電子書籍による個人出版はどうなんだ!? 企業と揉めたライター奮戦記 10

契約した作品は全部で10冊分。ショートショート集、短編集なども含んでいるため20作品ほどである。我ながら20作品とは思い切ったものだと思う。しかし、20作品も一度に契約する豊穣出版も思い切っている。榛野氏側はやはり内容なども重視していないのだろう。読めれば良いレベルだろうか? だが、こちらも豊穣出版を利用するつもりになっていたのでお互いさまだと思った。契約した20作品には△が付けられていた作品も含まれていたが、それに関しても異論はない。

契約は成立したが榛野氏はすぐに発売でなくても良いと言った。△のもので直したい作品があれば直して良いとのこと。私としては〇のもの、△のもの含め、全て過去に書いた作品なので直したいという思いがあり、全ての作品を見直す時間をもらうことにした。判さえ押させてしまえば、自分の任務も完了という思いがあったのだろう。榛野氏も逃げられることを焦っていて急いでいるふしがあったのだと今になれば分かる。判を押した後、それまでの態度が一転したとは言わないが榛野氏に油断や傲慢さが見え始めるようになる。

まず始めに私の気分を害させたことと言えば、以前メールにて死んだ主人公を生き返らせ続編を作って欲しいと言っていた作品に対して、再度、シリーズ化お願いをしてきたことだ。その際も契約内容は同じで『無料』で出版すると言う。この『無料』という言葉も、今後は有料にする予定があるからこそ強調するのだろうなと感じられた。メールでは、やんわりと流したつもりであったのだが榛野氏は本気であり、全く諦めてはいない。

「やはり、主人公が死んでしまうことに意味があるので、どんなに良い作品と言われても、簡単に人を生き返らせてしまっては元の作品自体の質が落ちるのでは……」などと言い、再びやんわりと断ると「そんなことないです」と榛野氏は答える。その後に続いた言葉が更にひどい。
「この作品は、この作品として終わりにしましょう。また、別の作品としてシリーズ化したものを作れば良いんですよ。そっちは主人公が死ななかったことにして! 人気のアニメでもそういうのよくあるでしょ?」と言われた。

アニメをあまり見ないので詳しくはわからないが、アニメの場合では生きていた頃の番外編というような形でそういった作品が存在するのでは? と言おうとしたが、はっきりとわからず答えられなかった。エンディングを変えるようにすればいいのではとも思ったのだが、そういった発言も榛野氏からはなかった。それもそのはず、榛野氏は今のエンディングも含めて好きらしい。そして、この主人公の別のストーリーも作って売りたいというのが榛野氏の思いらしい。

「登場人物と設定は全く同じで、主人公を死ななかった別の人に変えてはダメなのですか?」と妥協案として尋ねる。
「いや、この死んだ主人公が良いんですよね」と榛野氏。話は続いていく……このやりとりに対して私は面倒になってきたので「良い設定を考えてみます」と答えた。榛野氏は笑顔になった。特に承諾したつもりではないのだが、榛野氏は承諾したと思ったのだろう。私はこの話をなんとかして流そうと決めた。作家としてはどうしても妥協できないし、するべきではないと心では決めていた。
話が一段落すると「待っていて下さい」と言い、榛野氏はオフィスの奥に入って行った。今度は何が出てくるのだろうとうんざりしながら待っていた。

(但野仁・ただのじん)

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