来客用のスペースにはロックバンドのポスターが飾られている。80年代、90年代前半のものだろう。どこかのHPに過去ロックバンドにてメジャーデビューしたと書いてあった気がする。ただ、過去に何をしていたかよりは、今、企業として何をしているかが気になっていたので、ロックバンドの件は何気なく読んでいた。このポスターの中の誰かだろうと思いながら待っていると、40代ぐらいの男性が入ってきた。ロックバンドのポスターの中の誰かはわからなかった。違うバンドです。と言われればそうなんですね。と答えるだろう。男性は黒く日焼けをしておりラフな格好をしている、この人が榛野氏か。軽く挨拶をし、名刺交換をする。

私の名刺を見て榛野氏は「ライターさんなのですね。何を書かれているのですか?」と言う。メールのやりとりで署名にHPを載せてあったのだが彼は見ていないのだろう。
榛野氏に対して「今はWEBや雑誌などいろいろ書かせて頂いています」「今回は小説の方を電子書籍化して頂けるということでありがとうございます」などと軽く話をした。正式に契約はしていないので、契約書を読んでから最終的に販売するかは決めるつもりではあったが、一応、軽くお礼をする。
榛野氏の話し方は柔らかく悪い気はしなかった。いかにも社長です。という感じは全く無い。だが、その柔らかな口調が怪しげに感じられる。以前、自費出版を進めてきた営業の人に話し方がそっくりだ。榛野氏は作品についてメールと同じように一通り褒めた後、資料を渡して来た。

資料には『豊穣出版のご案内』と書かれている。1ページ目にサービス内容として、電子書籍の出版、既存紙媒体の電子書籍化、電子書籍を使ったマーケティング・プロモーション、というものが書いてあり、最後に有能な著者の発掘と書いてあった。有能な著者の発掘というのは自費出版であろうか? また、電子書籍を使ったマーケティング・プロモーションとは何だろう? などと考えていた。
ご案内を読み進めて行くと、これまでに発売した電子書籍についてのご案内やサービス内容についてざっくりと書いてあった。

「まだ、始まったばかりの事業なのでとりあえずの資料にはなるのですが」と読んでいる最中に榛野氏は言う。電子書籍を使ったマーケティング・プロモーションの項目には全く触れていなかったが、自費出版については多少触れてあった。『自費出版のお手伝いをします』という項目があり、自叙伝、会社の歴史などを電子書籍で紙の書籍よりお安く書籍化しませんか? というような内容で値段には一切触れていなかった。
ご案内の中にはkindleという言葉は一切使われていない。また、『Amazonなどの販売スタンドでの販売』という項目があり、日本語として正しいのかな? などとどうでも良いことを考えながら読んでいた。このAmazonなどの販売スタンドと言うのがkindleのことなのだろう。kindleはAmazonで販売している電子書籍ということは、なんとなくその当時もわかっていた。
ざっくりした資料なので、すぐに目を通し終わる。その後、榛野氏は販売について説明するためホワイトボードを使い説明を始めた。ただ、説明したのはお金のことだけである。しかし、よくよく聞いてみると自費出版という話ではなかったのだ。

(但野仁・ただのじん)

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