◆昔は同一色

試合で使われるボクシンググローブ、昔は赤色(赤茶色のような深い朱色)グローブが主流。古くはもっとドス黒い赤紫色もあった。日本製(Winning社製)グローブを使用する日本のプロボクシングやキックボクシングはそれが普通だった。それしか無かったとも言える。それが今や外国製で何色も揃い特注も可能、グローブもファッション化してきた時代である。

新日本キックでは主にタイトルマッチで黒vs黒を採用した

モノクロでは明暗差のみ。色は分からない

◆色分け、なぜ始まったか

22~23年程前、取材で訪れたプロレス系の異種格闘技マッチで、両選手のグローブが赤と青に振り分けられていた。このシステムはK-1から真似したものだろうとは推測。

両者を見分け易いなと思ったが、すぐに違和感を覚えた。打撃競技で直接相手の顔面をヒットさせるグローブが、両者の色が違っては公平性は保たれていないではないかと思った。それは色彩によって心理的影響があると思ったからである。

それまでにアメリカ製、メキシコ製といった外国製は何色もあったと思うが、両者のグローブの色の振り分けすることは殆ど無かった。それがK-1から始まり、後にキックボクシング各団体が採用し始めた。更には、後発のイベントものの真似はしないだろうと思っていたプロボクシングも遅れて始まった。そんな疑問を当時のJBC役員に聞いて見たことがあった。

当然、色彩的影響も把握しているというもので、当初は振り分けは行なわなかったが、やっぱり見分け易いという意見が大半で採用に至ったようであった。

実際の試合で選手がそんなグローブの色で有利不利があるかと言えば、色の好み自体はあるだろうが、ほとんどの選手が気にしない、意識しないのだろう。

1990年代までは赤vs赤が主流

最近、リングサイド関係者の意見を10数名に聞いて見たが、「観客や審判団が見てもグローブの色が違うと両者を見分け易いと思う。」と語り、反対意見は一人も居なかった。

選手側の意見では、「最近のWOWOWエキサイトマッチを見ると試合は勿論ですが、グローブの色とメーカーをチェックしてしまいます。」といった声や、「相手の動きを見て戦うので、試合中にグローブの色は意識したことはないですが、タイの先輩トレーナーが、黒のグローブはパンチが見え難いという意見を聞いたことがあります。」といった声を聞くことができた。

これは世界的にも定着し、ムエタイに於いても定着してきた色分けシステムである。
大方の意見も試合に与える不利な影響は無いと考えられるが、さすがに白と黒の振り分けは明暗差が大き過ぎるので止めた方がいいかもしれないとは思う。

◆違和感持つ選手、プロモーターもいる

それでも業界の中には色の影響を察する選手やプロモーターも居たのも事実である。派手な色と地味な色のグローブが同等の強さとヒット数があった場合、審判(副審)から見て派手な色に意識が働くのではないか。それは見た目の判断より、潜在意識からくる錯覚。

また照明やリングマットの色によってグローブの色にも心理的に影響するのではないかといった総合的な不平等性を鑑み、グローブの紐を縛る手首部分に赤と青のテープで振り分ける対処をする団体やプロモーターが現れた。

ある総合格闘技系の試合で、両者同意の下、2色の好きな方のグローブを選べるルールの試合では、色彩による影響を考える選手は「青いマットのリングでは青のグローブを選ぶ。」という選手が居た。対戦相手から見れば多少でも見難くなる心理作戦であった。

現在の主流、両陣営コーナー色

現在、NJKF興行で採用されている赤と青はDONKAIDEE製

黄金色もあるWinning社製(画像提供:TEAM KOK代表 大嶋剛)

◆全身カラフルな時代

昔はトランクスの色を義務付け両者が振り分けられていた。しっかり徹底されていた訳ではないが、赤コーナーは赤系統と白、青コーナーは青系統と黒。しかし、トランクスも選手の希望するデザインが流行りだしたことで、次第に強制し難くなり、グローブの色分けは止むを得ないと改訂されてきたことも否めない。

昔は名前が売れていない前座の新人選手に対し、「赤パンツ頑張れ、青パンツガード上げろ!」といった声援もあったものだ。今や名前の縫い取り部分以外は赤地や青地、白地や黒地一色のトランクスが懐かしい。

更には「最近の派手派手なグローブに合わせて御洒落を施したトランクスは、観ている方はテンション上がって楽しい。」という意見もある。

グローブについては品質向上により各メーカーも黄金色、迷彩柄、スポンサーのロゴ入りなどデザイン化され多彩に進化してきた。魅せるファッションも重視されるような時代になったものである。

20年以上前に問題継起(新聞のコラムにも掲載)したこのグローブの色分け問題はより一層不要のものとなってきた。

前回の計量後のリカバリーに於いて、選手にとっていかに体力回復させるかのコンディション調整が一番で、グローブの色など些細なこと過ぎてどうでもいい話だろう。遠めの観客席から見ても分かりやすく、テレビ映りも良く、審判団から見ても誤審に繋がらない等の最もな意見で賛成者多数。

キックボクシングにとってもう一つ御洒落に魅せることが出来るものにアンクルサポーターがある(プロボクシングに於いてはボクシングシューズ)。これも派手派手なカラフルな色で登場した選手が居るが、更に髪型も拘ることが出来るアイテムで、今後も茶髪にギンギン色トランクス、ギラギラ色アンクルで登場する選手はいるだろう。戦後のプロボクシングから見れば派手な時代(良く言えば進化)となってしまった。時代の流れとは、ロートルの意見では止められない勢いがあるものなのである。

昔懐かしい昭和のWinning社製グローブ

▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]

フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」