先日、テレビで未解決事件の特集をやっていて、京都精華大学生通り魔殺人事件も取り上げられていた。私はこの事件について、数年前、公開されている情報をもとに現地を取材したことがある。「犯人像」について確信に近い思いを抱いていることがあるので、ここに記しておきたい。

◆何より重要な情報はママチャリ

この事件が起きたのは、2007年1月15日夜7時45分頃だった。京都精華大学1年生、千葉大作さん(事件当時20歳)が自転車で帰宅中、京都市左京区岩倉幡枝町の歩道上で見知らぬ男とトラブルになり、刃物で刺され、亡くなった。

目撃情報によると、犯人は年齢が20~30歳、身長は170~180センチ、髪はセンター分けだがボサボサ。服装は黒色ジャンパーに黒色のズボン、登山靴のようなものを履いており、いわゆる「ママチャリ」と呼ばれる婦人用の自転車に乗っていた。顔や上半身を左右に振り、言葉尻に「アホ、ボケ」を連発し、目の焦点が合っていない人物だったという。

以上のことは京都府警がホームページで公開している情報に基づくが、私が何より重要な情報として注目しているのは、犯人がママチャリに乗っていたということだ。

◆犯人は遠方からやってきた可能性

というのも、犯人の移動手段がママチャリであれば、普通は近隣に住んでいる人物だ。したがって警察も当然、近隣の不審な人物はしらみつぶしに調べているはずだ。それでもなお、犯人の検挙に至らないのはなぜなのか。それはつまり、犯人は遠方からやって来た可能性があるからにほかならない。

実際、現場の道路は車通りの多い幹線通り沿いの歩道で、この道は東方に進めば滋賀県や東海地方に、西方に進めば福井県に通じている。何十キロとか何百キロ離れた場所で暮らす犯人が何かのきっかけでママチャリでの大遠征を思い立って移動中、通りかかってもおかしくないような場所なのだ。

現場は幹線沿いの歩道。犯人はママチャリで遠方からやって来た可能性も……

◆犯人の検挙に13年半を擁した事件との複数の共通点

私がそのような推測をする理由は、実は似た前例があるからでもある。当欄で昨年、犯人の裁判員裁判の傍聴記を書かせてもらった広島県の廿日市女子高生殺害事件だ。

この事件も2004年の発生当初、被害者の北口聡美さん(事件当時17歳)が自宅敷地内の離れで殺害されていたことなどから、犯人は顔見知りの人間である可能性が高いように思われていた。しかし発生から13年半が過ぎ、ようやく検挙された犯人の鹿嶋学(検挙当時35)は、隣県の山口県で暮らしており、北口さんとはアカの他人だった。

鹿嶋本人の公判証言によると、朝寝坊で仕事を遅刻しそうになった鹿嶋は、やけになって原付バイクで東京に行こうと考えて移動中、「セックスをしたい」と思い立ち、犯行を決意したという。そして路上で見かけた北口さんを家までつけ、自宅敷地内の離れの部屋にいたところを襲おうとしたが、逃げられて逆上し、持っていたナイフで何度も刺したとのことだった。

ちなみに鹿嶋が持っていたナイフは、東京に行く途中に野宿する予定だったため「ナイフがあればどうにかなる」と考えて購入したものだったという。

千葉さんが殺害された事件とこの広島の事件では、現場が幹線道路沿いであることや犯人の移動手段が「遠方からやって来たとは考え難い乗り物」であることが共通している。千葉さんを殺害した犯人は事前に計画して犯行に及んだとは思い難いため、「なぜナイフを持っていたのか?」も謎の1つだが、鹿嶋のような考えからナイフを所持していた可能性を考えてみることもできる。

いずれにせよ、千葉さんを殺害した犯人は、犯行時の言動からして異常な人格であることは動かし難い。犯行に及んだ経緯なども常識にかからないものである可能性は想定したほうがいいだろう。

▼片岡 健(かたおか けん)
ノンフィクションライター。編著に『もう一つの重罪 桶川ストーカー殺人事件「実行犯」告白手記』(著者・久保田祥史、発行元・リミアンドテッド)など。

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