しばらく前のことだ。御茶ノ水駅前を歩いていると、聞き覚えのある声が聞こえてくる。「おいら ジャパニーズ バンドマン」と歌っている。昔親しんだ、竜童組の曲だ。
公園とも言えない、駅とビルとの間の小さなスペース。並べられたパイプ椅子に座って、100人ほどが聴いている。立ったままの人や、その辺りにしゃがみ込んでいる人もいる。
その前で、ステージもなく、設えられたマイクの前で、歌っている男に目を走らす。

宇崎竜童、その人か? まさか、『沖縄ベイ・ブルース』『港のヨーコ・ヨコハマ・ヨコスカ』『スモーキン・ブギ』をヒットさせたスーパースターが、こんなに身近で、むき出しの路上で歌っているわけがない。そっくりさんか? と思ったが、目を凝らしてみると、紛れもなく、宇崎竜童その人であった。

周りで、若いスタッフが募金を集めている。訊くと、明治大学の学生であるという。
このイベントは、東日本大震災の被災地支援のために行っている、という。
宮城県の東松島の中学校は、ブラスバンド部が、津波で楽器が流されてしまった。
楽器を寄贈した資金を補うために、イベントを行い募金を集めている、とのことだ。

どんな支援も貴いものだが、このアイディアは素晴らしい。
被災地からは、様々な声が聞こえてくる。
その一つが、励まされるばかりでなく、自分たちの地域は、自分たちで励ましたい、という声だ。
ブラスバンド部に楽器があれば、それが可能になる。

ギター1本を抱えて歌う、宇崎さんの声に耳を傾ける。
『ノーギャランティ・ブルース』や、覚せい剤の使用を戒めた『シャブシャブ・パーティ』。
「ちょっと手拍子ちょうだい」、『生きてるうちが花なんだぜ』では、「リズム感いいみたいだから、ちょっと声をちょうだい」と言って、観客を巻き込んで、盛り上げていく。
『GOD BLESS TOKYO』で、「God bless you」と歌われた時は、自分に向かって歌われた、と皆感じたのではないか。

イベントでは、他にも様々なバンドが演奏し、どれも素晴らしいものであった。
宇崎さんは明大の学生時代には、軽音楽クラブのジャズバンドでトランペットを演奏していた。「お茶の水の街に音楽で恩返しを」と2008年から、明大で学生と「お茶の水JAZZ祭」を行っている。

夫人の阿木燿子の作詞、宇崎竜童作曲のコンビは、山口百恵の黄金時代に楽曲を提供した。
ダウン・タウン・ブギウギ・バンドの曲も、山口百恵の曲も、今でも放送で流れ、日本全国のカラオケで歌われている。
竜童さんは、隠居したとしても、楽に生活していける身だ。
それがこうして、路上で歌っている。
素晴らしい大人が、ここにいるな、と感じたひとときであった。

(FY)