ウィキペディアで調べものをしていたら、ある異変に気づいた。「検事総長」のページから、それまで記載されていた歴代検事総長たちの天下り先の企業名・団体名が丸ごと削除されていたのだ。

履歴表示を見ると、その削除が行なわれたのは10月1日18時46分のこと。削除を実行した人物のIPアドレスは、240f:6f:c6e8:1:bc91:7593:489b:f90eで、削除された文字数は3929文字に及ぶ。

この人物の素性は不明だが、いかがわしい事態であるのは間違いない。法務・検察のトップである歴代検事総長たちの天下り先は、検察が捜査や公判活動を適切に行っている否かを見極めるのに有用な公益性の高い情報だからだ。

ウイキペディア「検事総長」のページの編集の履歴。右の状態から、歴代検事総長の天下り先の情報が丸ごと削除され、左の状態になっていた

◆検事総長の天下り先は公益性の高い情報である理由

たとえば、関西電力の歴代役員が、同社の原発が立地する福井県高浜町の元助役から金品を受け取っていた「原発マネー還流問題」。この問題では、多数の市民が金品を受け取っていた関電の歴代役員を大阪地検に刑事告発したが、地検はなかなか告発状を受理しようとしなかった。

このことが公正か否かを見極めるに際し、この問題が発覚する以前、元検事総長の土肥孝治氏が長く同社の監査役を務めていたという情報は重要な判断材料だ。そのことは論を待たないだろう。

また、2015年に東芝が2000億円超の粉飾決算をしていたことが発覚した際、「なぜ、東芝に東京地検特捜部の捜査のメスが入らないのか?」と疑問を口にした人は多かった。そういう人たちにとって、元検事総長の筧栄一氏が同社で監査役や取締役を務めていたことは見過ごせない情報であるはずだ。

そして忘れてはいけないのが、旧通産省工業技術院の元院長・飯塚幸三氏が“上級国民”であるために逮捕を免れた疑いを抱かれ、国民的バッシングを受けている池袋暴走事故だ。

「暴走したのは、乗っていた車(トヨトのプリウス)の不具合のせいだ」

飯塚氏が裁判でそう主張し、無罪判決を求めているのに対し、実は飯塚氏の主張を否定し、有罪を立証しようとしている検察からは岡村泰孝氏、松尾邦弘氏、小津博司氏…と歴代検事総長たちがトヨタに絶えることなく監査役として天下っている。この事実を知ると、事件の見え方が多少なりとも違ってくるだろう。

ウィキペディアの情報は正確性に問題があるのは確かだ。それでも最初にウィキペディアで情報を入手し、それから他の資料で裏付けをとるのは効率的な調べもののやり方だ。筆者自身、これまで「検事総長」のページに出ている歴代検事総長たちの天下り先の情報を糸口に、取材や検証を進めたことは何度もある。それが削除されたら、歴代検事総長の天下り先を調べられなくなるわけではないが、関連する問題を見過ごすことは増えるかもしれない。

現時点で深読みし過ぎると、陰謀論のような話になってしまうので控えるが、いかがわしい事態であるのは確かだ。今後、また何か有意な発見があれば当欄で報告したい。

▼片岡健(かたおか けん)
全国各地で新旧様々な事件を取材している。創業した一人出版社リミアンドテッドから新刊『もう一つの重罪 桶川ストーカー殺人事件「実行犯」告白手記』(著者・久保田祥史)を発行。

月刊『紙の爆弾』2021年1月号 菅首相を動かす「影の総理大臣」他

「絶望の牢獄から無実を叫ぶ ―冤罪死刑囚八人の書画集―」(片岡健編/鹿砦社)