◆カルロス・ゴーン逃亡で明けた2020年

2020年最大の話題として、やはり新型コロナウイルス(COVID-19)をはずすわけにはゆかないだろう。ことしはカルロス・ゴーン被告がレバノンへ逃亡した事件で幕を開けたが、あの事件は何年も昔の出来事のようにさえ感じる。思えばあの時期すでに中国から日本へ「先発隊」は飛んできていたのだろう。


◎[参考動画]「ゴーン被告を引き渡さない」レバノン強硬姿勢のワケ(FNN 2020年1月8日)

◆完全に後手に回った日本政府の対策

日本政府の対応は、完全に後手に回った。欧州での感染爆発が伝えられても、当初、国会審議中に議員はおろか閣僚の誰一人としてマスクを着用しておらず、民間人のほうが危機に対しての感応が早かった。どうしようもなくなった安倍政権は「緊急事態宣言」を発することになる。安倍の頭のなかには「うまくゆけば緊急事態宣言の実績を謳いながら、憲法改正案に『緊急事態条項』を潜り込ませることを容易にしよう」とのよこしまな考えがあったことだろう。


◎[参考動画]安倍総理「憲法論争に終止符」憲法改正に強い意欲(ANN 2020年1月17日)

安倍は国民の生命・財産・健康などにはまったく興味はなく、もっぱらみずからの〈成功〉(実は客観的にはまったく成功ではないのだが)を過剰に称揚したがる性癖の強い、低能な政治家だ。第一波が一応の落ち着きを見せた時には「日本モデルが勝利した」などと自画自賛に余念がなかったけれども、安倍の行った他国と異なる政策といえば、子供用としか思えない「アベノマスク」を全戸配布するという、素っ頓狂な行為だけであった。

これとて「中抜き」業者が利益を得る仕組みが稼働することが目論見であり、同様の「中抜き」業者が利益を得る仕組みの政策は「Go To トラベル」にも共通している。感染の可能な限りの抑え込みではなく、世界的なパンデミックに直面しても、相変わらず一部業者の利益誘導を優先していたことを、私たちは忘れてはならない。

「安倍政権を継承する」と明言し登場した菅のみっともなさは、官房長官時代の「ふてぶてしさ」とうってかわって「惨憺」の一言に尽きる。安倍を私は何度も「低能」・「原稿がないとスピーチや答弁ができない」と批判してきたが、菅のみっともなさは、まさしく「安倍の継承」にふさわしい。会食の自粛を呼びかけ、「Go Toトラベル」の一時運用停止を発表した足で、みのもんたや王貞治らとの会食に出かけたニュースを耳にした世論は、さすがに菅の態度に内閣発足以来最低の支持率39%を突きつけた。そして国民あげての批判に対しても、加藤官房長官は「総理はこれまで通り、いろいろな意見を伺うために会食は続けてゆく」と開き直っている。


◎[参考動画]「大声上げない」“成功のカギ”!?海外で注目「日本モデル」(FNN 2020年5月26日)

◆倒錯しているかのような光景 ── 感染拡大に無神経になったひとびと

12月に入り、毎日のように過去最高の感染者・重症者数が報じられる中、都市部での人出は、むしろ増えているそうだ。2011年に福島第一原発が大事故をおこしたあと「直ちに健康に影響はない」と当時官房長官だった枝野が連呼しても、福島はもちろん関東あたりの人々の中には、恐怖や警戒が数年は持続したように感じる。

ところが今次の新型コロナウイルス感染爆発に対しては「緊急事態宣言」が発せられたとき、「ここは別世界ではないか」と思わされるように人影が消え、パチンコ店には「自粛警察」(!)が営業妨害に訪れたあの光景と、まったく異なる様相がわずかあれから半年ほどのいま、12月後半に展開されている。


◎[参考動画]安倍総理 緊急事態宣言の全国拡大で記者会見(テレビ東京 2020年4月17日)

「緊急事態」の響きに市民は誠に忠実であった。当時わたしは自宅から京都のかかりつけのクリニックへ通院のために自家用車で出かけたが、京都市内にはまったくと言ってよいほどに自家用車は走っておらず、もちろん旅行者の姿はなかった。コロナウイルスに対する恐怖はもちろんであるが、日本人のこの徹底的といってもよいほどの「緊急事態宣言」に対する素直な姿勢に、正直言えば、少々気持ち悪さを感じた。

よその国がどうであるかどうか、は問題ではない。日本政府は明らかに感染封じ込めに対して無能であったし、むしろ感染を拡大させる「Go To」なる愚策を「経済政策」と称して実施し、案の定感染は拡大した。様々な業種の方々が、事業を断念したりギリギリの経営状態で踏みとどまっている。ことに個人経営の事業主の方々は想像を絶する苦境に置かれている。その一方でバブル以降株価が最高値を記録している現象は、どこかおかしくはないか。


◎[参考動画]株価一時500円高 バブル後の最高値を2日連続更新(ANN 2020年11月25日)

◆コロナ禍から学ぶものがあるとすれば

つまり、世界に広がる感染拡大の中で、日本においてはまことに不可思議な、本来両立しえない、あるいは背反するはずの諸現象が同時に、あたかも整合性があるかのごとく成立している。国策だけではなく、地方行政や企業の態度から個人の行動に至るまで、論理性や一貫性を大きく欠いた日常が常態化してきているのではないだろうか。

書籍に記録は残っていても、今を生きる人類の誰一人経験したことのない世界的感染拡大の中で、平時には気づくことが難しい特定集団の持つ、行動様式や思考傾向が表出している。むしろその中にこそ分析や研究の対象とすべき「核」のようなものがあるのではないだろうか。2020年われわれが得たものがあるとすればそれに尽きるような気がする。

本年もデジタル鹿砦社通信をご愛読いただきまして、誠にありがとうございました。困難が予想されますが、2021年が読者の皆様にとって幸多き年となりますよう祈念いたします。


◎[参考動画]全世帯へ布マスク2枚ずつ配布へ 安倍総理発言全編(ANN 2020年4月1日)

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

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