型巡視船を若狭湾に浮かべて、誰(なに)から原発を「守る」つもりなのだろうか。韓国か、朝鮮か、中国か? あるいは遠い国から船に乗ってくるどこかの「国際テロ」集団からか。いくら猛暑日が続いていて、正常な思考が難しくなっているからと言って、冗談や、寝言は家の中だけにしておいてもらわないと困る。こういう間抜けなことをしていると必ず国際的には笑いものになるだろう。その前に海上保安庁は税金で活動しているのだから、納税者は「いいかげんにしろ」と責任追及をしなければならない。

◆若狭湾にICBMが飛んで来たら、海保の巡視船は「迎撃」できるというのか?

原発事故のシナリオは無数に想定ができる。その中に「意図的な人為破壊」もないわけではない。遠くの国から原発をターゲットにミサイルを撃ち込まれたら、瞬時に原発は破壊され、大惨事になるだろう。仮にそのようなことが起こった場合に、若狭湾に展開する大型巡視船は、何かの役にたつのだろうか? たとえば、ロシアから、あるいは米国からICBMが飛んで来たら、海保の巡視船は「迎撃」できるというのであろうか。

「米国からICBMがとんでくるはずがない」といぶかられる方がいるに違いないから、その可能性がゼロではないことを示しておこう。日本と米国が「日米原子力協定」を締結しており、7月17日に自動延長された。1988年に発効したこの協定は米国が日本の原子力(核)開発を黙認する代わりに、監視する役目を担っている。自動延長はしたものの、今後は半年まえのいずれかからの申し出により、同協定は破棄することが可能となった。そして自動延長に際して、米国は日本が保有するプルトニウムについて、憂慮の念を表明している。

日本がいま貯めこんでいるプルトニウムの量はどれくらいであろうか。核兵器弾頭換算で約4000発の弾頭を作ることができる、と言われる47トンである。日本には人工衛星打ち上げに見せかけた「ミサイル」技術が確立されている。プルトニウムさえあれば、それを「核兵器化」する技術は専門家によると、さほど高度なものではないという。

◆「日本の核武装が危ない」という発想が国際社会で生まれる可能性

トランプ大統領は保護主義に走り、日本からの自動車輸入に25%の関税をかけるという。自動車産業や、これに繋がる関連企業にとっては一大事である。TPPにも入らないし、こんな話は「想定外」だったに違いない。また別の想定外だって私たちは目にしたばかりだ。双方絶対に譲れない「天敵」の如く反発を続けてきた朝鮮と米国の首脳会談がシンガポールで実現したのは、つい先月のことだ。昨年の今頃だれが「米朝首脳会談」を予想できただろうか。

米国は明確に日本が保有するプルトニウムに懸念を示している。朝鮮との首脳会談を実現させたトランプの脳の中で、「日本の核武装が危ない」との発想が生まれない保証がどこにあるだろうか。

諸悪の根源は、事故を起こせば人間の手には負えないし、事故を起こさなくとも運転すれば無毒化に10万年以上かかる、膨大な放射性汚染物質を生みださざるを得ない原発の存在そのものだ。「若狭湾に大型巡視船を2隻浮かべたら安全ですよ」といわれて、「ああそうか」と納得するような国民性では、早晩この国は破滅するだろう。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

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