後日、メールが来た。前回、渡した作品が〇、△、×、で分けられていた。〇は販売可、△は販売しばらく見合わせ、×は販売不可という意味らしい。それ以外に講評などは一切なかった。講評と言えるようなものと言えば、タイトル変えた方がいいです。というものぐらいだ。IT企業での電子書籍を発売するというのはこういうことなのだろうか? 作品が随分と軽んじられたように感じる。
ただ、契約書を交わす前に他の企業から出版の話などがあった際は、豊穣出版社以外で販売するのは問題ないと榛野氏は話していたのでいい加減過ぎたり、信頼できない人間であれば、契約前に話を無かったことにすることはいつでもできる。
評価が〇、△、×も驚いたがそれ以上に驚いたことが一つある。エンディングに主人公が亡くなって終わりの作品が一つあった。その作品の評価は〇なのだが、是非、主人公を生き返らせ続編をというのだ。その話はメールであったので、やんわりと流した。

会って話しているとノリの良い新規事業に熱を費やしている人、という風にも思えたのだが。打ち合わせ後に他の企業の方とメールをしていても、明らかに榛野氏の軽い文章だけが浮いている。評価が〇、△、×の三段階。死んだ主人公を生き返らせろという無謀さ。やはり、信用できない。
作品を渡したことは失敗だったかと思い、周囲の作家の方々に今回の件を相談してみた。このまま、話を続けても良いものかと聞いたのだが、数人の方から電子書籍のレベルは低い。編集者のレベルも低く、IT企業だといい加減な会社も多い。という話をされた。賞に落ちたものや、過去に通っていた小説スクールの課題で書いたものなど、発表の場が無いものに関してはWEB投稿するよりも実績になるのでは。というような意見を頂いた。電子書籍というものが現在、売れる市場ではないので、多くの人に作品を読まれ作家としての質が下がるというよりは、電子書籍を出している作家という実績の方がメリットとなるのではという意見も頂いた。
私が榛野氏に渡した作品は自信作ではない、言わば二軍のようなものだ。さすがに三軍の作品は自分の質が下がると思ったので渡してはいなかったのだが。
儲かるかわからない電子書籍の事業を起こすという会社自体が賭けをしているようなものである。そういった会社に信頼性を求めるよりも、お互い利用するつもりで仕事をして行くというのが一番良いのかもしれないと感じられた。

2月の上旬、再び打ち合わせをすることとなる。今度はきちんとした契約を行うための打ち合わせだ。オフィスへ行くと前回同様、榛野氏は気持ち悪いほどの笑顔で迎えてくれた。胡散臭い笑顔だと思った。
契約書を渡される。前回、話した内容と同じく、収入はシェア、二次使用権は渡す、というようなことが書かれていた。契約は三年といった内容も含まれていたが、そこはあまり気にせず他の部分も細かく読み、判を押した。

(但野仁・ただのじん)

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