「忖度」し、しかもそれが「ウソ」だったという閣僚が辞任に追い込まれた。

「わたくしは渡世の義理だけで生きている麻生派、根っからの麻生派であります」
渡世の義理で選挙の応援に来た閣僚は、こう口火を切ったのだった。

「みなさんよく考えてくださいよ。下関は誰の地盤ですか。安倍晋三総理ですよ。安倍晋三総理から麻生副総理の地元でもある北九州への道路事業が止まっている。……私、すごく物分かりがいいんです。すぐ忖度します。……今回の新年度の予算に国で直轄の調査計画に引き上げました」「吉田(参院)幹事長が大家(聡志)さんと一緒にやって来て『塚田、わかってるな。総理と副総理の地元なんだぞ』と言うんです。わたしは物分かりがいいんです。総理や副総理が自分では言えないから忖度します」(4月1日、福岡知事選挙応援の演説)

こう演説したのは、元国土交通省副大臣の塚田一郎だ。利益誘導を「忖度」する。総理と副総理の地元だから、停止している道路事業を再開させると喧伝し、国会でマスコミでおおいにその名を売った。辞任の顛末はともかく、事実関係をたどっておこう。

 

◎[参考資料]下関北九州道路の早期実現に係る要望(2018年3月28日)

4月1日(エイプリルフール)の発言だからか、この発言は「事実ではありませんでした」つまり「ウソ」だったとしている。だとしたら、公職選挙の運動の場において「ウソ」で集票しようとしたことになる。

この道路事業というのは、山口県下関市彦島から福岡県北九州市小倉北区に至る約6キロメートル(海上部の吊り橋約2キロ)の地域高規格道路である。かつて「第二関門橋」と呼ばれた30年来の計画で、安倍晋太郎の時代から熱烈な運動がくり広げられてきた。道路は全線が候補路線であり、建設を行うためには計画路線への格上げが必要となっていた。それを政権首脳に「忖度」して、国レベルの調査として、一気に計画路線にしてしまおうというのが、応援演説の真意である。

この「忖度」発言およびそれが虚偽だった件について、参議院決算委員会において、安倍総理は「過去にいくつかの要望事項のひとつとして、設置要望の大会に出たことはある」、麻生副総理は「記憶に定かではない」などとはぐらかして、自分たちの要望が「忖度」されたものではないかのように答弁した。

事実はそうではない。安倍総理は「関門会」なる政治団体の一員として、道路実現のための「要望書」に名を連ねている。総理官邸で大家聡志参院議員に推進のための「指示」もしているのだ。麻生太郎副総理は「下関北九州自動車道路の早期実現に係る要望書」(平成30年版)には整備促進期成同盟会の「顧問」として名を連ねているのだ。ちなみに、この要望書は毎年提出されているが、すくなくとも28年度以降、麻生は「顧問」となっている。

したがって、塚田元副大臣の発言はきわめて事実に近いのではないか。

◎[参考資料]下関北九州道路の早期実現に係る要望(2018年3月28日:PDF)

総理および副総理への「忖度」で政策をゆがめたのであれば、政治の私物化にほかならない。そして「忖度」をしたという演説が「ウソ」だったとしたら、虚偽の宣伝、選挙民への裏切りである。どちらにしても副大臣を辞任するしかないのが、塚田一郎国交副大臣の立場だった。そして、どうやら野党が「辞任」に向けて問責決議などの猛追をかけず、やんわりと話題にしつつ、おそらく参院選挙までこの話題を引っ張ろうとしていることに、自民党は気づいたのだった。そこで一転、更迭となったものだ。

すでにこの欄でもふれたとおり、新元号「令和」は法(令)による支配とそれに対する和(反抗しない)がもう一つの意味である。いわば規律を国民にもとめる政府が、身内の「利益誘導」や「ウソ」には寛大であるという、醜い姿をさらしてしまっていたのだ。

塚田元副大臣の「忖度」発言によって、下関北九州道路は「忖度道路」という印象を持たれてしまった。今後、国レベルでの調査・建設計画が進むにつれて、国民は「あれは忖度で進んでいる工事だ」「ゆがんだ利益誘導によって造られている橋」となってしまうであろう。それにしても、新たな橋が必要かどうかである。

私の実家は、対岸に彦島(下関市)を眺める門司区と小倉北区の境い目にあり、響灘と呼ばれる静かな海を遠望できる。母校(九州国際大学付属高校)の校歌に「♪遠く玄海荒れるとも 波静かなる響灘」とあるように、穏やかな風景のなかに馬島などの小島が見える。瀬戸内海の延長でもあるがごとき環境で、そこに巨大な橋を架けるのは無粋との反対意見もある。海底トンネル(自動車道)は老朽化による修理の頻発があるとはいえ、関門大橋はあと100年は使用可能だとされている。鉄道の海底トンネル(鹿児島本線)、新幹線の海底トンネルも健在である。

その意味では、地元の財界が数千億円といわれる建設費を見込んでの促進運動ともいえるのだ。今回の利益誘導の裏側にはしたがって、政財界の癒着という構造が見え隠れしている。そしてその中枢に、現役の総理大臣と副総理大臣が名を連ねているという由々しき事実だ。この案件から目が離せない。

▼横山茂彦(よこやま しげひこ)
著述業・雑誌編集者。主な著書に『軍師・黒田官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)、『真田一族のナゾ!』『山口組と戦国大名』(サイゾー)など。医療分野の著作も多く、近著は『ガンになりにくい食生活――食品とガンの相関係数プロファイル』(鹿砦社LIBRARY)

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