IOCの決定により、来年予定されている東京五輪のマラソン・競歩が札幌に競技場を移されることが決定し、競技の日程もマラソン男女が同日の実施と変更になるなど、大混乱をきたしている。


◎[参考動画]【報ステ】札幌で決定 小池知事「合意なき決定」(ANNnewsCH 2019/11/01)

◆オリンピックは本当に「神聖なもの」ですか?

本通信で何度も強調してきたように、わたしは東京五輪開催に再度強く反対の意思を表明する。IOC(国際オリンピック委員会)は決して身ぎれいで、崇高な意思を持った団体ではない。今日オリンピックは完全に「商業イベント化」されていて、その大元締めがIOCだと考えていただいて間違いない。

開催国の決定から、スポンサーによる巨額収入の使途まで、IOCには明かされない部分があることは、多くのひとびとが指摘してきたとおりであり、しかしながらその「暗部」が表面化しないのは、「オリンピックは神聖なもの」である、との幻想と、世界の主要メディアをスポンサーとしてIOCが抑えている構造。主要メディアもニュースソースとして、IOCやオリンピックの情報はぜひ欲しい、という情報提供主と情報産業の「持ちつもたれる」の関係性が災いしている。


◎[参考動画]猪瀬直樹東京都知事のプレゼンテーション IOC総会(ANNnewsCH 2013/09/08)

◆札幌に一部競技を移したら、もうそれは「東京五輪」とは呼べはしない

だいたい、2020年の夏季五輪は開催地として、東京が選ばれたはずであるのに、かつて冬季五輪を開催した札幌に一部競技をうつしたら、もうそれは「東京五輪」とは呼べはしない。海外の人にしてみれば、「同じ日本の中だから、トウキョウもキョウトもフジヤマもサッポロもどうせ小さな島の中にあるんだろう」と思われているのかもしれないが、当事者のわれわれは東京と札幌が距離的、文化的、意識的にどれほど距離のあるかは実感できている。

しかも、IOCはマラソン・競歩の札幌実施について、事前に東京都へはなんの相談・連絡もしていなかった。知事小池百合子が「暑いところが問題であれば北方領土でやれば」などと頓珍漢で軽薄なコメントを口にするようだからか、あるいは東京ともIOCも同様に「腹黒い魂胆」の隠し合いをしているためか知らないが、開催地としてはこれほど馬鹿にされた対応はない、と感じるのは無理もないであろう。


◎[参考動画]滝川クリステルさんのプレゼンテーション IOC総会(ANNnewsCH 2013/09/08)


◎[参考動画]安倍晋三総理大臣のプレゼンテーション IOC総会(ANNnewsCH 2013/09/08)

◆度重なる災害で増加する通常の生活を送ることができない人たち

しかし、そもそも直近の千葉県を中心に膨大な被害をだした台風や大雨による惨状が示す通り、記憶されている範囲だけでも、広島、佐賀などでの水害被害、大阪、熊本、北海道、そして東日本大震災での地震津波被害など、自然災害と人災により、通常の生活を送ることができないひとびとが残念ではあるが年々増加するばかりだ。

それら災害の一つ一つが、数年間の間をおいて発生すれば、全国の注目を浴び、復旧へのまなざしももっと強く注がれ、政府の対策への注文もより強いものになろうが、このように甚大な自然災害が毎年のように発生していると、日々の情報消費速度が一貫して加速する社会にあっては、各被災地や被災者への記憶は、当事者ではないひとびとの日常からは薄れてゆかざるをえない。

大阪で震度7を初めて経験した茨木市や吹田市の古い住宅の屋根には、その数はだいぶ減ったものの、いまだにブルーシートの姿が見える。同じ関西に居住しているが、関西圏でも大阪での大地震(揺れの時間が短かったので東日本大震災のように甚大な被害ではなかったが、死者も出すほどの大きな揺れだった)に対する記憶は、ほとんど語られることがない。


◎[参考動画]東京2020/国際オリンピック委員会の記者会見(Olympic 2013/09/08)

◆日本はもはや経済大国ではない

そして、あまり口にする人はいないが、かつては「経済大国」であったこの島国、日本がもう世界的に経済大国としての地位を、失いかけていることに、日本居住者は鈍感であるがゆえに、バブル経済破綻まで崩れなかった「土地(地価)神話」のように、去りゆく「日本経済大国」幻想から、覚醒することができていないのだろう。

わたしが、指摘するまでもなく日本は20年以上デフレが続いていて、OECDのなかでこの20年間成長率は最下位だ。20年間最下位がつづくと、どういう現象が起きるか。たとえば為替レートが20年前と同じOECD加盟国に出かけたら、日本はデフレで物価が上がっていない(給与所得も上がっていない)が、その他のOECD加盟国は年率で2-4%の成長を続けてるので、20年前に日本より安価だと感じていた外食の価格が逆転し、さほど贅沢でもなさそうな外食に1000円~2000円払わなければならないという現象が起きている(豪州などでこの「逆転現象」は顕著である)。

豪州では30年ほど前に、シドニーを除くメルボルンやブリスベンなど都市近郊の約200坪プール付きの住宅が1500万円ほどで購入できたが、都市周辺部の地価はここ20年で約4倍(6倍の地域もある)に上昇しているという。かつては日本で建売住宅を買うよりも安く買えた、広々としたプール付きの住宅が、いまでは日本の給与所得者には手の届かない値段になっている。

全国各地に100円ショップが展開し、非正規雇用が4割を超える。この現象の進行を日本にいて日々生活をしていると「こんなものか」としか感じられないかもしれないが、確実に日本の経済力は低下していて、国家財政は破綻が目の前だ(山本太郎氏率いる新政党は「MMT理論」で国債発行は問題ない、としているが、私は「MMT理論」には懐疑的である。国債発行で国家財政が賄えるのであれば、苦労して行政は税金を集める必要がなくなるのではないか)。

あなたのお給料や年金は、ちゃんと毎年上がっていますか? 下がってはいませんか? 高度成長期を経験した、あるいはバブル期を経験した世代の方であれば、その後の急激な不景気がご記憶にあるだろう。今後日本は長期間にわたり、あのような不況がつづく。大企業に利益が集中し内部留保ばかりが増え、中小企業や低所得層が消費税で締め上げられる構造が維持される限り、間違いない。

ようするに、もうに日本は過去の日本のように「金持ち」ではないのだ。そして1964年に東京五輪を開催した時代のように、この先高度成長はやってくることはない。2020年東京五輪を開催すれば、巨額の請求書をのちに押し付けられ、それを支払うのは東京都民であり、日本国に納税する私たちであると、再認識しよう。五輪後の「不正経理」問題は長野五輪で経験済みだ。

「企業の祭典」、「灼熱地獄の忍耐競争」、「ボランティアという名のタダ働き」、「綺麗ごとを並べる権力者の利権争い」……。薬物禁止のポスターではないが、「百害あって一利なしの東京五輪はやめましょう」


◎[参考動画]2020年夏季五輪開催都市 東京に決定(ANNnewsCH 2013/09/08)

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

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