「リーチサイト」という漫画海賊版サイトに案内するサイトを運営していた3人に、懲役2年4か月~3年6か月の実刑判決が下された(大阪地裁1月17日)。人気漫画の「ナルト」など68点が読めるサイトのリンク先を掲載したことに対して「多数の著作権者らに総体として大きな被害が発生している」(飯島裁判官)としたものだ。実際に海賊版サイトを作ったのではなく、リンク集を作った被告たちに実刑が下ったことは、驚きをもって迎えられている。

官民事業体のコンテンツ海外流通促進機構(CODA)によると、漫画やアニメなど3つの海賊版サイトだけでも、2018年の2月までの半年で4000憶円をこえる被害が出ていると推定している。サイトの数がいくつあるのかはわからないが、当局の取り締まりに期待したい。

◆著作権法違反の罰則は、1000万円以下の罰金もしくは10年以下の懲役

それにしても、リンク集を運営しただけで実刑判決とは、驚かれる向きも多いのではないだろうか。リンクサイトの運営は、広告バナーの獲得で莫大な利益が出るのは知られるところだ。18禁サイトのリンク集ならそれだけ食べていける利益が出るという。気軽な副業気分でリンクサイトをやっていたところ、臭い飯を食う羽目になったというわけだが、著作権法の罰則は1000万円以下の罰金、10年以下の懲役と、じつは厳しいものなのだ。今回の判決をつうじて、一般にもその威力が知られるのはいいことだと思う。

たとえば、講演会などで自身の著作をコピーして配布する研究者や著名人を見かけるが、著作権にかかる複製権の違反である。著作物のコピーは自分の研究に使う目的でのみ許されているのだ。それも図書館において、複製申請書を提出し、司書の許可を受けなければならない。

じっさいに私も雑誌を編集する立場として、目を覆いたくなるような光景に出会う。高名な学者先生が最新号の記事を平気でコピーして、数十人の聴衆に配布している。発売したばかりの雑誌掲載の論文が、ご本人のサイトに掲載されているとか。あるいはゲラのやり取りの中で、親しい人たちに配布したいので完成PDFを送って欲しい等など。論文作法は教え教えられてはいても、著作物の複製が違法であることは日本の学界では軽んじられているのだ。

◆訴えがないかぎり、不法に放置されている著作権侵害

唯一、自分の研究以外に複製が認められているのは教育現場だが、これもじつはグレーだと指摘しておこう。条文は以下のとおり。

著作権法第35条「教育に携わる者、教育を受ける者(著作権法35条)複製画できる」となっているが、制限・配布がどの範囲なのか。じつはグレーなのだ。小学校や中学高校の義務教育の現場なら、試験対策として文芸作品のコピーが練習問題として複製されても、35条の範囲内なのであろう。大学のゼミでの研究を「教育」と言えるのかどうか。著作権法に詳しい法律家は頭を悩ませることだろう。裁判になった例は、管見のかぎり知らない。たぶんこの例(教育)での裁判は、教科書のそものに著作権者が引用不可の裁判を起こした件以外に、刑事も民事もないと思われる。

編集・出版サイドでは、雑誌の最新号や刊行から6ヶ月の新刊は、複製権が有力であるという考え方で、図書館も最新号の貸し出しやコピーを認めない所が多い。このあたりは、新薬とジェネリックの関係に似ている。

 

脱ゴーマニズム宣言事件の概要(三枝国際特許事務所HPより)

いっぽう、著作物からの「引用」は、かなり裁量の範囲が大きい。2頁以上の引用は著作権侵害との判例があるようだが、引用された側が訴えないかぎり、放置されているのが現状だ。上杉聡氏と小林よしのり氏の「脱ゴーマニズム」裁判で、引用ならほぼ制限なく可能(裁判では同一権保持=引用の不完全が違法とされましたが)となっている。

おりしも、TPPにかかる著作権期間は50年から70年に延長される予定だ。漫画家はページ当たり数千円の原稿料で、膨大な時間をかけて作品を描いている。コミックスが出なければ、アシスタントも雇えないのが実情だという。かさねて、当局には違法サイト取り締まりの実を上げることを訴えたい。

▼横山茂彦(よこやま しげひこ)
著述業・雑誌編集者。主な著書に『軍師・黒田官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)、『真田一族のナゾ!』『山口組と戦国大名』(サイゾー)など。医療分野の著作も多く、近著は『ガンになりにくい食生活――食品とガンの相関係数プロファイル』(鹿砦社LIBRARY)

月刊『紙の爆弾』2019年2月号 [特集]〈ポスト平成〉に何を変えるか

横山茂彦『ガンになりにくい食生活――食品とガンの相関係数プロファイル』(鹿砦社LIBRARY)