まず、榛野氏にメールを送ってみた。榛野氏は芳川氏からどの程度、私の情報を聞いているのだろう。私のイメージの芳川氏は神経質な部分もあるように感じる。個人情報などで揉めたくないと思い、作品だけしか送っていないような気がする。その思いも含め、初めてのメールを送るうえで、簡単な自己紹介文と電子書籍の出版をしてくれるということに対してのお礼のメールを丁寧に送った。

この時点では、まだkindleについて良く知らない。
不信感を抱いている芳川氏の紹介ということで、豊穣株式会社と榛野氏についてのリサーチに気をとられkindleについてのリサーチを行っていなかったのだ。今から思えば、kindleについても調べておく必要があった。Kindle Direct Publishing(KDP)は『個人出版』である。個人出版というのは、環境と知識さえ揃っていれば、誰でも気軽に無料出版できる……そのことさえ気付いていなかった。手続きや表紙制作の手間などもかかるが、どれも個人でできるものであり、わざわざ会社を通して行うものではないということも知らなかった……個人出版という言葉の意味さえ分かっていなかったため、Y.Nコミュニケーション、豊穣株式会社の2社で行うというのも含め、大掛かりな事業だと思い込んだ。
そのため『商業出版』の一種だと思い込み、個人出版を代行するというだけであるのに、大変、丁寧なお礼のメール榛野氏に送ってしまった。今思えばこのメールによって、榛野氏は私がまだkindleや個人出版について詳しくないと気付いてしまったのだと思う。多分、榛野氏はそういった人物を求めていたのだろう。

芳川氏に宛ててメールで送った小説は2作品であった。1作は前にも書いた通り、電子書籍として発売しても良いと思えるものであり、すでに多くの人に読んで頂いるものだ。ただし、読んでもらっている中で、ある社から自費出版の話が出てきたので、お金を払ってまで出版社が出そうと思うレベルではないのだろうと封印していた作品である。もう1作は、その作品とは別に自分の作風の参考として、短編小説の賞で最終選考まで残った作品をおまけのように添付していた。

お礼メールの後、榛野氏から返ってきたメールは2作品について大いに褒めてあった。『心温まる作品です。多くの人に読んでもらうべきだと思います』商業出版だと思い込んでいたため、これは、自費出版の匂いがすると感じた。大した作品でもないのに褒めまくる。大体が心温まる作品ではない。出だしに関してはこころ温まる部分もあるが。全体的には暗い話だ。全部読んでいるとも考えにくかった。
確かにおまけの1作は最終選考に残っているので、悪い作品ではないと思う。しかし、そちらはWEBでの公開が決まっているのでkindle化はできない。
もう1作、kindle化を希望する作品は決して良い作品ではない。どちらかと言うとひどい作品だと言える。それを褒めちぎるなんて。怪しい。話を進めてゆくうちにお金を請求されるということもあるかもしれない。しかし、電子書籍という風に考えるとコストもかからないので、紙の小説よりも作品に対するハードルが低いのかもしれないという考えも心のどこかにあった。騙されているのかもと感じつつも、多くの人に自分の作品を読んでもらえる機会かもしれない。そういった、弱みに付け込んで商売をしているのだと、今に振り返ると改めて強く感じる。

(但野仁・ただのじん)

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